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第15回(2002.08.03) 
プロジェクトマネジメントが成熟するとは?(前)
 

◆はじめに
 今回から2回にわたり,プロジェクトマネジメントの「成熟」ということについて考えてみたい.
 今回は,ソフトウエア関係の方はよくご存知のソフトウエアプロセスにはマネジメントプロセスの成熟度について考えてみる.ソフトウエアプロセスの成熟度はCMUのSEI(カーネギーメロン大学ソフトウエア工学研究所)がCMM(Capability Maturity Model)を提案して以来,ずいぶん議論が重ねられているし,また,ISOのソフトウエアプロセスの評価・改善モデルであるISO15504と整合性も図られつつある.また,公的機関などで調達資格要件にする動きもあるなど非常に関心が強まっている.
 まず,今回はCMMについて考えてみたい.次回はCMMでの考察を踏まえながら,プロジェクトマネジメント成熟度について考えてみたい.

◆CMMについて
 CMMの指標はレベルの低いほうから見ていくと

レベル1:初期(INITIAL);予測できず,そして貧弱なコントロール
レベル2:反復できる(Repeatable);これまでに習得した仕事を反復できる
レベル3:定義された(Defined);プロセス特性が記述され,正しく十分に理解される
レベル4:管理された(Managed);プロセスが計測され,コントロールされる
レベル5:最適化する(Optimizing);プロセス改善に集中する

という指標になっている.これだけでは何か分からないので,少しだけ説明すると,レベル1は要するにプロセス管理らいしことは何もしていない状況である.ただし,それはプロジェクトが失敗するということには直結しないので注意する必要がある.スーパーエンジニアがいて,すべての困難に打ち勝って,十分な成果を得ることも多い.レベル2ではコスト,スケジュール,要求に関して,過去に成功したプロジェクト(ベストプラクティス)を基準としてコントロールしている状態である.レベル3になると,難しくなるがプロジェクトの成功に必要なソフトウエアプロセスの要件に対して組織全体として共通した認識を持っている状態になる.組織のプロセスは標準化されており,また,一貫性もある状態になっている.レベル4ではレベル3で行われているソフトウエアプロセスがシステムとして構築され,プロセスの状態の定量的な把握(管理)ができるようになる.レベル5になると,組織のソフトウエアプロセスは安定的に運用され,継続的改善がなされる状態である.

◆成熟とは何か
 このように定義される成熟度なるものの実体は何だろうか?CMMを実現する場合に,各レベルを達成するにはどのようなマネジメントが必要かという議論はよく見かけるが,意外なことに成熟するとはどういうことかという議論は見かけないので,ここではその議論をしてみたい.
 成熟の実体は4つあるように思う.一つはプロセスの標準である.これは,論理的な意味での最適化が図られている必要がある.無駄がないこと,上流工程への戻りがないことなどが論理的に保証されていなくてはならない.そのためには承認プロセスが合理的に設計されて,実行されている必要がある.ISO9000やISO15504はこの取り組みである.また,定義されたプロセスに対するプロセス改善についても,PDCAサイクルがきちんとマネジメントプロセスとして定義される必要がある.そこで2つめになるが,2つ目はソフトウエアプロセスの承認プロセスの支援をし,また,マネジメントプロセスのPDCAサイクルをまわしていくためのITによる情報管理の仕組みの存在である.本当にITが必要かという議論もあろうが,必要である.ITの仕組みなしにそのような承認プロセスやPCDAサイクルは運用できないだろう.少なくとも大規模プロジェクトのように一つのプロジェクトにおいて現状を計測し,そのプロジェクトの期間内に改善を施していくためにはITは必須であろう.3つ目は人間系である.改善は向上心に基づく気づきから始まる.つまり,常に問題意識を持ち,その問題意識に基づく基づくプロセスの観察(計測)を行うことである.例えば,同じ5%の納期遅れが出たとしても,自社のことしか目を向けていない人の解釈と,常に顧客に目を向けている人の解釈は異なるだろう.これが問題意識の違いであり,レベル4とレベル5の間にある天地ほどの違いである.
 4つめは以上の3つの上に立脚する組織文化である.現状に満足せず,常に学習し,向上するという組織文化である.

 この4つを実現する形で,ソフトウエアプロセスのマネジメントを設計していく必要があるだろう.しかし,現実にはここで一つ厄介な問題があるように思える.それは,ITの存在である.ITを前提にして考えると,レベル3〜4,あるいはレベル3〜5はコンカレントに進める方が現実的だと思われる.すると,必ずしもこのレベルを踏まえてレベルアップしていく必要はない.特に,CASEツールとマネジメントツールが統合されている環境では,むしろ,上で述べた3つを構築しながら,組織文化の醸成を目標とした取り組みとして進めて行く方が合理的だといえる.

◆CMMについて勉強したい方に
 CMMについてはもう少し,きちんとした解説を,「これだけ知っていれば困らない(手法)」にて解説する予定であるので,また,そちらを参考にしてください.今は,CMMにもいろいろな分野があり,今,主流になっているのはCMMから発展したCMMIです.「これだけ知っていれば困らない(手法)」CMMIについて解説の予定です.

 が,待てないという方には
K.Dymond:ソフトウエア能力成熟度モデルCMMガイドブック,日刊工業新聞社(2002)

をお奨めしておきます.図で,CMMをうまく説明されています(ただし,テキストは分かりにくいです).CMMIについては残念ながら,よい日本語テキストはありません.

 CMMの動向を知りたいという方には,SRAの塩谷和範さんの書かれた
CMM(能力成熟度モデル)とは
がお奨めです.すべてのCMMについてオリジナルのSEIの資料にリンクがついています.


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  ・クリエイティブルーティン(アジャイル)
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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