第5回(2007.05.11) 「プロジェクトマネジメントを楽しむ」 その5
仕事を減らす楽しみを覚えよう(2)
渡辺 貢成
 kosei.watanabe@sweet.ocn.ne.jp
(有)経営組織研究所

◆ 第5回「仕事を減らす楽しみを覚えよう」(2)
前回は「頼まれた仕事は小さくともプロジェクトと考える。そして仕事には必ず「使命・目的・目標」があるから、それを紙に書いてみる習慣をつける。この三つから外れた仕事は減らす対象になることを考えようという事例を説明した。

今回は「他人の時間を使って自分の仕事を減らす手法を覚えよう」である。これは最も簡単でありながら、一般人があまりやりたがらない方法である。何故か考えてみよう。これは通称「権限委譲の手法」という。
社会では「権限を委譲せよ」と種々の本に書いてあり、教育の講師は口うるさく教えているが、実行されない。実行されないから本が売れるのであり、講師が存在する。現実は「権限を委譲する」と自分の地位が脅かされるからである。最も忠実に実行しない人が社長さんである。

しかし、この考えは小さい人間のすることである。上司が権限を部下に委譲したとしても実は責任を委譲したわけではない。大切なのは責任で権限ではないからである。責任には実力が必要だからである。それが証拠に部下に権限を委譲しても、お客さんは上司に責任を求めているから地位は安泰である。

皆さんの地位は権限を委譲しても安泰であることを理解した。安心したところで「委譲の仕方」を説明する。これも至って簡単である。人間は経験しないことは理解できない動物だから、地位の安泰な人は失敗を恐れずに新しいことを率先して引き受ける。そこで小さな失敗をする。大きな失敗はダメージが大きいから、リスクマネジメントはしっかり考える。小さな失敗をすることで、初めて人に教えることができる。そこで今回経験した仕事を順序立て(プロセス化して)誰もが実行できる形で書き残す。マニュアルつきで権限を委譲することが大切である。大切なわけを話す。人は経験したことを整理し、人が理解できる形にしたとき、その人の経験が実力に変化するからである。人に教えるためには経験プラス論理が要求される。ここで経験が形式化され、本人のレベルが1ランク上がる。自己の経験を100個以上形式化できればそれはプロフェッショナルであり、顧客が信頼してくれるレベルに到達できる。文章化されていることで、あなたの財産になる。この結果権限を委譲しても決して地位は脅かされることはないことをお知らせする。

さて、話を進める。24時間しかない自分の時間を大切に使うには、人の時間を借りることになる。とすると人が喜んでくれる方法で時間を拝借するのが好ましい。自分は既に経験したが、部下が経験しないことをやらせる。彼が逡巡したらマニュアル(プラクティス)をみせ、私が責任とるからこれで工夫をしてごらん、とマニュアルを渡す。マネジャーは間違いなく暇ができる。マネジャーは浮いた時間で顧客のキーパーソンを自分につなぎとめておく仕事をする。顧客の意図を確実につかんでおくと、失敗はないし、部下は上司を信頼し、なおかつ「上司に勝てない」と感じる。

話をPMにもどす。プロジェクトには必ず成功するポイントがある。プロジェクトマネジャーはこのポイントさえ抑えていれば、後は権限を委譲しても責任を取らされるような大きな失敗はしない。「パレートの法則」というものがある。イタリアの社会経済学者パレートの法則である。「地域の20%の人が、地域の80%の収入を得ている」という20%・80%の法則を編み出した。これをPMに移すと「構想計画はプロジェクトで消費されるマンアワーの20%の時間でプロジェクト成功要因を固めることで、80%の潜在的な成功を勝ち取ることができる。PMBOK以降の業務は80%の時間を使って残りの20%の成功を獲得することを意味する」となる。米国ではPMBOK以前の構想計画は経営管理者の仕事で、既に構想計画終了後のプロジェクトを実施するのがプロジェクトマネジャーの役割とされている。

話を現実にもどし、ネガティブな話をする。現実の厳しさである。幸か不幸か、日本では構想計画をおろそかにする習慣がある。日本の経営管理者は長年先進国の成功事例を真似すればその任務を果たせた。そのため構想計画を実施することが経営管理者の任務と考えていない。その実例がITプロジェクトである。顧客は構想計画を行わずに「情報化プロジェクト」を発注する。自分が何をやりたいのかよくわからないがIT化することが目的となっている。業者も「ハイ、私どもはソリューションベンダーです。何でも解決いたします」と営業は引き受けてくる。現実は構想計画の20%を惜しんで、160%の労力を使ってプロジェクトを完成させている。発注者も受注者も全く矛盾を感じていない商習慣が出来上がっている。でもこの「ツケ」は確実にプロジェクト担当者にのしかかってくる。これでは楽しいPMはできない。プロジェクトを楽しくするためにこの悪夢から早く脱出したいものである。

