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第11回(2007.11.08) 「プロジェクトマネジメントを楽しむ」 その11
目的があって仕事がある(2)〜自分で考えないと問題は解決しない
渡辺 貢成 kosei.watanabe@sweet.ocn.ne.jp
(有)経営組織研究所 |
第11回「目的があって仕事がある」(2)−自分で考えないと問題は解決しない−
前回はIT問題を考えるに当たって海外からの目で業界を眺めてみると、日本のITプロジェクトには原理原則が存在しない。そして常に発注者も受注者も現在だけに追われている。先のことを考えて仕事を始めないから、目先の問題を短時間で処理する仕事に追われているように見える。原理原則を知るためには「言葉の定義」が必要だという話をし、そこでアポロ計画の「使命・目的・目標」とは何か書いて下さいとお願いした。ここまでが前回である。
今回はアポロ計画の「使命・目的・目標」を最初に示す。
・「使命」とはプロジェクトが負わされた任務、簡単に考えると何をするのということになる。「早い話が月に行って帰ってくること」となる。
・「目的」とは何か。何のために月に行って帰ってくるのということである。実は月に行くのが目的ではない。米国は宇宙開発で当時ソ連の後塵を拝していた。第二次世界大戦当時制空権が戦争を支配した。第一次大戦は制海権であった。日本の真珠湾攻撃の見事さで米国は第二次大戦は制空権と認識し、その後の空軍の補強に努めた。ところが日本海軍は自らの空軍力の効果を理解できずに戦艦大和、武蔵の大型艦に依存し、出向直後に撃沈させられている。米国は第三次世界大戦は制宇宙権であるとの立場で、ケネディーはアポロ計画を実施した。月を制覇できる技術と財務力で、ソ連を圧倒することに成功した。結果としてソ連は崩壊した。PMにおける目的とは「何のためにそのプロジェクトを実施するか」ということ。
・「目標」は1960年代に月面制覇する。PMで目標とは多くの場合、時間、コスト、性能とか数値化されるものが多い。ゴールが良く見えるからである。
さて、これから今回に入る。社会では「IT産業は問題だ」といいながら、具体的に何をしたらよいか示さない。そこで私のPM講座は「言葉の定義」で「問題とは何か定義せよ」で始まる。普段、口では「問題だ!問題だ!」と騒ぎながら何もしないからだ。当然定義できない。そこで隣の人と3分間相談して答えを出してください。できれば、言葉でなく図示することを依頼する。そしてこの図をオリジナルとして質問を続けると、表面的にしか理解していなかった問題の本質を掴むようになる。
某大学のポストドクター(ドクター取得後学校に残っている学生)にPMの話をしたら、初年度は研究者の自分たちにPMは関係ないとそっぽ向かれたが、2年目で「言葉の定義」で質問攻めすると、PMを教えないのに我々に最も欠けているのがPMだと講座を評価し始めた。
某大手企業でP2M活用講座というのを開いている。ここでは最初に「自分の仕事で何が問題か」提出してもらっている。これを読んで講座を組み立てているが、初日午前を「言葉の定義」、午後で「P2Mのプロファイリングマネジメント」を教える。プロファイリングマネジメントは「ありのままの姿」から「あるべき姿」を洞察する手法で、使命・目的・目標を見出す手法である。これだけ教えて翌日は受講者が持ち寄った各自の課題をグループ討議で選出し、そのテーマをグループ討議で解決させる。1日中この問題を考えさせると、これがなんと皆で解決してしまう。「言葉の定義」で問題の本質を捉える訓練をした効果が出ている。彼らは自分が提案した課題は個人の課題ではなく、会社がしなければならない課題と考えていた。ところが自分でやってみると、自分たちで問題が解けることに気がつき、この講座に大いに満足する。考えてみれば当たり前のことで、会社という建物が問題を解決できないのは理の当然である。問題は社員の誰かが解決しなければ、そのまま何時までたっても解決しない。しかし、「先送り」という解決法もあるよという声が、永田町あたりから聞こえてきそうだ。
「言葉の定義」は問題の本質を理解させる効果がある。問題も実は単純でなく、複雑な問題が絡み合っている。トヨタ方式ではないが、なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?を5回続けて質問すると本質に到達する。本質がわかれば問題はほぼ解決される。このように考えると、私たちは一見仕事をしているが、それが何のためにしているか本当に考え直す時期に来ている。
次回はITプロジェクトのリスクマネジメントを取り扱ってみる。リスクが見えると実体が見えるからである。
以上
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プロジェクトマネジメントを楽しむ バックナンバー |
第1回 プロジェクトを楽しむには多くの仕掛けがいる
第2回 PMを楽しむ仕掛けは時間が生み出す
第3回 基礎をしらないとPMは楽しくならない
第4回 仕事を減らす楽しみを覚えよう (2) (3)
第7回 行動の中から楽しみを生み出そう(1)
第8回 行動を頭に合わせよう(2)
第9回 行動を頭に合わせよう(3)
第10回 目的があって仕事がある(1) (2) (3)
第13回 日本の『現場力』を再度強化しよう(1)
(2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)
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第24回 「何か変だな」(2)〜「頭を使う人々が、(生産性に)頭を使わないのはなぜ?」
第25回 「何か変だな」(3)〜「問題と課題の違いがわかるかな?」
第26回 「何か変だな」(4)〜「資格を取っても役に立たない?」
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第30回 「何か変だな」(8)〜「これからは日本の時代って本当?」
第31回 「何か変だな」(9)〜「ものづくりは技術が基盤って本当?」
第32回 「何か変だな」(10)〜「サービスはタダか、サービスはマネーか?」
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