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第74回(2004.12.20)
PMstye流プロジェクト思考(5)〜付加価値を高める(2) |
◆プロジェクトの付加価値
前回は、財務会計上の付加価値とは何かをざっと説明した。結局、付加価値というのは
当社が外部から支払ってもらうお金−当社が外部に支払うお金
であることがお分かり戴けたと思う。これをプロジェクトで考えてみると、プロジェクトの付加価値は
プロジェクトが外部から支払ってもらうお金−プロジェクトが外部に支払うお金
だといえるのだろうか?
◆付加価値の前提
これはある意味で正しく、ある意味で正しくない。この問題を考える前に、もう一度、企業の付加価値について、その前提を考えてみよう。皆さんは、企業は社員を増やしたがるのかを考えてみたことがあるだろうか?なければ、考えてみてほしい。
一人一人が一定の売上(生産)をあげると考えた場合、人数が多くなれば、売上(生産)も多くなり、たくさんのシェアを獲得し、そのことがさらにシェアアップを生み出したり、あるいは、市場での販売価格の決定権を握るためである。これは裏を返すと、人数分だけの市場を確保しなければならないことを意味している。
仮に1000人の人を雇って、年間100億円生産できるだけの生産設備を確保したとする。そこで、ある年は150億円の注文があれば、50億分は自社では対応できない。したがって自社で生産するより安いところにお金を払って調達するか、あきらめる。逆に50億円しか注文がとれない場合には、1000人のうちの500人は生産活動ができない。ところが、この500人を社員として雇用していれば、給与は払わなくてはならない。つまり、遊ばしておくことになる。したがって、このような場合、営業利益さえ確保できれば、いくら安くしても人数分だけ(厳密には設備分)注文をとってきた方が会計上はプラスになる(しかし実際にはブランドなどのバランスシートには出てこない損得があるので、あまりそんなことはしない)。
◆プロジェクトの付加価値の前提
少し長くなったが、ここまでは新入社員教育のときに習うことだ。では、プロジェクトになるとどうなるか?プロジェクトの発想はもともと仕事(成果)の量にあわせて、必要な資源を決めるという発想である。つまり、原則的には人が遊んだり、足らなかったりすることはない。つまり、プロジェクトを中心にしてみる場合、母体組織の社員をメンバーとして使う場合には、外部から労働力を買ってくると考えなくてはならない。また、設備も有償で借りてくることになる。その意味で、
プロジェクトが外部から支払ってもらうお金−プロジェクトが外部に支払うお金
と考えるのは正しいといえる。
しかし、ここで考えなくてはならないのは、プロジェクト組織というのは固定的な人件費負担がないので、たとえば、社員をメンバーにすれば1ヶ月150万円の人件費をプロジェクトから母体組織に(形式的に)支払うことになるが、外注を使えば100万円ですむという状況があったとしよう。このときに、どちらを選択するのかという問題が出てくる。当然、上に書いた付加価値の定義からは外注を使った方が付加価値が上がる。
しかし、母体組織には一定の社員がいるため、すべてのプロジェクトが外注を中心にプロジェクトを編成すると、社員の余剰が発生してしまう。
そこで、上に述べたような経営環境の変化(受注、市場の増減)に対応しやすくすることも睨んで、できるだけプロパーな社員を減らしたいという経営上のニーズが生じている。プロジェクトの構成で、プロジェクトマネージャーと数名のキーマンだけが社員で、それ以外は外注というパターンが珍しくなくなってきている。
が、本当にそれでよいのかという問題である。この話の根っこは意外と深い。特にIT系企業では深いので、しばらく、IT系企業を念頭において議論しよう。
◆外注を中心にプロジェクトを編成する際の問題
外注を中心にプロジェクトを編成する問題は2つある。そしてのその2つが深い関係がある。IT企業の場合、外注によるコスト削減という選択をパフォーマンス(生産性)の向上の努力をした上での施策でないケースが圧倒的に多い。さらに、その結果、技術が社内に残らないという問題が発生してきている。これは、物理的に外注にコア技術部分を依頼していることもあるが、それよりも生産性に対する執着がなく、その結果、工法が発展しないという部分の方が大きいと思われる。
最近、さらなるコスト削減が求められるようになり、中国オフショアという選択をするようになった多くの企業がこの2点に気づくようになってきている。
◆外注すればコストが抑えられるのか?
まず、外注をすればコストが抑えられるという発想が何に基づいているかというと、主に、自社と外注企業で社員に支払っている報酬と、自社で保有している資産の差である。一般に大規模なプロジェクトの遂行には資金力が必要であり、したがって企業規模が必要になる。同時に、そのようなプロジェクトでは優秀な人材が必要であり、優秀な人材を確保するために報酬の水準を上げることになる。これが人件費が高い大きな理由だ。
このように考えると、外注企業から要員を得たときに、コストを抑えると考えることは必ずしも正しくない。コストパフォーマンスでみればそんなに変わらないと見るべきだろう。むしろ、重要なことは生産性を上げることによって、コストを下げることである。つまり、150万の人件費に対する成果の量を上げることである。
今回はここまでにする。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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