第84回(2014.01.17) 「プロジェクトマネジメントを楽しむ」 その84
「世界が変化している中で、日本人は自分のことをよく知っているのか」
―勉強をしたバカとは何か勉強しよう(10)―

渡辺 貢成
 kosei.watanabe@sweet.ocn.ne.jp
(有)経営組織研究所

「世界が変化している中で、日本人は自分のことをよく知っているのか」―
−勉強をしたバカとは何か勉強しよう−(1)
−勉強をしたバカとは何か勉強しよう−(2)
−勉強をしたバカとは何か勉強しよう−(3)
−勉強をしたバカとは何か勉強しよう−(4)
−勉強をしたバカとは何か勉強しよう−(5)
−勉強をしたバカとは何か勉強しよう−(6)
−勉強をしたバカとは何か勉強しよう−(7)
−勉強をしたバカとは何か勉強しよう−(8)
−勉強をしたバカとは何か勉強しよう−(9)

A.今月は各人からのコメントだったな。

B.先生、私が先頭を切ってコメントします。
アベノミクスの中に農業を成長産業として取り上げています。内容が不明ですが、この点で重要な情報をお知らせします。

ご存知と思いますが、皆さん方にお話ししたいのはオランダ農業です。日本より国土が小さいが農業輸出は世界第2位です。日本とオランダの農業政策の相違を話します。第一にオランダは農業を企業化し、水耕農業にIT技術を併用し、エネルギー節約型のスマート農業を完成しました。同時にオランダは多くの若い人々に農業で働く場所を与え、将来の発展を期待し、農民ではなく、高レベル農業生産技術者を育成しました。第二の相違は官のコラボレーションです。日本でいえば農水省と経済産業省が一体となって農業支援です。かわった取り組みは工場排気からの炭酸ガスを地下配管で農業ハウスに供給し、炭酸ガスという産業廃棄物の有効活用で地球温暖化防止に貢献しています。

更に重要なお話をします。オランダは中国の広大な土地に目を付け、中国との合弁会社で農業物増産の政策を進めています。これが成功すると中国製造業のEMS(大量生産化工場)化が日本製造業に与えたダメージと同様に、農業でも中国での低コスト量産化が容易となり、アベノミクス農業に大きな影響を与えます。

C.分かりました。日本はこの対策をどうするかという前に、日本の農業政策の経緯についてお話します。日本の農業は戦後、GHQ(米国占領軍)命令で小作農民に農地を分け与え、小規模農家が出現しました。戦後の農水省の政策は、まず米の増産です。この弱小農民の活性化を考え、農業共同組合(現JA)をつくり、農民への農業指導や、肥料、耕運機購入のための補助金を、JAを通じて提供しました。また、農民保護のため、企業の参入、農地の売買も実質的に禁じられました。

B.農水省はこの政策を60年間も継続しています。そのため小規模農業で生産性の悪さから収益が少なく、農家を継ぐ子供がいなくなり、現在農家の70%以上が65歳以上です。程なく日本に農家がなくなります。これは農業政策の誤りではないですか。このような政策を継続した官僚は知識の高い高偏差値エリートですが、いわゆる「勉強したバカ」に分類できますね。

D.Bさん、結果的にはその通りですが、これはドラッカー博士も感心した日本官僚の高等戦略で、その説明をします。

@何処の国でも、農業の生産性を落とさずに農民を減らす政策で苦労している。米国はあらゆる困難を農業技術の開発と大規模農業で生産量世界一を保ちながら農民の削減に成功した。
Aこれに引き換え日本は政策の転換を図らず、60%の農民人口を10%以下にした。私(ドラッカー)は日本官僚の「先送り政策」を馬鹿にしていたが、この成功は特筆に価する。

B.それでは農水省官僚は「勉強したバカ」というわけではないのですね。

D.ただし、ドラッカーは最後に一言追加しました。米国はこの60年間を通じて、常に世界一の農業大国を維持したが、日本農業は滅亡に近いと。

B.それでは「勉強したバカ」ではないですか。

D.それは経済政策を農業だけに絞った話です。視点を変えて見ましょう。本政策は日本製造業の高度成長に大きく貢献しました。高度成長の担い手は農家の若者でした。そして農家の若者を高レベル人材にまで育成しました。言い換えると日本の(人的)資産の増加への貢献です。耕運機への補助は農家の人手減らしに貢献し、兼業農家が増え、日本中の農家が豊かになり、農家に貢献しました。この結果自動車、家電製品等の国内大量生産基盤構築に貢献しました。これは通産省への貢献です。まだあります。実は農家への補助金は自民党の票田として、自民党政権の長期安定化に寄与し、日本経済の発展に貢献しました。

