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第98回(2006.05.09)
学習する組織に変える(その2)〜何を学習すればよいのか? |
◆失敗から何を学ぶのか?
意外とこの問題は難しいし、また、組織学習の本質でもある。よく「失敗に学ぶことが大切だ」という。では失敗から何を学ぶのか?
仮に、なぜ失敗する(した)か、失敗しないようにするにはどうすればよいか、つまり、失敗パターンと、成功パターンを失敗から学んだとすれば、それでうまく行くのだろうか?そんなに単純な問題ではないことは明らかだ。
仮にこれらのパターンを学んだとして、その網の目を潜り抜けるように出てくる問題は、失敗につながる状況が起こっているかどうかの見極めができないという問題だ。
◆パターンだけではダメ
たとえば、SIのプロジェクトで典型的な失敗パターンに、顧客(発注者、ユーザ)の経験が乏しく、仕様を決めきれないというのがある。プロジェクトが終わった後で、そうだった振り返るのは簡単である。しかし、プロジェクトが進行中にそのような顧客であるかどうかの判断をするのは、結構、難しい。少なくとも、判断のために一定の経験やスキルが必要なことは明らかだ。すると、そのような経験やスキルがないプロジェクトマネジャーがいくら「失敗の法則」を覚えたところで、気がついたときには手遅れという状況になってしまう。あるいは、過剰反応をして、別の問題を引き起こすのがオチだ(たとえば、このあたりの見極めに自信のないPMはやたらと顧客に杓子定規に接する傾向があり、それが顧客の必要以上の慎重な対応を生み出すことが多い)。パターン以外にも、この点に関する学習が必要である。
◆個人のスキル学習も必要
たとえば、仮に運よく、気がついたとしよう。しかし、成功法則が「顧客との壁を破り、腹を割って話をすること」だとすれば、きっとこれができないプロジェクトマネジャーは少なくない。つまり、対処方法が分かったところで、その対処ができなければ、これまた、意味のないものになる。従ってこの部分も学習が必要である。
◆ビジョンの学習も必要
たとえば、仮に腹を割って話し合うことができ、顧客と分かり合えたとしよう。ところが、この「仕様が決まらない」という事態に対して、自分たちがどのような方針で臨むのかが決まっていないと、また、ここで悩むことになる。「もう少し中に入っていってサポートする」のがよいか、「開発工程の段取りをつけてもう少し、顧客に時間を与える」のがよいか、等々。実は、この問題、そんなに場当たり的に決められる問題ではない。組織としてのこの顧客へのスタンス、もっと言えば、顧客とというものへの経営としての位置づけなどが大きく影響してくるのだ。「ここで、手を出せば、将来にわたってこの部分はベンダーの分担になる、それは、顧客の自立を謡う弊社の考えにそぐわない」といった類の話が出てくるわけだ。
◆「屁理屈」ではなく、「現実」
「屁理屈」を言っていると思う人もいるだろう。しかし、これは屁理屈ではなく、現実である。SI業界では、本気でPMに取り組んでいる企業が組織としてのレッスンズラーンドの機会を設定しているにもかかわらず、「同じ失敗」がなくならないという現実の原因になっている現実である。
組織が学習するということは、失敗を頭で理解することではない。失敗を繰り返さないように判断できる、行動を繰り返さないように行動できることが必要なのだ。ここにもまた、コンピテンシーの壁がある。
◆組織が学習すべきもの
そろそろ、冒頭の設問に戻る。組織が学習するとは、何を学習すればよいか?
まず、一つは間違いなく、パターンである。上でいろいろと書いたが、だけど、組織で失敗法則、成功法則を共有しないことには学習は始まらない。ただ、これだけではダメというのが上の話だ。
二つ目は、個人のスキルである。個人のスキルが学習を経て向上していかなくては話しにならない。
三つ目は組織としての問題の捉え方である。つまり、目の前で起こっている現実をどのように理解するかという点における共通認識を作ることである。
それから四つ目は経験を通じて、自分たちはどうしたいのかをみんなで共有することである。それは上に述べたように組織の方針として与えらることもあれば、ボトムアップに作り上げていくこともある。
これで完璧かというと、もう一つかけているものがある。個々人の力では手に負えないような行動をしなくてはならない場合には、プロジェクトチームとして能力を高めていく必要がある。つまり、チーム育成が必要なのだ。
◆学習をプロディースするPMOリーダー
プロジェクトマネジメントの組織成熟度を挙げていくというのは、この5つの要素をバランスよく学習していくことが必要で、放っておいてできるものではない。誰かプロディースする役割が不可欠である。組織マネジメントにおける一般的な表現では、変革リーダー、チャンピオンといった言い方がされる。プロジェクトマネジメントの場合には、これに相当するのがPMOリーダーである。
◆ピーター・センゲの組織学習理論
実は、この5つは、組織学習に関するグル的存在であるMITのピーター・センゲが学習する組織の5つの能力としてあげているものに他ならない。センゲは、これらを
システム思考
メンタルモデル
自己マスタリー
共有ビジョン
チーム学習
と呼んでいる。この後の議論はセンゲの理論にはあまり深入りせずに、どのようにそれをプロジェクトマネジメントの組織成熟度の向上の中で実現していくかを議論する予定だ(書き出してみないと分からないけど、、、)。
センゲの理論に興味がある人は、
ピーター・センゲ:「最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か」
http://mat.lekumo.biz/books/2005/03/post_4.html
を手にとってみてほしい。原書は15年前の本であるが、いまだに、ピチピチの新鮮さを保っている。 ◆関連するセミナーを開催します ╋【開催概要】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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