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第99回(2006.05.16) 
学習する組織に変える(その3)〜PMに対する理念

◆プロジェクトマネジメントに対する理念があるか

前回は、学習する組織を目指すには、何を学習することが必要かを述べた。今回は、プロジェクトマネジメントを学習していく組織はどのような要件を備えている必要があるかを考えてみたい。

まず、最初はプロジェクトマネジメントに対する理念が必要である。多くの組織ではプロジェクトマネジメントを導入する際に、「何のために」プロジェクトマネジメントを導入するのかを明確にしていない。もちろん、漠然と何かよくなるだろういった「期待」は持っているが、「効果」を明確に予想しているケースはまれである。


◆組織の基本理念がない

この根源的な問題はもっと深いところにある。そもそも、自分たちの組織の基本理念、つまり、ビジョン、価値、目的といったものが明確になっていないところにあるケースが多いのだ。これが定まっていないと、プロジェクトマネジメントに期待することはオペレーショナルなレベルの問題解決だけになってしまう。たとえば、2件に1件は納期が遅れているので、プロジェクトマネジメントを導入して、スケジュール管理をきちんと行い、納期遅れを防止しようといった位置づけである。

プロジェクトマネジメントの位置づけとして、このようにプロジェクトの運用における問題解決のツールというのも一つの位置づけであるとは思うが、問題解決は所詮問題が解決すれば役割は終わる。仮に上の状況で90%のプロジェクトが納期内の終わるようになったとしよう。ここで、満足してしまっては学習する組織にはなれない。競合が90%であれば、95%を達成しなくてはならない。それが競争である。

ところがこの部分は単に問題解決として行うのは難しい。なぜなら、50%を90%にすることに較べると90%を95%にするのは、はるかに難しいからだ。ややもすれば、10回に1回くらいはいいという発想になるし、投資対効果を考えてみてもまず合わない。取り組む人たちもそれなりの動機がないと達成できないだろう。


◆問題解決では継続的改善は難しい

そのように考えると、継続的に学習をし、プロジェクトマネジメントを向上させていこうとすれば自分たちの基本理念が必要である。その理念は上のような状況になってから明確にしたのでは手遅れであり、プロジェクトマネジメントの初期の段階から、自分たちの基本理念に照らして導入の理由を明確にし、すべてのメンバーに浸透させ、そして、組織文化として価値観や基本的仮定の中に練りこんでいって初めて、90%を95%にするパワーになりうる。付け焼刃では通用しない。


◆理念があるから継続的な改善ができる

戦略ノートでも書いたことがあるが、阪神大震災のときに、阪神高速の復旧に日本のゼネコンは36ヶ月かかるといったのを、米国の建設会社は半分の18ヶ月で完成させるというオファーを出してきたというのがニュースになった。

これに対して、ある建設会社の幹部が個人的な席で「交代勤務でやればうちでもできるが、やっても儲からない」と言ってのけた。問題はここだ。物理的に対応するのであればできるだろう。しかし、明らかにこの2者の立脚するところは違うようだ。その米国の会社は「災害から早期に復興するのが自分たちのミッションであり、自分たちの仕事は社会に貢献することだ」だと言い切った。これは、社会貢献だから赤字でやるといった浪花節ではない。言うまでもなく、その活動は営利活動である。利益も見込んでいる。

つまり、この米国企業は自分たちの理念を明確にもっており、その理念を実現するためにプロジェクトマネジメント(だけではなく、もちろん、技術も)を改善し続けている。このような理念がある限り、学習し続けることになる。

これが学習する組織を作るための第一の条件である。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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