第100回(2006.05.23) 
戦略ノート100回を迎えて〜理解することとは、自分が変わることである

いよいよ、第100回である。

プロジェクトマネジメントの組織学習の議論の真っ最中であるが、一応、記念号なので、ちょっと違う話題を。

プロジェクトマネジャー養成マガジンの第1回=戦略ノート第1回である。バックナンバーはここにあるので、ぜひ、一度、読んでみてほしい。

 第1回

この中で、

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このようにプロジェクトマネジメントは企業の競走上,不可欠なスキルになりつつあるし,プロジェクトマネジメントのスキルなくして企業は成長しないという時代になってきたようである.GEのようにマネジメントに特徴を持つ企業と同じく,プロジェクトマネジメントを存続基盤として持つ企業というのが出てくるのも時間の問題だろう.
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と書いているのだが、そんなに甘いものではなかった。

確かに生きながらえるという意味での存続基盤にはなっているが、いまだに、プロジェクトマネジメントを競争基盤として持っている企業というのは日本では出てきていないように思う。

「あそこは技術力があるから」という声は聞こえても、「あそこはプロジェクトマネジメント力があるから」という声を聞くことは多くない。「あそこにはAさんがいるから」という声はなくもないが、、、

ただし、入札のポイントにプロジェクトマネジメント力が含まれるようになってきたのは事実である。これは公共をはじめとしてかなり、民業にも広まりつつあるが、今のところ、意味合い的には失敗防止的な意味合いが強い。

外資系の日本法人の人から「日本だけは特別」という声もよく聞く。

何が違うのか?日本は職人の国なのか。しかし、ドイツなどでも結構、プロジェクトマネジメントは普及している。

社会組織心理学の第一人者である米国の経営学者(ハーバード大学教授)であるリチャード・ハックマンが

ハーバードで学ぶ「デキるチーム」5つの条件―チームリーダーの〈常識〉
 

の中で、

 理解することとは、自分が変わることである

と言っている。まさにそうだと思う。日本でプロジェクトマネジメントがなかなか進展しないのは、これ、つまり


 多くのプロジェクトマネジャーはプロジェクトマネジメントを理解できていない


というのが100回を迎えた仮説である。

プロジェクトマネジメントを理解できたということは、プロジェクトを成功させるとか失敗させるとかの問題ではない。目的思考でものごとを考え、行動をできるかどうかが問題である。そのように変わって初めてプロジェクトマネジメントを理解できたことになる。

ところが、現実には、プロジェクトマネジメントの知識は得たものの、行動はほとんど変わっていないという人が多い。もっと正確にいえば、プロジェクトマネジメントの知識を付与され、プロジェクトマネジメントプロセスの実施をさせられているだけで、主体的に実行していない人が多い。理由はいろいろあるが、要するに理解できていないのだ。

新しい知識を得たときに行動には3種類ある。一番目は新しい知識を使ってみて、評価し、改善していくタイプの人。二番目は頭で考え、うまく行きそうであればやってみるというタイプの人。三番目は知識を得たことに満足し、それ以上は何もしない人。プロジェクトマネジャーにはさすがに三番目の人は少ないと思うが、圧倒的に多いのが二番目である。プロジェクトマネジャーに限らず、日本人の知識労働者はこのタイプが多い。

二番目のタイプは知識と情報の区別がついていない人が多い。

著者はコンピテンシーのセミナーの中で、知識と行動の関係について、行動があって知識が生まれるという説明をする。もっといえば、情報があって、行動をし、知識が生まれるという位置づけをしている。

ところが、これに対しては反論が多い。知識があって行動をすると考える人が圧倒的に多い。これが2番目のタイプの人である。本人たちは研修や独学、事例発表会などで知識を得たと思っているが、これらは情報に過ぎない。知識はそれらを実行してみて始めて生まれる。そして、その知識を情報として誰かに伝える。するとその人がまた実行してみて、教わったこととは違った知識を生み出す。それを教わった人とはじめ、組織に還元する。この繰り返しによって、初めて知識が共有化される。頭の中で考えるだけであったり、事例をデータベース化するだけでは、決して「知識」が共有化されることはない。

二番目の人が多いので、なかなか、プロジェクトマネジメントが組織に浸透していかないし、知識の共有かも組織学習も起こらない。これが冒頭に述べた問題の原因だと思う。この問題の克服にはPMコンピテンシーなるものの強化しかない。

ということで、もう一度、第1回の記事のまとめに書いたことを、100回目に繰り返しておく。

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このノートはこのような立場から、どのようにプロジェクトをマネジメントすれば競争優位源泉になるかということを考えていきたい。
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今後ともよろしくお願いします。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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