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第41回(2003.09.01)
モチベーションからコミットメントへ(2) |
エンジニアリングプロジェクトは失敗すると責められる。経営革新のプロジェクトだと、失敗してほめられることはないだろうが、責められることもないだろう。不確実性の問題なのである。一般的にエンジニアリングのプロジェクトは経営革新プロジェクトと比して不確実性が小さいと考えられているのだ。
しかし、よくよく考えてみると、エンジニアリングのプロジェクトより、経営革新のプロジェクトの方が不確実性が高いというのは必ずしも正しくない。世間が常識としてそのように考えているのは、バイアスがあるように思える。
このバイアスは、企業組織の伝統的な考え方ではないかと思う。企業の構造は、経営管理部門と、現業(事業)部門に分かれている。簡単に言えば、経営管理部門が経営の方針を決め、事業部門は経営管理部門の決めた方針を「間違いなく」実行することが求められている。そして、経営管理部門は事業部門がきちんと実行しているかどうかをチェックする。会社の仕組みはこれを前提に作られている。事業部制のもとでは、経営管理部門が事業部に分散しているが本質は変わらない。
経営管理部門が現業部門を統制する手段は組織・人事と、予算である。ところが、ビジネスのスピードが速くなり、また、複雑になり、一様な組織や予算制度では、間に合わなくなってきた。そこで、公共工事などで統制の方法として行われていたプロジェクト制という考え方がとられるようになってきた。
プロジェクトマネジメントはこのような企業の仕組みの中で、現業部門の仕事をしっかり行うために行われるマネジメントである。つまり、失敗することが許されない。
前置きが長くなったが、前回紹介したカッツェンバックのコミットメントを引き出す方法の中でもっとも基本的なものは「業務プロセスと評価尺度」である。コミットメントを引き出していくには、まず、業務プロセスの目的が明確になっており、その目的に応じて明確な評価基準があることが大前提になる。
プロジェクトにおける業務プロセスは、ISO9000などのプロセスマネジメントで決まっているケースが多い。しかし、評価基準が決まっているケースは不明確なケースが多い。ここに立ちはだかる壁が、上に述べた「うまくいって当たり前」という壁である。ただし、ここを否定してしまうと、経営そのものが成り立ち難くなるので、単純にそのような発想を無くせばよいという話ではない。
そこで考えなくてはならないことは、事業部制において、事業部に経営管理の機能を分散させているように、プロジェクトそのものに経営管理の機能を分散させるような仕組みが必要だ。
ただし、事業部制における分散はトップダウンの経営のスタイル変えるものではない。多くの企業が採用しているように、事業部長をボードメンバーにし、事業部長にスタッフをつければ、問題は残るものの、一応、形は実現できる。一方、プロジェクト制においては、まさか、プロジェクトマネージャーをすべてボードメンバーにすることはできないだろう(といいながらも、小規模の企業ではそのような形態でマネジメントを行っている企業も少なくない。その典型で、プロジェクトマネージャーはすべて社長というソフトウエアハウスは意外と多い)。
したがって、何らかの仕組みが必要になる。たとえば、経営管理の機能を分散することは不可能ではない。主に、人事権、予算である。人事権についてはかつてのミスミのようなプロジェクトメンバーの公募制をとれば理屈の上では実現できる。予算については、仕事を立ち上げたものがプロジェクトを立ち上げる、あるいは、社内調達をかけるような仕組みを作れば可能だ。これも実際にやっている企業をいくつか知っている。
このような取り組みをした場合のデメリットはいうまでもなく、経営の効率性である。一方で、メンバーのコミットメントが高まり、プロジェクトそのもののパフォーマンスはよくなる。このトレードオフで決まってくる。
ここに述べた方法は一例であるが、いずれにしても、コミットメントを引き出すには、まず、評価基準を明確なものにする必要がある。続きは次回。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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