第78回(2013.07.12) 「プロジェクトマネジメントを楽しむ」 その78
「世界が変化している中で、日本人は自分のことをよく知っているのか」
―勉強をしたバカとは何か勉強しよう(4)―

渡辺 貢成
 kosei.watanabe@sweet.ocn.ne.jp
(有)経営組織研究所

「世界が変化している中で、日本人は自分のことをよく知っているのか」―
−勉強をしたバカとは何か勉強しよう−(1)
−勉強をしたバカとは何か勉強しよう−(2)
−勉強をしたバカとは何か勉強しよう−(3)

A.先月号に引き続き、千葉県生涯大学校の話をさせてもらう。
この講座は地域活動家への講座であるが、まずグローバリゼーションのなかでの日本の現状を話した。大変厳しい状況である。しかし、残念ながらエリート層(官庁、大企業経営者、学者)がグローバリゼーションを未だに理解せず、二つの価値観で行動している。第一の価値観は米国経営の模倣である。「アメリカ出羽の守」と言われるアメリカ方式を求めていることだ。経営のIT化がそれに当てはまる。米国産のソリューションパッケージを導入しているが、経営効果がでていない。第二の価値観は「モノづくり技術」である。日本企業の戦略は「品質が優れていれば世界中どこでも売れる」というものである。この価値観はグローバリゼーション以前の価値観であるが、彼らには成功経験しか信じられない欠陥がある。

これに反し、賢い韓国の経営者はグローバリゼーションの本質(リスクは大きいが、発展性の大きな新興国市場の出現)にいち早く気がつき、多くの社員を新興国に派遣し、努力して新興国の消費者の潜在ニーズを掴み取ることで顧客関係性をつくり上げた。「モノづくりの価値は顧客が決める」を信念に、「手間と金のかかる技術開発を自らは行わず、日本の技術を活用し、不要機能を削除し、地域消費者の潜在ニーズを取り込み、低価格商品を競合者より早く提供すること」で勝利を勝ち取っている。
顧客と言う上位概念を取り込んだ韓国企業と「モノづくり技術」という成功体験を死守する日本企業の戦略が勝負を決定付けた。これは日本の経営者が勉強した戦略をグローバル市場共通に適用し、韓国の経営者はローカルに最適な戦略を採用した差である。どちらが『典型的な勉強したバカ』か、懸命な読者ならお分かりと思う。

話を千葉県の生涯大学校の講座に戻す。「日本人は東日本大震災の最中に、思いやりのあるコミュニティ活動をした。この行動に世界中が賞賛した。世界は日本人が行う復興予算とその後の活動に期待し、日本株を買った。しかし、役所や政治家が参加し始めると世界の期待とは裏腹に「ハコモノ行政」が復活し、新らしい復興ビジョンが消え、復興活動も停滞しはじめた。

「さて、地域活動専門家の皆さん。この事態に対し、あなた方なら何をするか考えて欲しい。私の講義は『考えるPM』:何をするかを考えるプログラムマネジメント、目標が決まったら如何に効率よく目標を達成するかを考えるプロジェクトマネジメントです。プログラム&プロジェクトマネジメント(P2M)を習って、次週の講座までにコミュニティ活動をどうすると良いか考えてきてください」と依頼した。

D.地域活動家は難しいP2Mの話を理解しましたか。

A.君、鋭い質問をするね。実のところ協会の担当者から出来るだけやさしく、多く話さないで下さいと念を押されていてね。そこで受講者の理解度を確かめながらやさしく講義を進めた。気がついたら2時間の話が1時間で終わってしまった。

D.困ったでしょう。どうしました。

A.困ったが「この講座は難しいので時間をかけて進めるが、今日の受講者は理解力がいいので、話しがはずんで、気がついたら終わってしまった。皆さんは理解力が高いので聞きたいことがたくさんあるでしょう。講義より質問が役に立ちます。たっぷり1時間あるから何でもいいから質問してください」と頼んだ。

D.受講生の反応はどうでしたか。日本人は質問しないからどうでした。

A.私の困った姿を想像し、意地の悪い質問をしたな。彼らは講座の始める前に、生涯大学校の校歌を大声で歌って、リラックスして講義を聴いているから全く心配はなかった。
通常の講義と違って質疑では双方がリラックスしており、ジョークが理解される環境が出来上がっていてね、大成功だった。
PM講座でよかったのは、受講者から「私がPDCA(マネジメントサイクル)を的確に実行してきました。誰からも評価されなかったのですが、PDCAがPMのベースになり、成功に貢献している話で勇気付けられました」というコメント。
女性の質問に対し、「日本の女性のレベルの高さ(米国女性と比較して)の話、アルジェ人質事件後、仕事の継続をいち早く発表した日揮の決断の速さへの質疑が受講生に受けたようだ。

