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第101回(2006.05.30)
学習する組織に変える(その4)〜思考を促すツール |
◆理念は必要か?
前回、100号記念で1回飛んだが、99回で指摘したように、学習する組織を作ろうとしたら、プロジェクトマネジメントに対する理念というのが必ず必要である。つまり、自分たちは何のためにプロジェクトマネジメントをやっているのか?
この件について、読者から次のような質問があった。
「プロジェクトを失敗させないためにプロジェクトマネジメントをやっているのに理念など必要なのか?」
ちょっと表現がまずかったようだが、もちろん、必要である。失敗させないというのはプロジェクトマネジメントの目的だ。理念というのはもともと、このような目的の背後にあるものだ。何のために失敗しないようにしたいのか?
◆理念と目的
たとえば、SI企業がプロジェクトの収益性を高めるために失敗しないという目的を設定しているとしよう。この話は現状からいえば、プロジェクトコストが受注金額の中に納まることを意味しているかもしれない。しかし、理念のある企業はここがだんだん変わっていく。つまり、赤が出なければ「失敗ではない」という状況は通過点に過ぎない。当然、目標収益率が上がってくる。するとそれまで成功だと思っていたプロジェクトが失敗になる。これが健全な経営である。
このときに、何を目指しているのか?これが理念だ。ここで収益性を高めるといった理念だと学習は起こらない。ビジネスであるので、そんなに無制限に収益が上がるはずがないからだ。しかし、そこで進歩が止まってしまったのでは意味がない。たとえば、ここに事業拡大といった理念が入ってくると、そこからプロジェクトマネジメントに対して別のニーズが発生し、学習は続く。こういう話である。
◆ベストプラクティスは有効か?
さて、前回の振り返りが長くなったが、理念と同時に必要なものはツールである。今回はこの話をしたい。PM(R)には実に多くのツールがある。プロジェクトマネジメント計画書をはじめとして、スケジュール計画、リスク計画、WBS、EVMなどである
。
これらのツール、たとえば、WBSは、多くの場合、過去の事例を見て使われていくことが多いし、これをレッスンズラーンドだといっているケースが多い。もちろん、テンプレートやベストプラクティスになっているケースも多い。テンプレートはテンプレートでいいが、いいのだが、これを学習の成果だというのは、よく考えてみる必要がある。
◆思考停止を引き起こすツール
実際に多くの組織で指摘されていることだが、事例を使うようになるとあまり考えなくなるという問題がある。とりあえず、過去の計画書に書かれている内容を浅いレベルで理解し、それを自分のプロジェクトの計画に応用する。たとえば、見積値を参考にする。何ゆえにそのような見積値になっているのかをあまり深く考えず、プロジェクトの表面的な情報からおおよその判断をして、数字を決める。これをやっていると、だんだん、見積が甘くなってくるという問題もあるが、より本質的な問題は、なぜ、そうなっているのかを深く考えられなくなることである。見積の問題をとれば、このようにできた実績を元に、生産性基準のようなものを作る。ここまで行くと、もう完全に「思考停止」状態に陥る。言い換えると学習停止。
つまり、「なぜ、生産性標準がこの値なのか」と考える人はほとんどいない。とりあえず、標準を使っている限りにおいては、見積の精度がでなければ責任転嫁をする相手ができたので、標準値ありきになる。こうなってくると、これ以上精度を上げることはできなくなる。
◆思考を促すツール
継続的に学習をしていくためには、仕事の内容を「思考を促すようなツール」に落とし込みことが肝要である。たとえば、WBSであれば、スコープに対するMECE、ロジックツリー、機能展開図、クロスファンクションマップ、ワークフロー、などのツールを使って考え、それらを眺めながら、最終的にWBSを作るといった作業方法が必要なのだ。
この際に、MECEやロジックツリー、機能展開図などのツールのレベルでしっかりと理解しながらプラクティスを使っていく。そこに、学習が起こり、これが組織のWBSを作る能力を引き上げ、ひいてはプロジェクトマネジメント能力を引き上げる。
実は、これは機械的にできないのが味噌である。つまり、MECEスコープ、ロジックツリーなどから機械的にWBSができるわけではない。いろいろな情報をう〜んと眺めながら、思考し、WBSを作る。そこには思考や判断が入るのだ。
最後に余談だが、トレーニングでそのようなツールの使い方を要求すると、エンジニアの中には反発する人が結構多い。このような発想の人によい仕事はできない。ソフトウエアエンジニアでいえば、コードの意味も解さず、とりあえず、マネをして作り、動いたらそれでよしとするようなパターンだ。品質保証はできても、このようなソフトウエアの品質は最悪だ。そのような人はぜひ、学習することの意味を考えてみてほしい。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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