B.農家への貢献は一時的なもので、農民がいなくなる昨今では長期的に農水省にとってメリットがあったといえませんね。

D.よく聞いてくれました。農水省は大蔵省、通産省と比べると偏差値が劣るかも知れませんが、「勉強した知恵者」がおりました。彼らの戦略は政府、産・学・官、国民の知らないところで偉大な成果を農水省にもたらしました。

A.面白そうな話だな。是非聞きたいな。ここでストップするのは読者に対し失礼だが、来月のお楽しみが増えたとしよう。皆も農水省の知恵とは何か、考えてきてほしい。このエッセイはすばらしいワークショップになってきた。君達が「勉強したバカ」か、天才か、来月には君達の頭脳レベルが判然とするだろう。


以上


プロジェクトマネジメントを楽しむ バックナンバー
第1回 プロジェクトを楽しむには多くの仕掛けがいる
第2回 PMを楽しむ仕掛けは時間が生み出す
第3回 基礎をしらないとPMは楽しくならない
第4回 仕事を減らす楽しみを覚えよう   (2)  (3)


第7回 行動の中から楽しみを生み出そう(1)
第8回 行動を頭に合わせよう(2)
第9回 行動を頭に合わせよう(3)
第10回 目的があって仕事がある(1)   (2)   (3)

第13回 日本の『現場力』を再度強化しよう(1)
 
  (2)   (3)  (4)  (5)  (6)  (7)  (8)  (9)  (10)

第23回 「何か変だな」(1)〜「お客様は神様か?」
第24回 「何か変だな」(2)〜「頭を使う人々が、(生産性に)頭を使わないのはなぜ?」
第25回 「何か変だな」(3)〜「問題と課題の違いがわかるかな?」
第26回 「何か変だな」(4)〜「資格を取っても役に立たない?」
第27回 「何か変だな」(5)〜「「物事」とは何か?」
第28回 「何か変だな」(6)〜「タテマエとホンネ」とは何か?
第29回 「何か変だな」(7)〜「カタカナ言葉と漢字」
第30回 「何か変だな」(8)〜「これからは日本の時代って本当?」
第31回 「何か変だな」(9)〜「ものづくりは技術が基盤って本当?」
第32回 「何か変だな」(10)〜「サービスはタダか、サービスはマネーか?」
第33回 「何か変だな」(11)〜「少子化問題と一人っ子政策の討論」
第34回 「何か変だな」(12)〜「何か変だな!講演会」
第35回 「何か変だな」(13)〜「何か変だな!講演会2」
第36回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(1)〜PMOに消火活動チームの設置
第37回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(2)〜働く女性のために小学校の低学年児童の居残りは学校が面倒を見たら!
第38回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(3)〜アイデアは出すことより、実行+が難しい。実行が難しいから、皆考えなくなる
第39回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(4)〜How to の時代からWhat toへの転換
  (5)  (6)  (7)  (8)  (9)  (10)  (11)  (12)  (13)  (14)  (15)

第51回 「プロジェクトを実践して楽しもう!」(1)〜What toからHow to enjoy project managementへの転換
第52回 「プロジェクトを実践して楽しもう!」(2)―緊急時の対策― 〜What toからHow to enjoy project managementへの転換
  (3)  (4)  (5)  (6)  (7)

第58回 「プロジェクトを実践して楽しもう!」―情報を活用する能力(1)―〜What toからHow to enjoy project managementへの転換
  (2)  (3)  (4)  (5)

第63回 「世界が変化している。原理・原則を知って変化に対応しよう」―ビジネスの基本に戻ろう(1)― −変わる基本、変わらぬ基本の理解−
  (2)  (3)  (4)  (5)  (6)  (7)  (8)  (9)  (10)  (11)  (12)

第75回 「世界が変化している中で、日本人は自分のことをよく知っているのか」―勉強をしたバカとは何か勉強しよう(1)― 
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第87回 “想定外”と“ゼロベース発想”−(1)
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第99回 「日本人がグローバリゼーション下で勝ち抜くための発想転換」―グローバル市場で“勝ち抜くための戦略”−(1)

第159回 「日本人がグローバリゼーション下で勝ち抜くための発想転換」(73)―日本がグローバル市場で勝ち抜くためへの反省と提案−(1)

 
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