第64回(2012.05.11) 「プロジェクトマネジメントを楽しむ」 その64
「世界が変化している。原理・原則を知って変化に対応しよう」
―ビジネスの基本に戻ろう(2)―
−変わる基本、変わらぬ基本の理解−
渡辺 貢成
 kosei.watanabe@sweet.ocn.ne.jp
(有)経営組織研究所


−変わる基本、変わらぬ基本の理解−
「世界が変化している。原理・原則を知って変化に対応しよう」―ビジネスの基本に戻ろう(1)― 12年04月

−変わる基本、変わらぬ基本の理解−
「世界が変化している。原理・原則を知って変化に対応しよう」―ビジネスの基本に戻ろう(2)― 12年05月


A.4月号は読み返してみると、基本が大事だということを強調するために、肩に力が入ってしまった。何故肩に力が入ったかわかるかね。

B.わかるような、わからないような感じです。

A.そうだろうな。歳を取らないと基本の大事さが心底わからないんだ。
人間は元来仕事が好きで、早く仕事の先をやりたがる。最初に決めておくべき基本事項を飛ばして、先に進んでしまう。しかし、プロジェクト進行後いろいろな問題に出会い、やり直しをする。はじめにしておけば1の量で済むものが、後半になると、その量が10となる。その10の作業量は納期の遅延を引き起こし、それに関連する他の人の作業を混乱させ、その損害は100となる。最初の1が全体の0.1%の仕事量であったとしても最終的には10%の損害となってしまう。成功プロジェクトで10%の収益を上げることは難しいが、失敗プロジェクトでは赤字が20〜50%などはざらにあるから怖い話しだ。君にはそのことを理解してもらいたいと思っている。

B.わかりました。先生、まずプロジェクトマネジメントの基本とは何でしょうか。知っているようで基本とは云われると直ぐには答えられません。

A.それはよい質問だ。ではもっとも難しいプロジェクトの基本を説明しよう。困難なプロジェクトの基本を知っていると、すべてに通用するから聴いてくれたまえ。

@プロジェクトの成果物をつくる「システムズ・エンジニアリング」の活用だ。
Aプロジェクトを効率よく、プロジェクトのQCDをまもる「プロジェクト・マネジメント」の採用だ。
Bプロジェクトは基本的に立場、発想の異なる多数の関係者の協力によって成り立っている。「人間の意思交流のマネジメント」が求められている。
これらはすべて関係者が守るべき世界的に認められたルールだが、Bを除いて標準化されている。しかしBに関してもグローバルで通用するルールが存在している。

B.わかりました。日本人はこのルールに詳しいのでしょうか。

A.海外の経験のない日本人はビジネスという概念に乏しく、自社での経験が通用すると勘違いしているため、グローバルの仕事をすると戸惑ってしまうな。その第一は多くの日本人は契約という約束事を理解していないことで問題が発生する。

B.契約というと何か怖い感じがしますが。契約で騙されそうですね。

A.ところがその逆だな。契約とはお互いを保護するためのものだよ。このことは次回以降に詳しく話しをする。

B.わかりました。それではなじみの薄い「システムズエンジニアリング」の話しをしてください。

A.日本が開発したP2MというPM(プロジェクトマネジメント)がある。標準ガイドブックに詳しく書いてあるが、プロジェクト(あるいはプログラム)を3段階に分けて進める。最初は「構想計画」を策定する業務だ。業務の領域、その範囲を定め、つくり出すプロジェクトの「使命・目的・目標」を決め、納期、予算、成果物の各種仕様を定める。ここでビジネスリスクを想定し、ビジネス投資の採算性の検討を済ませ、上部機関の承認をえる。その後構想計画をベースにシステム構築のために、入札のための要求書を作るまでの業務をP2Mではスキームモデルとよんでいる。

B.ずいぶんと面倒な仕事をするのですね。ITシステムは技術がどんどん進化しているので、面倒な作業をしても、構想計画ができた頃は使う技術が進化し、内容が変わってしまうから、採用したベンダーに要求仕様を書かせています。

A.宇宙開発は未知への挑戦だ。しかし1回の失敗で何百億円の金が消えてしまう。打ち上げに成功しても、小さな部品の故障で機能不全となることが多い。また宇宙では故障が発生しても、現物で原因究明ができないから、あらゆる想定外を想定し、検討している。このため、未知の宇宙開発でも構想計画に予算の10〜15%を使うと、コスト実績値が予算の10%以内に収まるという実績が出ている。これが構想計画実施の価値だな。ITプロジェクトは変更が多く、ベンダーが赤字に苦しむが、同時に発注者も運用費が高という罰を受けているためか、構想計画に金を掛けるメリットを理解し始めたと聞いているよ。

