1.先月9月号の解説
9月号の現場力の話はハードとソフトのエンジニアリングの話しをした。従来はモノをつくるが主体であったが、社会の充実度が高まると、顧客満足度が重要視される。結果はエンジニアリングだけでは済まされない。言葉を変えると「エンジニアリングと心」で成り立つ。サービスがクローズアップされると、逆に手っ取り早く、サービスの手法が取り入れられ、ものごとの基本が無視される傾向が出る。手っ取り早さが現代の風潮で、ここに社会が崩れ始める要因が潜んでいる。旅館のサービスで考えてみると、心だけでおもてなしはできない。顧客を満足させる手順がある。顧客を満足させる設計(空間設計、到着から出発までの綿密な手順、個々の料理、接客術)がある。設計し、実行するまでがエンジニアリングである。心はこの個々の行動において発揮されるので、この基礎となるエンジニアリングなしには、心も顧客に通じない。
9月号ではこの考えに基づき、今グローバルで活躍中のプラント建設業界のエンジニアリングの説明をした。これはものごとの基本の話しである。今回はIT業界の話しをする。
2.プラント建設産業とIT産業のエンジニアリング業務の比較
3.IT業界のプロジェクトのライフサイクル設計
@構想計画:構想計画が行われているケースが少ない。プラント建設の発注者はプランとからの製品で食べているから、構想計画が企業の死命を制する。一方、ITプロジェクトの発注者はITを専門とした企業でないから、構想計画に無頓着である。ITプロジェクトの成功率の低さの要因の大きな部分がここに存在する。
A契約:非常に曖昧な契約となっている。構想が明確でないと、発注者社内の経営者の意図、IT専門家、業務の現場間のコンセンサスが得られにくい。現実には行われていないと判断される。(ソフト・システムズ・アプローチが実施されているケースは少ない)
Bソリューションパッケイジ:IT業界では便利なことに、顧客の生産性を高めるパッケージソフトが多く存在する。これらは「エンジニアリング+心」の心の部分で顧客満足度ツールといえる。手っ取り早くこれらのパッケイジが使えれば顧客満足度が上がり、プロジェクトは万々歳である、ことになる。構想計画など不要であると考えるのが人情である。
外資系のITベンダーはソリューションと称するパッケイジの提供で、発注者に構想計画なしでも大丈夫という魔術を掛けてしまい、IT業界はベンダーが顧客の要求仕様を提案する習慣が生まれた。
C都市計画(EA)の概念の導入
発注者は便利なソリューションパッケイジに飛びついた。ファッションで言うとカバンはルイビトン、服はサンローラン、靴はXXXと関連性にない組み合わせで都会を歩くから、目が肥えてくるとそのスタイルは「田舎出の成金」に見えてくる。そこで例の外資系ベンダーはバラバラな思想で設計をしては効果が出ないだけでなく、弊害がある。私共が都市計画をしてあげます。企業として統一の取れた設計思想(エンタープライズ・アーキテクチャという思想を提案し、私どもにお任せ下さいと提案し、EAがIT業界で流行となる。しかし、この外資は構想計画の重要性を認識し、経営コンサルティング企業を買収し、ビジネス体制を整えての提案であるが、日本企業はことの重大さを理解していないから、従来からの体制維持で乗り切れると考えている。
ここまでがIT業界のエンジニアリングの遍歴である。この結果がどうなるか来月号のお楽しみである。
以上
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