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第11回(2002.07.06) 
リスクをマネジメントする戦略
 

※今回の記事はNo.4「リスクについて考えてみよう」,No.10「計画とはなにか」続編のような位置づけになっています.読まれていない方はぜひ,お読みください.

◆リスクマネジメントの目的
 一般的に言えばリスクマネジメントの目的は,純粋リスクを排除,軽減,制御することと,投機的リスクから生じる恩恵を増大し,損失を回避することであるといえる.
 プロジェクトにおけるリスクのマネジメントとは何か?最も広義に捉えるのであればプロジェクトの目的の達成が不可能にならないように,さまざまなリスクを管理することであるといえよう.

◆リスクマネジメントの戦略
 このときのリスク戦略としては

 リスク回避戦略:予想されるリスクを避けるために活動自体を行わない
 損失軽減戦略:リスクの影響を小さくする
 損失予防戦略:リスクの発生頻度を下げる
 リスク転嫁戦略:保険のようにリスクを第三者に転嫁すること
 リスク保有戦略:リスクの存在を認識した上でそのまま進める

の5つが代表的である.

◆HSISE;How safe is safe enough?
 さて,では,このようなリスク戦略に従って,プロジェクトにおいて具体的なリスク対策を策定するにあたっては何を考えればよいのだろうか?

 リスク対策として考えなくてはならないことは2つある.一つは「どういう手段」でリスクに対応するのかである.もう一つが「どの程度まで」リスクを低減させなくてはならないかである(これはHSISE;How safe is safe enough? と呼ばれることがある).
◆リスクコントロールとリスクファイナンス
 一般的にはリスクへの対処はリスクのコントロールとリスクファイナンスに分かれる.リスクコントロールはリスクの発生を防いだり,リスクが発生したときの損害を最小化するためのマネジメントである.つまり,基本的にはリスクの回避,軽減,予防という戦略を実行する方法である.プロジェクトにおいては変更管理によりリスクコントロールをしている.
 リスクファイナンスは,リスクの発生による資金不足を防ぐための方法であり,リスク戦略としては転嫁,ないしは保有をするための方法である.プロジェクトファイナンスはこのような視点で行われる.また,プロジェクトの予備費の中には性格上リスクファイナンスに近いものもあるが,一般的にはプロジェクトのリスクマネジメントの中ではあまり行われない手法である.

◆ALARP
 プロジェクトのリスクマネジメントの中で最大の問題はリスクをどこまで引き下げるかである.これによってプロジェクト計画は大幅に変わってくる.これはそのプロジェクトの経営的な重要性を考えないと決まらない.また,そのプロジェクトのオーナー企業の社風のようなものにも大きく影響されるだろう.
 この問題に対する重要な考え方はALARP(As Low As Reasonably Practicable)という考え方である.つまり,合理的に実施可能な範囲でリスクを下げるという考え方である.

◆プロジェクトマネジメントにおけるALARPの実現
 ではプロジェクトマネジメントにおいてALARPを達成するにはどうしたらよいのであろうか?それは次のような流れで達成される.

 @計画の時点でリスクを排除する(リスクの回避)
   計画作業の段階でハザードを取り除くような計画に修正していく
 A冗長性を持たせた計画にする(リスクの軽減)
   @が完全にできない場合には計画そのものに冗長性を持たせる
 Bコンティンジェンシープランを作る
   Aでもリスクが十分に低下しなければ,リスクの発生の時に備えたコンティンジェンシープランを作っておく
 Cマニュアルやトレーニング
   通常のプロジェクトではほとんどBまででことがたりるだろうが,Bでは不十分な  くらい重要度の高いプロジェクトの場合には,さらなる対策として作業手順のマニュ  アル化や要員のトレーニングを行く.ただし,ここまでのリスク対策が必要な業務を  プロジェクトとして行うことが適当かどうかは十分に考慮する必要があろう.

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 プロジェクトマネージャー養成マガジンでも折を見て「これだけ知っていれば困らない(手法)」で解説の予定です.

 が,そんなの待てないという人には,

 石井至:図解リスクのしくみ,東洋経済新報社

をお奨めしておきます(amazon.co.jpにひどいという書評が着いていますが,この書評に書かれていることはだいたい当たっています.ただし,プロジェクトマネジメントにドンピシャのリスクハウツー本はなく,基礎理論を知って,プロジェクトに応用するしかありません.意味でこの本を推奨します.書評にもあるように,この本はその理論については大変分かりやすく書いてあります.この記事を書く際にも,この本を参考にしています)


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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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