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第64回(2004.08.23) 
問題解決と学習(1)

 プロジェクトマネジメントをめぐる組織学習が急に注目を浴びるようになってきた。レッスンズラーンドを中心にして次のプロジェクトでは同じ失敗を防ごうというのがもっとも基本的な活動である。これはプロジェクト品質の向上活動だと位置づけることができる。

 このような傾向が見られるようになって、少し、気になっていることがある。それは、プロジェクト終了後に学習をしていくことは結構なことなのだが、プロジェクトの中での学習は不要なのかという問題である。プロジェクトでは、まず、目的の達成が最優先されることがあり、また、ライフサイクルの流れがあるので気にされることが少ないが、一つのプロジェクトの中で同じ失敗を繰り返しているケースというのは少なくない。

【事例1】
 あるプロジェクトで、初めての開発環境を採用した。もちろん、事前に調査、フィージビリティスタディをしていたのだが、結果としてうまく活用できなかった。原因はメンバーのスキルレベルにあった。メンバーは経験の少ない人が多く、新しいものへの対応能力が劣っていた。このため、新しい開発環境を目の前にして惑い、うまく活用を立ち上げることができなかったのだ。そこで、プロジェクトマネージャーのAさんは仕様への若干の手戻りは覚悟の上で、いつも使っている開発環境に変更することにした。
 さて、そのようなトラブルがあったが、プロジェクトそのものはそれなりの進捗で進んでいた。ただ、開発環境をめぐるトラブルの影響は解消できず、プログラムの設計のあたりから要員を追加することになった。Aさんがよく使う企業P社に依頼をしようとした。P社のメンバーならプロジェクトメンバーとの面識もあり、やり方もわかっている。ところが、あいにく空きがなく、同僚のBさんがよく使う企業S社に依頼することになった。AさんはS社は初めてで、メンバーにとってもはじめてだ。不安があるが、Bさんの話ではとりあえず、スキル的な問題はなさそうなので、すぐに決定した。
 結局、このプロジェクトで、S社を選択したのは失敗で、納期が70%オーバー、コストは50%オーバーでなんとか収拾をつけるのがやっとだった。

 上の事例を読んで、何の事例かと思った人も多いと思う。この事例は、Aさんから聞いた事例であり、自分の目で見たわけではないが、問題解決の失敗の事例である。この事例を読んで、技術選択の失敗へのAさんの対応(問題解決)は正しいと思われる方が多いだろう。確かに、プラットホーム選択に関する問題解決は、それなりの成果を上げている。

 しかし、Aさんは一つのプロジェクトの中で同じ失敗を繰り返している。もう一つは外注の選定である。つまり、Aさんは開発環境の選定において経験の不十分なメンバーに新しい課題を背負い込ませるという失敗をし、それを、それなりのコストを支払い、慣れたものに変えるという対処をしたにもかかわらず、今度は外注の調達で同じことを繰り返しているのだ。

 ここで考えなくてはならないことは、プロジェクトにおける問題解決も、基本的にはプロジェクトにおける再発を防止するような解決策でなくてはならない。上の事例は結構、複雑な事例だと思うが、以下のような例であれば、心当たりがあるのではなろうか。

【事例2】
顧客に期日を明確に伝えておらず、顧客からのデータの提供の遅れで設計のスケジュールが遅れてしまった。そこで、顧客のスコープとの関係が出てくる場合には、顧客への確認を周知徹底しようということを申し合わせた。その後、スケジュールでトラブルことはなかったが、顧客へのヒヤリングが不十分だったのだ、要求の実現漏れがあり、仕様の差し戻しがあり、結局、納期は大幅に遅れた。

この例だと繰り返しがもっと明確だろう。顧客とのコミュニケーション全般に問題があるにもかかわらず、それに起因するトラブルが発生したときに、目の前の問題だけを解決する問題解決しかしておらず、別の形で問題が再発してしまったという典型的な例である。

プロジェクトにおける問題解決とは基本的にこのような本質的に同じ問題を解決しなくてはならない。そのような問題解決は、そのプロジェクトの目的達成に対しても十分な貢献になることをよく認識しておく必要がある。

(つづく)
 
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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