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第4回(2002.05.18)
リスクについて考えてみよう |
一般的にリスクという言葉から連想するものは,「危険性」のようなものであろう.失敗するリスク,災害・事故が起こるリスク,などなど.
プロジェクトにおけるリスクは一般的なリスクのイメージとは少し異なる.それはプロジェクトは基本的には計画を作り,計画の通りに進めていくことを前提にしているためである.
例えば,こういうことを考えてみよう.ある機械を2台を買って設置する引合があるとする.この機材は1台50万円し,調整作業には1台5日間かかるが,設置は過去に多数実績があり,作業トラブルの発生は考えられないとしよう.ところが,発注先は設置作業費用は5日分しか支払ってくれそうにない.2台の設置を5日間でできるだろうと主張している.しかし,重要な取引先であるので今回はそれで受注することにした.そして,100万円の資材費予算と10日分の作業費予算で機材を設置するプロジェクトを計画した.このときに,5日分の人件費だけは赤字になることは経営にとってはリスクであるが,このプロジェクトにとっては必ずしもリスクであるとはいえない.ここをまず,頭の整理しておく必要がある.
さて,この設置作業を1人の作業者に任せて10日間で行うことにした.機械が届き次第,5日間で設置し,5日目に次の機械が届くので,また5日かけて設置と計画した.このとき,このプロジェクトにとっての一つのリスクは10日間でできないことである.例えば,たまたま,設置作業の作業者が未熟であり,1台目の設置に6日かかってしまうかもしれない.また,5日目に機械が届かず,2台目の設置が遅れてしまい,10日間で終わらないかもしれない.これは明らかにリスクである.
では,逆に作業者がスーパーエンジニアで1台3日間で設置作業を完了する可能性があるとしよう.これはリスクか?一般的な認識で言えば,10日間かかると思っていたところが6日間ですむのだからリスクとは捉えないであろう.結果オーライである.ところがよく考えてみると,この作業者は4日目と5日目は手空きになってしまう.行うべき作業はないが,人件費が発生するという事態になる.これは明らかに機会損失である.こうなると,10日間で計画したものが6日間でできることはリスクではないとは言いにくくなる.
PMBOK(R)でもそうであるし,一般的にプロジェクトマネジメントの中ではリスクというのを計画との差異で捉えることが多い.言い換えると,計画通りに行かない可能性がリスクである.このことはプロジェクトを進めていく上でこの上なく重要なことである.もちろん,リスクのマネジメントをすることがプロジェクトマネジメントで重要であることはいうまでもないが,もっと重要なことを物語っている.それは,「計画」というのが斯くも重要であるということである.つまり,プロジェクトマネジメントの中では,コストやスケジュールや品質などすべてを考えて,全体が最適になるように計画が作られる.このような状況においては,どれかが狂うと必ず何らかの損失が生じる.上の例のように時間的に早く終えることは一般的に考えれば問題ないように見えるが,よく考えるとコストが最適ではなくなるし,ひょっとすると品質面でも最適だとはいえないかもしれない.
したがって,プロジェクトマネジメントでは何よりも計画が大切である.特に初期の計画よりも,実際にプロジェクト作業を実施し,変更が発生する中できちんと計画を見直し,常に計画通り進んでいるという状況を作ることが重要である.プロジェクトマネージャーはそのようなリスク感覚を持つ必要があろう.
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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