現実を覗いたが、社会は常に進歩している。めげずにまずP2Mを勉強することをお勧めする。構想計画を勉強するとあなたの仕事の楽しさは増すに違いない。

次回はプロジェクトを更に楽しむために、大きなところから眺め、将来展望をしてみたい。その後実践的な課題に再度挑戦する。

                                                                            以上

  
プロジェクトマネジメントを楽しむ バックナンバー
第1回 プロジェクトを楽しむには多くの仕掛けがいる
第2回 PMを楽しむ仕掛けは時間が生み出す
第3回 基礎をしらないとPMは楽しくならない
第4回 仕事を減らす楽しみを覚えよう   (2)  (3)

第7回 行動の中から楽しみを生み出そう(1)
第8回 行動を頭に合わせよう(2)
第9回 行動を頭に合わせよう(3)
第10回 目的があって仕事がある(1)   (2)   (3)

第13回 日本の『現場力』を再度強化しよう(1) 
  (2)   (3)  (4)  (5)  (6)  (7)  (8)  (9)  (10)

第23回 「何か変だな」(1)〜「お客様は神様か?」
第24回 「何か変だな」(2)〜「頭を使う人々が、(生産性に)頭を使わないのはなぜ?」
第25回 「何か変だな」(3)〜「問題と課題の違いがわかるかな?」
第26回 「何か変だな」(4)〜「資格を取っても役に立たない?」
第27回 「何か変だな」(5)〜「「物事」とは何か?」
第28回 「何か変だな」(6)〜「タテマエとホンネ」とは何か?
第29回 「何か変だな」(7)〜「カタカナ言葉と漢字」
第30回 「何か変だな」(8)〜「これからは日本の時代って本当?」
第31回 「何か変だな」(9)〜「ものづくりは技術が基盤って本当?」
第32回 「何か変だな」(10)〜「サービスはタダか、サービスはマネーか?」
第33回 「何か変だな」(11)〜「少子化問題と一人っ子政策の討論」
第34回 「何か変だな」(12)〜「何か変だな!講演会」
第35回 「何か変だな」(13)〜「何か変だな!講演会2」
第36回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(1)〜PMOに消火活動チームの設置
第37回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(2)〜働く女性のために小学校の低学年児童の居残りは学校が面倒を見たら!
第38回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(3)〜アイデアは出すことより、実行+が難しい。実行が難しいから、皆考えなくなる
第39回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(4)〜How to の時代からWhat toへの転換
  (5)  (6)  (7)  (8)  (9)  (10)  (11)  (12)  (13)  (14)  (15)

第51回 「プロジェクトを実践して楽しもう!」(1)〜What toからHow to enjoy project managementへの転換
第52回 「プロジェクトを実践して楽しもう!」(2)―緊急時の対策― 〜What toからHow to enjoy project managementへの転換
  (3)  (4)  (5)  (6)  (7)

第58回 「プロジェクトを実践して楽しもう!」―情報を活用する能力(1)―〜What toからHow to enjoy project managementへの転換
  (2)  (3)  (4)  (5)

第63回 「世界が変化している。原理・原則を知って変化に対応しよう」―ビジネスの基本に戻ろう(1)― −変わる基本、変わらぬ基本の理解−
  (2)  (3)  (4)  (5)  (6)  (7)  (8)  (9)  (10)  (11)  (12)

第75回 「世界が変化している中で、日本人は自分のことをよく知っているのか」―勉強をしたバカとは何か勉強しよう(1)― 
  (2)  (3)  (4)  (5)  (6)   (7)   (8)  (9)  (10) (11)   (12)

第87回 “想定外”と“ゼロベース発想”−(1)
  (2)   (3)  (4)  (5)     (6)   (7)    (8)   (9)    (10)  (11)   (12)  

第99回 「日本人がグローバリゼーション下で勝ち抜くための発想転換」―グローバル市場で“勝ち抜くための戦略”−(1)
  (2)     (3)   (4)    (5)   (6)   (7)    (8)   (9)   (10)    (11)   (12)   (13)   (14)  
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