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第75回(2004.12.27) 
PMstye流プロジェクト思考(6)〜付加価値を高める(3)

◆コストダウンに関する議論

前回までの議論でだんだんはっきりしてきたのは、付加価値を高めるためには、コストダウンより、生産性の向上を考えるべきだということだ。

ここで再び、脱線する。コストダウンについて考えてみたい。前回の議論の本質にあるのは、コストダウンというのは無駄なコストの削減である。したがって、月100万の要員の代わりに月80万円の要員を入れてもコストダウンに結びつくとは限らない。そこで生産性の議論が出てくる。当たり前というか、原則論の話である。ただし、SES(システムエンジニアリングサービス)契約を使っている場合などを見ているとこの原則を忘れているケースが多い。エンジニアの生産性を明確に計測する手段を持たないためだと思われる。

さて、それはよいとして、このようにコストダウンには、無駄なコストの削減と、無駄ではない、つまり、無駄を全部省いたコストの削減の2つのフェーズがある。製造業には「乾いた雑巾を絞る」と表現されるくらい、熾烈なコスト削減の要求があるが、これなどはまさに無駄を省いたコストの削減をさしている。無駄を省いたコストの削減を実現するのは、技術力である。技術力以外にはないと言ってもよいかもしれない。


◆技術力を発揮する場面

技術力というと、イメージ的には他社にできないことをできる能力だと考えられる場合が多い。特にIT系の企業ではその傾向がある。しかし、それだけが技術力だと考えるのは総計である。特にある技術が成熟してくると、あるモノを実現するのに、如何に安いコストで実現できるかというところに技術力の差が現れることが多くなる。たとえば、工法を変えてみたり、材料を変えてみたりといったことに技術が使われるようになる。IT系の人にはピンとこないかもしれないが、たとえば、プログラム言語が登場し、普及してくると部品化のような手段で半自動プログラミングの工夫をして工数を減らそうとする。これなどが該当する。

さて、プロジェクトの中でのコストダウンとはどちらをさしているのだろうか?これは両方である。無駄なコストの削減は徹底的に行わなくてはならない。しかし、それでも予算的に折り合わない案件が増えてきている。このときに、プロジェクトオーナーの価値のレベルに立ち返り、見直しを行い、交渉をするという方法はある。しかし、このやり方には限界がある。今のところ、IT業界では幸か不幸か見積もり技術が未熟であるのでこのやり方の問題はあまり表面化していないが、ほかの業界では軒並み限界が露見しているのではないかと思われる。


◆ラインとプロジェクトの差

この話は結構根が深い話である。冒頭に述べた製造業の乾いた雑巾を絞るという話はあくまでもラインの話である。つまり、コスト低減のための技術を行い、その費用は何年かの間の製品コストの均等にばら撒くことができる。しかし、プロジェクトではそうは行かない。あるプロジェクトで予算的にどうしてもオーバーしてしまうので、技術開発をしてクリアしようとすれば、逆にコストがかかるし、スケジュール的な問題が発生してしまう。だから、ここに着手していないし、また、交渉によってなんとかという発想になる。

と書くと、この問題の解決方法は、抜本的な組織の変革といったものしかないような気がしてしまうかもしれないが、逆である。この問題は、各プロジェクトで、技術的な工夫を少しずつしていくことしかない。言い換えると、各プロジェクトで、計画時点で予算やスケジュールがきわどいときには、そのようなコストや納期を実現する問題解決プロセスを走らせ、実現していくしか、生き残る道はないだろう。このようなマネジメントはチーム育成のマネジメントだと考えることもできるし、スコープマネジメントだと考えてもよいだろう。


◆人の生産性を上げる

技術的な問題解決以外にもう一つ考えるべきことは、人の生産性を上げることである。

まず、技術の問題を取り上げたのは、プロジェクトだからといって生産性の改善の問題をすべてを人の問題に落とし込んでいくのは間違いということを強調したかったためである。上に述べたようにプロジェクトではラインと異なり、時限性が強く、また、コストの配賦ができないため、むしろ、人の生産性が生産性向上の本筋であるし、重要である。

今回はここまで。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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