B.米国では未知の仕事をする時に簡単に構想計画が作成できるのでしょうか。

A.NASAは膨大な組織だから夫々の専門家で構成されている。しかし、NASDA以外の力を借りる必要が多々ある。この場合は専門のコンサルタントやベンダーの協力を必要とする場合があるが、実費償還型(かかった費用はすべて支払う)契約が一般的だ。欧米の社会ではリーゾナブルという言葉をよく使う。これも基本の1つで、業者を泣かせるのはリーゾナブルではないからだ。基本を身につけたプロジェクトマネジャーは行動にぶれがないことで、関係者に信頼されている。

B.基本が大切だということがよくわかりました。来月もお願いします


以上


プロジェクトマネジメントを楽しむ バックナンバー
第1回 プロジェクトを楽しむには多くの仕掛けがいる
第2回 PMを楽しむ仕掛けは時間が生み出す
第3回 基礎をしらないとPMは楽しくならない
第4回 仕事を減らす楽しみを覚えよう   (2)  (3)

第7回 行動の中から楽しみを生み出そう(1)
第8回 行動を頭に合わせよう(2)
第9回 行動を頭に合わせよう(3)
第10回 目的があって仕事がある(1)   (2)   (3)

第13回 日本の『現場力』を再度強化しよう(1) 
  (2)   (3)  (4)  (5)  (6)  (7)  (8)  (9)  (10)

第23回 「何か変だな」(1)〜「お客様は神様か?」
第24回 「何か変だな」(2)〜「頭を使う人々が、(生産性に)頭を使わないのはなぜ?」
第25回 「何か変だな」(3)〜「問題と課題の違いがわかるかな?」
第26回 「何か変だな」(4)〜「資格を取っても役に立たない?」
第27回 「何か変だな」(5)〜「「物事」とは何か?」
第28回 「何か変だな」(6)〜「タテマエとホンネ」とは何か?
第29回 「何か変だな」(7)〜「カタカナ言葉と漢字」
第30回 「何か変だな」(8)〜「これからは日本の時代って本当?」
第31回 「何か変だな」(9)〜「ものづくりは技術が基盤って本当?」
第32回 「何か変だな」(10)〜「サービスはタダか、サービスはマネーか?」
第33回 「何か変だな」(11)〜「少子化問題と一人っ子政策の討論」
第34回 「何か変だな」(12)〜「何か変だな!講演会」
第35回 「何か変だな」(13)〜「何か変だな!講演会2」
第36回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(1)〜PMOに消火活動チームの設置
第37回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(2)〜働く女性のために小学校の低学年児童の居残りは学校が面倒を見たら!
第38回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(3)〜アイデアは出すことより、実行+が難しい。実行が難しいから、皆考えなくなる
第39回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(4)〜How to の時代からWhat toへの転換
  (5)  (6)  (7)  (8)  (9)  (10)  (11)  (12)  (13)  (14)  (15)

第51回 「プロジェクトを実践して楽しもう!」(1)〜What toからHow to enjoy project managementへの転換
第52回 「プロジェクトを実践して楽しもう!」(2)―緊急時の対策― 〜What toからHow to enjoy project managementへの転換
  (3)  (4)  (5)  (6)  (7)

第58回 「プロジェクトを実践して楽しもう!」―情報を活用する能力(1)―〜What toからHow to enjoy project managementへの転換
  (2)  (3)  (4)  (5)

第63回 「世界が変化している。原理・原則を知って変化に対応しよう」―ビジネスの基本に戻ろう(1)― −変わる基本、変わらぬ基本の理解−
  (2)  (3)  (4)  (5)  (6)  (7)  (8)  (9)  (10)  (11)  (12)

第75回 「世界が変化している中で、日本人は自分のことをよく知っているのか」―勉強をしたバカとは何か勉強しよう(1)― 
  (2)  (3)  (4)  (5)  (6)   (7)   (8)  (9)  (10) (11)   (12)

第87回 “想定外”と“ゼロベース発想”−(1)
  (2)   (3)  (4)  (5)     (6)   (7)    (8)   (9)    (10)  (11)   (12)  

第99回 「日本人がグローバリゼーション下で勝ち抜くための発想転換」―グローバル市場で“勝ち抜くための戦略”−(1)

第159回 「日本人がグローバリゼーション下で勝ち抜くための発想転換」(73)―日本がグローバル市場で勝ち抜くためへの反省と提案−(1)

 
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