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第1回(2007.01.12) 「プロジェクトマネジメントを楽しむ」 その1
プロジェクトを楽しむには多くの仕掛けがいる
渡辺 貢成 kosei.watanabe@sweet.ocn.ne.jp
(有)経営組織研究所 |
本年から「プロジェクトマネジメントを楽しもう」というテーマを抱えて、初登城する渡辺です。皆さんよろしくお願いします。
最近の日本経済は好調である。一見望ましい好景気はPM(プロジェクトマネジメント)実行責任者にとってプロマネ(プロジェクトマネジャー)泣かせとなる。仕事が多すぎて、人がいないからである。不況時は受注で苦労し、好況時は仕事の処理で苦労する。このように考えると「PMを楽しもう」などというテーマは現実離れではないかという読者の声が聞こえてくる。
現実離れを提案する人間の経歴を紹介する。私は学校を卒業して、会社を卒業するまでPMしかやったことがない。やったPMは化学プラント、石油精製プラント、原子力関連プラント、最後に国際宇宙ステーションプログラム関連業務を行う企業の役員となったから、宇宙のプロジェクトも勉強した。会社を卒業して債務超過になった会社を任かされ、正常に戻したが、実はこれもPM手法で処理したから続けてPMをしたことになる。その後PMを普及する組織を立ち上げ、新しいP2M(プロジェクト&プログラムマネジメント)というPM創出の仕事を事務局として関与したから、これもPMの仕事と言える。
これだけ多くのPMをやっていると「PMは大変だ」と愚痴をこぼしているより、「PMを面白くしたくなる」の自然である。そこで考えた。「楽しむとは何か?」。「楽しむとは面白い仕事をすること」だと。周囲を観察すると皆面白そうに仕事をしている。面白くないと残業などしていられない。日本人は残業が多い。これは命令されてやっているわけではない。面白いからやっているという仮説を立てる。そこで観察すると、残業の長さは「自宅と会社の距離に反比例する」ことがわかった。人間は健康で生き続けなければならない。健康を維持する最大の条件は睡眠時間にある。観察の結果、個人差はあるが、睡眠時間を同じにすると残業時間の差は朝晩の通勤時間の差と合致する。ここで私の仮説は成立したことになる。
では、「残業は仕事を面白くするのか?」。仕事が面白いから残業が多いのは理解できるが、残業をすることが面白いわけではない。「残業をしないで仕事を楽しむ」を考えてみた。
あるきっかけで次なる仮説を立てた。この仮説は日本ではタブーである。だから表立っては決して言わないが実は真実である。ここだから言う。しかし、決して部下に言ってはならない。「残業と電話の長いのは決して有能ではない」という仮説である。この仮説は観察結果から得られたものである。電話の長い人間は「結論を考えないで電話している」。論点を持たずに電話を始めるから話が行ったり、来たりで結論に時間がかかる。論点を明確にし、疑問点、解決すべき問題の2、3案をまとめ相談すると2,3分で話は終わる。平凡と有能の差は「考えてから相談するか、考えずに相談する」と考えてよい。
残業の長さの問題は上昇志向の差である。社会は日進月歩すごい勢いで進歩している。人間に与えられた時間は24時間皆平等である。有能さは時間の使い方で決まる。残業時間を「一歩上の仕事」の準備にあてることで大差ができる。
人間は「根を詰めて仕事をすると何時間もつか?」と試したことがある。電話がかからず、会議もなく、9時から17時まで仕事を続けるとふらふらになる。残業しても集中力がなくなるからいい仕事ができない。残業の多い人を観察すると、日中の集中力が薄く、会議、電話、議論等が多い。そして体のリズムが会議のない、電話がかからない残業時間になって始めて集中できるリズムをつくりだしている。
昔々、若気の至りの話で恐縮だが、シビヤーなプロジェクトで、納期が迫り、皆の残業が増え、徹夜までするようになった。このままではこのプロジェクトは破壊すると思い、労働に関する本を読み、「残業をやめて昼間7時間集中して仕事をすることで効率をあげることができる」ということを学んだ。一生懸命に仕事をしているプロジェクトメンバーが怒るとわかっていたが、ある日一切の残業停止命令を出した。「納期の問題は私が責任をとるから当面9時から5時までの勤務時間内で仕事をすること」を頼んだ。予想通りスタッフは怒り狂ったが、結果はスケジュールの回復ができ納期を守ることができた。しかし、この手法を真似してもらっては困る。伝家の宝刀は抜かないほうがいい。最悪の事態にならない工夫が必要だからである。
さて、「PMを楽しむ」で余計な話をしてしまったが、日本では残業問題を抜きに次のテーマに進めない。すべての積極的な意見が、現実は時間がないという一言で実行しないことを許してしまう習慣があるからだ。プロフェッショナルを自負する欧米人は時間がないことを言い訳としない。それはプロとして自分の損であることを自覚しているからである。このエッセイはプロのためのエッセイである。今回は「PMを楽しもう」のプロローグである。
◆渡辺さんのプロフィールです
本名:渡辺貢成 PMS(PMAJ資格プロジェクトマネジメント スペシャリスト)
ペンネーム:芝 安曇(PM関連エッセイスト)
1.職 歴:
・日揮株式会社(1967-1990):最終;原子力事業本部副本部長
・石油精製プラント建設、原子力関連プラント建設
