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第78回(2005.03.23) 
ちょっとまて!

プロジェクト方式のデメリットを考えてみよう

◆時間で金を買う

前回まで、プロジェクト思考ということで、7回にわたり、目的のマネジメントをする、顧客価値、付加価値を高めるという議論をしてきた。

プロジェクト指向についてはあと数回続けていく予定だが、ちょっと今回は趣向を変えて、プロジェクトという仕事の仕方(方式)、特に、目的指向や成果指向のデメリットについて考えてみたい。プロジェクトというとメリットばかりが強調され、この議論はあまりされないが、きわめて重要な問題である。

しょっぱなから脱線するが、世の中を騒がしているライブドアの問題について触れてみたい。ホリエモンことライブドア堀江社長がたびたび、
 「時間を金で買う」

と発言し、この発言がある種の人たちからは批判の対象になっている。「金で何でもできるというのは間違いだ」と。この発言は、自社の構想である「メディア・ファイナンシャル・コングロマリット」の構築を一からすべて自前でやるのではなく、買収ですむ部分は買収で済ませるといった趣旨の発言である。

実はプロジェクトでも「時間を金で買う」ことはよくある。たとえば、外部のベンダー企業に「特急料金」とでもいえる特別料金を支払って、サービスや資材を調達をする。このような調達は典型的な「時間を金で買う」やり方である。

というよりも、プロジェクトとはそもそも、金で時間を買う活動であるといってもよいのかもしれない。もちろん、予算はあるので、無制限に金を使えるわけではない。しかし、だからこそ、余計に時間を金で買うことの巧拙が成功の分かれ目になる活動だといえる。


◆組織能力への影響

プロジェクトとして取り組むことのデメリットは一番目はこの点である。金で時間を買うというのはいいことばかりではない。金で「もの」は買える。組織を買収することもできる。しかし、総合的な組織能力は買えない。ここを忘れるべきではない。技術調達をするとしよう。もし、金さえあれば、ライセンスを調達することはもちろん、そのライセンスを持っている企業を買収することも可能である。

しかし、ほとんどの場合、これは足し算にしかならない。自前で開発に取り組んだ場合、あとあと、ほかの技術やプロジェクトとのシナジー効果が働き、掛け算で効いてくる可能性がある。これは大変な損失になることがある。

特に、ライブドアのやっているような事業レベルの話ではなく、オペレーションレベルでの話であるので、手足になる部分を他にゆだねることになる。これではいざとなったときに動けない可能性が高い。

残念なことに内外製分析(Make-or-By)では、あまりそのような視点ではものを考えない。あくまでもそのプロジェクトが問題なのである。

◆人材育成への影響

次に人を育てるという視点からのデメリットがある。プロジェクトはあくまでも目的至上主義的な側面が強い。このことを人材面でみれば、人材育成がままならなくなることが多い。場合によっては、使い捨て主義に陥る可能性もある。

プロジェクトという形式をキャリアという観点から見ると、就社ではなく、企業とは無関係に自己責任でプロジェクトを渡り歩き、その中で、自己責任でキャリアの踊り場をつくり、自己成長を画策していくというキャリアモデルに適している。

日本のように、組織の中でのキャリアパスがあり、各人がキャリアの踊り場を持ちにくい社会ではこれは深刻な問題になる。

◆顧客関係への影響

同様に、顧客との関係でも必ずしもよいことばかりではない。顧客のうわべの声だけに耳を傾け、「顧客の要求だからやる」だけで片付けて、何も考えずに対応してしまう。このような対応では本当の意味での顧客との信頼関係は生まれない。顧客との信頼関係の構築は、対立と議論、そして相互理解というコミュニケーションによってのみ可能である。目的至上、成果至上が過ぎると、そのような信頼関係の構築は難しくなる。


◆だからこそ!プロジェクト指向

このようなデメリットはほかにもたくさんある。一言でいえば、プロジェクト方式のメリットの裏返しがデメリットであるといってもよい。プロジェクト的がよいか、ライン的がよいかは絶対的な判断はしにくい。あくまでもその企業の事業モデルの問題であり、自社の事業モデルにどちらがフィットしているかという問題である。

プロジェクトという方式にはこのようなデメリットが潜んでいることをきちんと認識し、その上でプロジェクトをプロジェクトらしく実施していくことがプロジェクト思考には求められる。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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