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第42回(2003.09.29)
プロジェクトマネジメント能力構築競争 |
◆はじめに
実は、プロジェクトマネージャー養成マガジンの記念すべき第1回(戦略ノート第1回)は、プロジェクトマネジメントによる企業競争力の話だった。本メルマガの原点はここにある。
新しいシリーズとして10月から
「プロジェクトマネジメント能力構築競争」
というシリーズを立ち上げる。このシリーズは現在休刊しているプロジェクトマネージャー養成マガジン別冊「プロジェクト経営レビュー」で展開していく予定であるが、ご紹介を兼ねて、戦略ノートでプロジェクトマネジメント能力構築競争について取り上げてみる。 「プロジェクト経営レビュー」の購読はこちらからできます。(現在は、『プロジェクト&イノベーション』に変わりました)
◆能力構築競争とは
最近、ある本を読んで「なるほど」と思った。その本は東京大学の藤本隆宏教授の
能力構築競争−日本の自動車産業はなぜ強いのか
という本である。
藤本先生は、よく知られているように、モノづくりを経理や総務や人事の人も知らなければ競争力を持った企業(組織)はできないという主張のもとに、経営学の中に、自動車産業を中心にした「モノづくり経営学」のような分野を提唱され、ずいぶん、早くから非常に知見に富んだ研究をされている研究者である。もちろん、自動車メーカが行っている製品開発プロジェクトマネジメントの研究でも第一人者であり、非常に実践的な研究成果を挙げられている。一例をあげれば、エンタープライズプロジェクトマネジメントにおける組織論である。
その藤本先生の最新の著作がこの本なのだが、ここで藤本先生はこれまでの研究を総括するような形で、「能力構築競争」という言葉を定義されている。
藤本先生の指摘は、競争には表層の競争と深層の競争があり、表層では4Pを競う競争が行われ、深層では、生産性、生産リードタイム、開発リードタイム、適合品質などの競争が行われる。そして、顧客から見えない深層で競争をすることはモノづくり能力の維持、改善、構築を他社と競うことであるというものである。これが能力構築競争である。
これは、ある意味、目からウロコであった。
◆表層競争の武器としての深層能力
今まで、企業経営の中でとられてきたスタンスは深層能力は、表層の競争を支えるひとつの要素、平たくいえば表層ツールの武器であり、維持、改善、構築を直接的な競争として捉えているケースは少なかった。
90年代後半からCRMやSCMが注目されてきたことにより、深層の部分が注目されるようになってきたことは確かであるが、競争を目的とし、目標を明確に定めてそのために能力を構築していくという認識は少なかった。
ところが、現実に自動車産業ではこの部分で競争していたわけだ。
◆プロジェクトマネジメントの位置づけ
さて、前置きが長くなったが、米国の企業には、自動車産業のように日本とのつばぜり合いをしてきた産業を除くと、こういう発想はあまりない。つまり、能力は戦略を実行するためのツールであり、そのツールの実態に合わせて戦略を策定することはあっても、能力を上げていくことを戦略とすることはない。戦略投資に対する回収期間が長くなるからだ。したがって、深層の競争ではなく、表層の競争が優先される。
今のプロジェクトマネジメントは、そういう発想のもとで生まれてきたものであることをよく認識しておく必要がある。つまり、深層能力には違いないのだが、表層の競争を支援するためのツールに過ぎない。冒頭に述べたようなスタンスに基づくマネジメントである。
◆日本人のDNA
しかし、日本の企業(というより、日本人)が得意としているのは、トヨタの大成功の例を引くまでもなく、深層の競争である。これは、農耕民族と、狩猟民族の違いだと言ってもよい。農耕民族は深層の競争を有利に進めるDNAが備わっている。トヨタという企業は非常に面白い企業で、いうなれば、だんだん、農耕地を広げていき、それぞれの場所で農耕をしている企業だ。このような企業は最近はいくつかあるが、歴史上、トヨタが始めてだったように思う。
プロジェクトやプロジェクトマネジメントはすばらしい発想である。日本企業がこの発想を競争に役立てていくに当たって、もっと深層の競争、つまり、「プロジェクトマネジメント力」の競争を考えていくべきである。そのためには、標準にこだわる以前に、自社の強みをプロジェクトマネジメントの中にどのように折り込んでいくかということを考えるべきだ。
◆IBMとプロジェクトマネジメント
最後に、上の米国企業の話を読んで、IBMをどう説明するのかと思われた方も多いかと思う。そのとおりである。どういう経緯でそのような形になったかは知らないが、典型的な農耕型の企業である。それはメインフレームにおける一連の事業展開を見ていればわかるし、新しい分野であるECで成功したのも農耕民族的な発想によるものだ。もっと、正確にいえば、創業以来、大筋で顧客指向を貫いている企業であり、その中で深層能力の構築に力を注いできた企業だ。その能力のひとつにプロジェクトマネジメントがある。
著者が20年前に大学を卒業するときに、これからは狩猟民族にならなければだめだというはなむけの挨拶をした教官がいた。当時はそのとおりだと思ったが、インターネットが出てきて、状況が変わった。かなりの企業が、顧客指向をとり、農耕型の企業を目指すようになった。
ここでは、深層能力が重要であり、その深層能力の中核にプロジェクトマネジメント力があるのは間違いない。ツールではなく、競争力としてのプロジェクトマネジメント力をつけよう!
◆成熟度と能力構築
この議論では、当然、この問題が避けて通れない。戦略ノートでは、
第15回 プロジェクトマネジメントが成熟するとは?(前編)
第16回 プロジェクトマネジメントが成熟するとは?(後編)
でこの話題を取り扱ったことがある。一般に考えられているように、成熟度を上げていくことが能力構築にはならないというのが著者の考えだ。
「プロジェクトマネジメント能力構築競争」では、成熟度の問題についても本格的に取り上げていきたいと思っている。
「プロジェクト経営レビュー」の購読はこちらからできます。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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