第120回(2006.10.10) 
段階的詳細化

◆ローリングウェーブ計画法

比較的早い時期からプロジェクトマネジメントの導入に取り組んでいる組織では、この数年くらいで、やっと段階的詳細化という考え方が定着してきたようだ。PMBOK(R)ではローリングウェーブ計画法という。

プロジェクトマネジメントではツールをみても、WBSとOBSでスコープ管理をし、マイルストーンでスケジュール管理していくことは段階的詳細化による計画とその実行を前提にしていると考えてよい。

 WBS
 OBS

ものの考え方としても、デッドラインがある中で仕事をする場合、一刻も早く着手するために時間の近い範囲の計画だけを詳細化して、遠い時間の計画については直近の作業の実行結果を踏まえて計画の精度を上げながら実行していくという考え方は自然である。


◆段階的詳細化の難しさ

にも関わらず、段階的詳細化というやり方は実施が難しい。なぜだろうか?

問題はプロジェクトガバナンスと組織のガバナンスの対立にある。プロジェクト憲章が発行され、プロジェクトマネジャーが任命されるとプロジェクトガバナンスはプロジェクト(マネジャー)に委譲される。ところが、その中でリスクについては、何からの形で母体組織が強い影響力を残すことが多い。平たくいえば、リスクに対しては口出しをし、納得するまでプロジェクトの実施を承認しないケースが多い。

ところがこの場合、リスクをコントロールできるということでは納得しないことが多い。ここが問題である。計画上、リスクがなくなっていることが求められる。例えば、SIのプロジェクトで設計に着手する前に、開発要員の確保のリスクが限りなくなくなっていることを要求される。

これは本質的に矛盾をはらんでいる。仕様が決まる前、つまり、開発工数の精度が低い段階で開発要員の確保のリスクを小さくするというのは論理矛盾である。設計の作業が進んでくれば徐々に精度が上がってくる。それに伴いリスクが小さくなってくるのだが、母体組織のガバナンスを維持していくためには、このような考え方は認めにくい。

プロジェクトのリスクを容認するということは、組織のガバナンスのリスクが大きくなるということだ。


◆組織のガバナンスとプロジェクトのガバナンスの調整

プロジェクトのガバナンスと組織のガバナンスの調整をするのがプロジェクトスポンサーの役割である。しかし、実際にはプロジェクトスポンサーが機能することなく、この調整が行われていない。ここで、組織の中ではプロジェクトマネジャーよりラインマネジャーの方が上位であることが多く、従って、冒頭に述べたように組織のガバナンスが優先されるケースが多い。場合によっては、これがプロジェクトガバナンスと一体化し、プロジェクトマネジャーはただ単にプロジェクトマネジメント担当のような位置づけをされているケースすらある。

段階的詳細化を実施するためには、まず、このガバナンスのマネジメントをきちんと行うことが肝要である。

ここでポイントになるのは、権限委譲の意味である。母体組織がプロジェクトに対して行う権限委譲は組織ガバナンスに関する権限上である。ここを勘違いしているケースが結構多い。プロジェクトを立ち上げるということは新しい組織を一つ作ることであるので、そこに当然ガバナンスが発生する。これがプロジェクトガバナンスだが、プロジェクトガバナンスを任せることを権限委譲だと考えているケースが多いのだ。プロジェクトに関することはすべて任せたという言い方がよくされるが、それだけでは、段階的詳細化はうまくいかない。組織ガバナンスの中で、人事、キャッシュフローなどの一部分を権限委譲する必要ある。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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