1.先月5月号は
米国での労働者に対する基本的な考え方はテーラーの科学的管理法で、「考える必要のない労働者、考える経営者および経営予備軍」というトップダウンの発想が今日に至っている。ではこの科学的管理法に対し、一時的にせよ、製造業において日本が何故勝ったのか。この評価が正しくなされていない。多く人は「日本は集団主義で勝った」と信じている。
これは半分正しい。日本の労働者は頭を使う労働者で、ここが米国との違いである。では労働者が頭を使えば勝つのかというと、テーラーのいうように浅知恵的なものが主体であったかもしれない。正しく評価するならば、この日本人の「考える労働者」を正しくリードした人物がいるたからである。
2.今月号の主役はデミング博士
デミング博士は日本では有名人であるが、米国人が評価し始めたのは、1980年で、米国が製造業で日本に敗れた原因と対策を考える中でデミング博士が脚光を浴びた。
米国の製造業における品質の考え方は検査基準で決まるという発想であった。「検査を厳しくすると不良品の発生は増え、製品コストが高くなる」と長年信じられていた。これに対しデミングは統計的品質管理という手法で日本製造業をリードし、「製造品の品質にはばらつきがあり、これを統計的に把握し、不良発生の予防に努めることでコストを削減する。そして品質は検査で決めるのではなく、生産プロセスでつくり上げる」ことを求め、QCサークルを通じて生産プロセスの改善に努め、品質向上のプロセス化するに成功した。これが米国を凌駕できた最大の理由である。デミングの思想はテーラーと異なり「考える現場」という概念を進めたことにある。この概念は日本人の気質と一致するところとなり、「場の概念」が一ツ橋大学野中教授のナレッジマネジメントの中で提案され「場の概念」は世界的に知られるようになった。
1980年に遅まきながら、デミング博士の日本での活動が米国で評価されるようになり、デミング博士の提言で、米国の製造業が日本に勝つための方策として経営の品質向上を取り入れたマルコム・ボルトリッジ賞が創設された。
デミング博士は日本企業を指導し、大きな成果を上げたが、残念ながら日本の経営者はTQCという概念を取り上げたものの、本質的には経営の品質と言う概念を理解できなかったと言っている。実はここが大きな問題である。何故、日本の電気機器産業は製品として世界一のものをつくりながら、収益を上げられないかと言う問題すら解決できていない。高級品をつくりながらブランド化せずに、自らを安売り商品化することで明け暮れている。
それは何故だろうか。役所も、マスコミも学者も全て、モのつくり日本に必要なのは技術とスキルだとそればかり強調している。本当にそれだけだろうか。そこにはマネジメントという概念が無視されている。日本人は自分が技術を使うことを考えている。米国人の偉いところは企画で勝負し、企画を生かすために必要な技術を使うことを考える。企画が主役で、技術は従である。日本は技術が主役で、マネジメントが従である。
そこで次回は頭を使う現場から一段上の現場力とは何か考えて見たい。お楽しみに。
以上
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