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第80回(2005.05.16) 
ポジティブ思考とリスクマネジメント(2)

◆リスクマネジメントの理想像

前回からの続き。では、リスクマネジメントは何のためにあるのだろうか?今回はこの問題について議論をしてみたい。

リスクマネジメントの教科書を読むと、リスクへの対処方法は「回避」、「緩和」、「受容」、「転嫁」があるとなっている。特に、意識されるのはリスクの回避である。プロアクティブな考え方のリスクマネジメントではプロジェクトの早い時期でのリスクへの対処を謳う。

それゆえに、前回、お話したように、リスクマネジメントでは、ひたすら、ネガティブな思考が行われる。できない、できないかもしれない、だめだ、だめかもしれない。こんな危険がある、などなど。


◆明るいリスクマネジメントと暗いリスクマネジメント

これらはいずれも、リスクを「悪いもの」、「望ましくない結果をもたらすもの」と捉えている。せいぜいよくみて、「必要悪」である。

したがって、リスクマネジメントとは理想的には、プロジェクトの開始前にすべてのリスクを取り除いておくことである。しかし、それは現実的ではないので、「緩和」したり、あるいは、「転嫁」することで済ませるものがあっても仕方ない。場合によっては、「受容」もやむ得ない。となるのだ。

リスクマネジメントとは暗く、ネガティブなものである。

しかし、リスクマネジメントは本当にそんな目的のためだけに行われるのだろうか?

決してそうではないと思う。リスクマネジメントにはもう少し、ポジティブな側面がある。あるいはあってほしい、明るいリスクマネジメント。

たとえば、前回、阪神大震災の際の阪神高速の復旧の話をしたが、同じような話はビジネスの場面でもよくある。たとえば、営業は半年で商品開発が終わることを期待しているとする。その要望が、営業部長から開発部長にいき、開発部長の命令で半年でやるのと、営業担当者とプロジェクトマネージャー、メンバーの間で合意し、プロジェクトとして半年でやるのは、仮に同じリスクがあるとしても、そこで発生するリスクの質が違う。


◆能動的リスクと受動的リスク

前者の場合は、受動的なリスクである。受動的なリスクは何とかして避けたいリスクである。したがって、できない理由を考え、それを盾に取り、排除する方向で上司と交渉することになる。

後者の場合は、能動的なリスクである。これはあえて、リスクをとることを選び、そのリスクを乗り越えてやり遂げる「覚悟」をするのだ。つまり、できる方法を考える。

リスクをとってでもプロジェクトをやり遂げたい場合、何があってもやり遂げるという覚悟、そして、いかなる問題に対しても問題解決をしていくという覚悟が必要なのだ。藤巻氏が「チームリーダーの教科書」に書いているが、この覚悟こそ、リスクによるメンバーの不安をカバーできる唯一の手段なのである。

 「チームリーダーの教科書」

さらにいえば、受動的なリスクはメンバーを萎縮させる。しかし、能動的なリスクはメンバーの奮い立たせ、プロジェクトを活性化する。

よく「おとな」とか「こども」ともののたとえ方がある。子供は「怖いもの知らず」であり、突進していく。これではリスクをマネジメントしているとはいえない。やがて成長し、それなりに痛い目にも遭い、世の中にはリスクがあることを知る。すると、今度はひたすらリスクを避けるようになる。これではまだ、おとなであるとはいえない。もっと成長すると、リスクに対して分別ができてくる。積極的に取るべき(能動的)リスクなと、避けるべき(受動的な)リスクの分別がついてくる。こうなるとやっとおとなになったといえる。


◆プロジェクト思考的リスクマネジメント=おとなのプロジェクトマネジメント

これについては、デマルコの言い方が名言である。リスクマネジメントとは「おとなのプロジェクトマネジメント」である。

 おとなのプロジェクトマネジメント

ただし、覚悟だけで突き進むというのは、戦闘機に竹槍では向かっていくようなものである。まったく歯がたたないと思われるリスクは回避した上での話しであることは言うまでもない。回避するリスクと、自ら進んで取るリスク、このバランスが重要である。

言い換えると、ネガティブ思考のリスクマネジメントから、ポジティブ思考のリスクマネジメントに変えていく。これこそ、プロジェクト思考的リスクマネジメントである。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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