・有人宇宙システム株式会社(1990-1998):最終:専務取締役
・国際宇宙ステーション運用のエンジニアリング、運用訓練
・日本プロジェクトマネジメント・フォーラム(1998-2002):事務局長
・(有)経営組織研究所(2002− ) 代表取締役
・日本プロジェクトマネジメント協会 理事 (2005- ): 広報部会長
2.雑誌での執筆(連載)
・「実践エンジニアリング料理講座」CE誌(1993-1994)
・「プロジェクトマネジャー自在氏の経験則」EB誌(1994-2002)
・「サバイバル・マネジメント」EN誌(1999−2001)
3.出版
「プロジェクト・マネジメント思考による日常革命」
「プロジェクト・マネジメント実践講座」
「P2M標準ガイドブック(コミュニケーションマネジメント)」
「とことんやさしいプロジェクトマネジメントの本」(JPMF有志共同)」
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プロジェクトマネジメントを楽しむ バックナンバー |
第1回 プロジェクトを楽しむには多くの仕掛けがいる
第2回 PMを楽しむ仕掛けは時間が生み出す
第3回 基礎をしらないとPMは楽しくならない
第4回 仕事を減らす楽しみを覚えよう (2) (3)
第7回 行動の中から楽しみを生み出そう(1)
第8回 行動を頭に合わせよう(2)
第9回 行動を頭に合わせよう(3)
第10回 目的があって仕事がある(1) (2) (3)
第13回 日本の『現場力』を再度強化しよう(1)
(2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)
第23回 「何か変だな」(1)〜「お客様は神様か?」
第24回 「何か変だな」(2)〜「頭を使う人々が、(生産性に)頭を使わないのはなぜ?」
第25回 「何か変だな」(3)〜「問題と課題の違いがわかるかな?」
第26回 「何か変だな」(4)〜「資格を取っても役に立たない?」
第27回 「何か変だな」(5)〜「「物事」とは何か?」
第28回 「何か変だな」(6)〜「タテマエとホンネ」とは何か?
第29回 「何か変だな」(7)〜「カタカナ言葉と漢字」
第30回 「何か変だな」(8)〜「これからは日本の時代って本当?」
第31回 「何か変だな」(9)〜「ものづくりは技術が基盤って本当?」
第32回 「何か変だな」(10)〜「サービスはタダか、サービスはマネーか?」
第33回 「何か変だな」(11)〜「少子化問題と一人っ子政策の討論」
第34回 「何か変だな」(12)〜「何か変だな!講演会」
第35回 「何か変だな」(13)〜「何か変だな!講演会2」
第36回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(1)〜PMOに消火活動チームの設置
第37回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(2)〜働く女性のために小学校の低学年児童の居残りは学校が面倒を見たら!
第38回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(3)〜アイデアは出すことより、実行+が難しい。実行が難しいから、皆考えなくなる
第39回 「世の中をよくするアイデアを出してみよう!」(4)〜How to の時代からWhat toへの転換
(5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12) (13) (14) (15)
第51回 「プロジェクトを実践して楽しもう!」(1)〜What toからHow to enjoy project managementへの転換
第52回 「プロジェクトを実践して楽しもう!」(2)―緊急時の対策― 〜What toからHow to enjoy project managementへの転換
(3) (4) (5) (6) (7)
第58回 「プロジェクトを実践して楽しもう!」―情報を活用する能力(1)―〜What toからHow to enjoy project managementへの転換
(2) (3) (4) (5)
第63回 「世界が変化している。原理・原則を知って変化に対応しよう」―ビジネスの基本に戻ろう(1)― −変わる基本、変わらぬ基本の理解−
(2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12)
第75回 「世界が変化している中で、日本人は自分のことをよく知っているのか」―勉強をしたバカとは何か勉強しよう(1)―
(2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12)
第87回 “想定外”と“ゼロベース発想”−(1)
(2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12)
第99回 「日本人がグローバリゼーション下で勝ち抜くための発想転換」―グローバル市場で“勝ち抜くための戦略”−(1)
(2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19) (20) (21) (22) (23) (24) (25) (26)
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