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第12回(2002.07.13) 
エクセレントなプロジェクトマネジメントOSを構築せよ!
 

◆プロジェクトマネージャーに必要な能力
 プロジェクトマネージャーというのはどういう能力を持っていればよいのだろうか?今回はこの問題について考えてみたい.
 プロジェクトマネージャーにとってどのような能力が重要かという調査は米国では古くからよく行われている.有名な調査にはバリー・ポスナーの調査などがある.ポスナーの調査では,リーダーシップ,チームビルティング能力,コミュニケーション能力,形成能力,調整能力,技術力の6つの領域を設定して,さらにそれぞれを細項目を設けて,プロジェクトマネージャー自身がどの程度重要度を感じているかを調査したものである.

 これによると,領域でみれば圧倒的に多いのがコミュニケーション能力である.人の言うことを注意深く聞いて,自分の意見できちんと相手を説得できる能力である.このほかでは計画,仮説,目標などを作る能力(形成能力),チームビルディング能力(集団を動機付け,団結させ,チームに変えていく能力)などが重要だと考えるプロジェクトマネージャーも多い.6つの中で重要だと考えているプロジェクトマネージャーが最も少なかったのが技術力である.これはアプリケーション領域の技術力ではなく,プロジェクトマネジメントそのものの技術力で,PMBOK(R)のようなフレームワークの知識や,クリティカルパス分析やリスク分析,EVMSといったプロジェクトマネジメントの手法の知識や経験を指すものである.

◆フレームワークとプロジェクトマネジメント能力
 注意しなくてはならないことは,プロジェクトマネジメントに必要な能力というのはプロジェクトマネジメントの「やり方」に大きく依存するということである.ポスナーの調査では調整能力は高くない.しかし,日経コンピュータなどでしばしば見かける調査結果では,日本のプロジェクトマネージャーは最も調整能力を重視しており,また,チームビルディング能力も重視しているというのが多い.日本ではチームビルディングは調整の一種(メンバーとの調整)だと考えられており,大きく見れば調整能力なのであろう.
 では,やり方というのは何によって決まってくるのか.やり方に最も大きな影響を与えているのはマネジメントのフレームワークである.フレームワークにはPMBOK(R)のような国際的な標準もあれば,業界標準,企業の標準などいろいろなレベルのものがある.また,PMBOK(R)のように明文化されているものもあれば,明文化されていないものもあるだろう.いずれにしろ,これらがプロジェクトマネージャーのマネジメントのやり方を規定することになる.
 フレームワークはプロジェクトマネジメントの基礎になるものであり,フレームワークに従ってプロジェクトを運営していくことは,プロジェクトマネージャーには不可欠な能力である.しかし,これだけでは十分ではない.まず,これらのフレームワークを使いこなすための手法が必要である.これには,WBSやクリティカルパスといった基本的なものから,最近話題のEVMS,PFIといった最新のものまでさまざまである.PMBOK(R)などはこれらの手法も含めてフレームワークとして考えている.ポスナーはこれらをまとめて技術力と呼んでいる.
 これでもまだ不十分である.優秀なプロジェクトマネージャーは,日常的な行動規範,問題が発生したときの問題解決能力,意思決定の能力など,かなりの多くの素養や能力を持っていると考えられる.一言で言えばヒューマンスキルである.
 ここで重要なことはヒューマンスキルがなければフレームワークの運用もうまくできない点である.つまり,フレームワークを使い,フレームワークの使い方に対する知見を蓄積していくには,ヒューマンスキルが不可欠であるという点である.

◆プロジェクトマネジメントOS
 われわれはプロジェクトマネジメントにおけるヒューマンスキルをプロジェクトマネジメントオペレーションシステム(PMOS,プロジェクトマネジメントOS)と呼んでいる.
 プロジェクトマネジメントOSとは概念的にはプロジェクトマネージャーの一人一人の中に構築され,コンピュータのOSがコンピュータを動かすように,プロジェクトを動かす機能である.その中には,
 ・スキル
 ・ビヘイビア
 ・プロセスコントロール
の3つのモジュールが含まれる.
 スキルは,プロジェクトを推進するに予めリスクを予想したり,さまざまな問題に遭遇し解決していくためののベースになる能力である.ビヘイビアは,リーダーシップ,チームマネジメント,コミュニケーション,ナレッジ管理など,プロジェクトマネージャーとしてベースになる行動である.プロセスコントロールはプロジェクト全体をフレームワークに沿って進行するようにマネジメントする能力であり,主に,メンバーの対するコーチング,プロセスコンサルティングなどの能力である.
 プロジェクトマネージャーはある程度,これらの能力を持っているであろう.重要なことは,これを実際のプロジェクトマネジメントに適用できるように体系的に持つことである.つまり,これらの能力の発揮する場面を理解した上で,能力を身につけていくことであり,その体系がプロジェクトマネジメントOSだと考えてもよい.

◆プロジェクトマネジメントにおける競争
 フレークワークそのものは協働の枠組みであり,競争力にはなりえない.しかし,プロジェクトマネジメント能力が競争力になるのは,プロジェクトマネジメントOSに競争力があるからである.すなわち,エクセレントなプロジェクトマネジメントOSを身につけることが,プロジェクトマネージャーが人材としての競争力を持つポイントであると同時に,企業がプロジェクトマネジメント能力を競争力にしていく方法である.視点を変えると,個々のプロジェクトマネージャーのプロジェクトマネジメントOSの成熟度がプロジェクトマネジメントの組織成熟度の源泉になっていくということである.学習する組織を構成するのは学習する個人だからである.

◆プロジェクトマネジャー養成マガジンの取り組み
 プロジェクトマネージャー養成マガジンでは,7月からキャリアシリーズを立ち上げ,エクセレントなプロジェクトマネジメントOSを構築していくにはどうすれば良いかを議論していく予定である.

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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