E.人質事件の話は興味がありますね。

A.来月はグローバルビジネスにおけるリスクとしての人質問題とコミュニティのあり方の話を約束しよう。


以上


プロジェクトマネジメントを楽しむ バックナンバー
第1回 プロジェクトを楽しむには多くの仕掛けがいる
第2回 PMを楽しむ仕掛けは時間が生み出す
第3回 基礎をしらないとPMは楽しくならない
第4回 仕事を減らす楽しみを覚えよう   (2)  (3)


第7回 行動の中から楽しみを生み出そう(1)
第8回 行動を頭に合わせよう(2)
第9回 行動を頭に合わせよう(3)
第10回 目的があって仕事がある(1)   (2)   (3)

第13回 日本の『現場力』を再度強化しよう(1)
 
  (2)   (3)  (4)  (5)  (6)  (7)  (8)  (9)  (10)

第23回 「何か変だな」(1)〜「お客様は神様か?」
第24回 「何か変だな」(2)〜「頭を使う人々が、(生産性に)頭を使わないのはなぜ?」
第25回 「何か変だな」(3)〜「問題と課題の違いがわかるかな?」
第26回 「何か変だな」(4)〜「資格を取っても役に立たない?」
第27回 「何か変だな」(5)〜「「物事」とは何か?」
第28回 「何か変だな」(6)〜「タテマエとホンネ」とは何か?
第29回 「何か変だな」(7)〜「カタカナ言葉と漢字」
第30回 「何か変だな」(8)〜「これからは日本の時代って本当?」
第31回 「何か変だな」(9)〜「ものづくりは技術が基盤って本当?」
第32回 「何か変だな」(10)〜「サービスはタダか、サービスはマネーか?」
第33回 「何か変だな」(11)〜「少子化問題と一人っ子政策の討論」
第34回 「何か変だな」(12)〜「何か変だな!講演会」
第35回 「何か変だな」(13)〜「何か変だな!講演会2」
第36回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(1)〜PMOに消火活動チームの設置
第37回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(2)〜働く女性のために小学校の低学年児童の居残りは学校が面倒を見たら!
第38回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(3)〜アイデアは出すことより、実行+が難しい。実行が難しいから、皆考えなくなる
第39回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(4)〜How to の時代からWhat toへの転換
  (5)  (6)  (7)  (8)  (9)  (10)  (11)  (12)  (13)  (14)  (15)

第51回 「プロジェクトを実践して楽しもう!」(1)〜What toからHow to enjoy project managementへの転換
第52回 「プロジェクトを実践して楽しもう!」(2)―緊急時の対策― 〜What toからHow to enjoy project managementへの転換
  (3)  (4)  (5)  (6)  (7)

第58回 「プロジェクトを実践して楽しもう!」―情報を活用する能力(1)―〜What toからHow to enjoy project managementへの転換
  (2)  (3)  (4)  (5)

第63回 「世界が変化している。原理・原則を知って変化に対応しよう」―ビジネスの基本に戻ろう(1)― −変わる基本、変わらぬ基本の理解−
  (2)  (3)  (4)  (5)  (6)  (7)  (8)  (9)  (10)  (11)  (12)

第75回 「世界が変化している中で、日本人は自分のことをよく知っているのか」―勉強をしたバカとは何か勉強しよう(1)― 
  (2)  (3)  (4)  (5)   (6)   (7)   (8)  (9)  (10) (11)   (12)

第87回 “想定外”と“ゼロベース発想”−(1)
  (2)   (3)  (4)   (5)     (6)   (7)    (8)   (9)    (10)  (11)   (12)  

第99回 「日本人がグローバリゼーション下で勝ち抜くための発想転換」―グローバル市場で“勝ち抜くための戦略”−(1)

第159回 「日本人がグローバリゼーション下で勝ち抜くための発想転換」(73)―日本がグローバル市場で勝ち抜くためへの反省と提案−(1)

 
一覧に戻る
スポンサードリンク
読者からのコメント

■本稿に対するご意見,ご感想をお聞かせください.■

は必須入力です
コメント
自由にご記入ください

■氏名またはハンドル名
■会社名または職業
■年齢

  
このコンテンツは「プロジェクトマネージャー養成マガジン」としてメルマガで配信されています.メルマガの登録はこちらからできます.