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第67回(2004.09.13) 
問題解決と学習(4)

◆経験とリーダーシップ
 前回、学習の重要性について述べた。ここで、もう一度、問題解決ということに話を戻して、なぜ、学習が必要かということを別の視点から考えてみたい。
 最初にプロジェクトマネージャー、あるいはプロジェクトリーダーに対して何が求められるかということを改めて考えてみたい。われわれは、気持ちのどこかで、プロジェクトマネージャーに対して「経験」を求めることが多い。いうまでもなく、これから起こるプロジェクトの中でのさまざまな事件に対して、一つでも多くの有効な経験をしていて、慌てないで対処することがプロジェクト成功への道につながるからだ。

◆頼りにできる経験のない時代
 しかし、多くの分野において、このような方程式は成り立ちにくくなっていることも事実だ。例えば、著者がよく引き合いに出すIT市場では、需給バランスが変化し、売り手と買い手の力関係が変わってきている。このような状況は一義的には営業活動に大きな影響を与えるが、受注後のプロジェクトの進め方にも当然大きな影響を与える。売り手市場のときの発想で顧客(ユーザ)に対応し、それを機にその顧客を失った例を何回か目撃したことがある。
 具体的な会社が特定できないように少し、脚色して一例だけ紹介しよう。大手のSIベンダーの大手流通企業向けのシステムインテグレーションで、顧客からの要求変更があった。それまでは、「作ってあげる」という関係の中から暗黙の了解で、スコープ変更と、それに基づく契約変更はするものの、顧客が従来納期を希望しても、「仕様変更を言ってきたのはお客さまの方ですから」と取り合わず、変更部分の追加開発に必要なリソース(時間、金)をとくとくと説得するだけだった。
 むしろ、顧客側の担当者の社内の顔を立てるためにやっているんだといったことで、部分リリースのようなやり方をして恩に着せるようなさえすることもあった。ところが、eビジネス用のシステム開発の案件で同じようなことが発生し、なんとプロジェクトマネージャーは顧客に事業スタート時期の変更を求めた。この顧客から次に引き合いが来ることはなかった。プロジェクトマネージャーが過去の経験に基づいて行動し、失敗した例である。
このような状況になるかどうかはともかく、いずれにしても、経験に過度の期待ができる時代ではなくなったことは確かだろう。このような時代に必要なものは何かというと、リーダーシップ以外にはないだろう。

◆メンバーを引っ張るより、メンバーを動かす
経験が効果的だった時代には、そのような経験を持つ人材をプロジェクトマネージャーに当てて、メンバーはプロジェクトマネージャーについていっていればよかった。プロジェクトマネージャーがこけたらプロジェクトは終わりという意味で、プロジェクトマネージャーの責任は重大だった。
この部分での責任はあまりなくなってきた。このようなスタイルは組織を運営する立場からはもっとも楽だし、経験と目の前の案件の類似度が大きければ失敗も少ない。その意味で、よいやり方だ。多くの企業が、今、プロジェクトマネージャー50人育てたいとかいう取り組みに躍起になっているのは、このようなスタイルを追いかけているからだろう。
しかし、このようなスタイルへの思いはノスタルジーに過ぎないだろう。仮に、10年前に、当時のプロジェクトを成功させることができるプロジェクトマネージャーを50名育てられたとしても、今、プロジェクトを成功させられる人は10人いればいいところだろう。
今のプロジェクトマネージャーが求められているのは、経験によりメンバーを引っ張ることではなく、メンバーを巻き込んで問題解決をすることである。自分がプロジェクトの中の課題に対して何ができるかということを考える前に、すべてのメンバーを活かしきる問題解決をどのように進めるかである。つまり、リーダーシップである。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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