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第61回(2004.07.20)
リスクとの付き合い方(3) |
◆リスクに対する「バカの壁」
2回にわたり、少し、リスクに対する戦略的な視点を述べてきた。今回は、リスクとの付き合い方でも、少し、プロジェクトマネジメントの視点から考えてみたいことがある。
話は変わるがプロジェクトマネジメントのコンサルティングやトレーニングで最近はリスクというのが注目されるようになってきた。そのような活動の中で、再三、リスクに対するリアリティのなさを感じることがある。リスクのディスカッションはなぜか異様に盛り上がる。これはプロジェクト分析をする際にもそうだし、トレーニングでケース演習をしても同じような状態になることが多い。ところが、盛り上がり方が「狼が来るぞ」的であり、本当にリスク事象が発生することを経験したことがあるのだろうかと疑問を持つようなケースが多い。
いわゆる「バカの壁」である。
なぜ、このようなことになるのだろうか?「バカの壁」の背景には、プロジェクトの計画に対する意識の問題がある。計画へのコミットメントがないのだ。計画へのリアリティのなさが、リスクに対するバカの壁を作っている。
◆計画へのコミットメント
プロジェクトマネジメントが普及してきて、線表以外の計画を作らずにプロジェクトを走らせることは減ってきている。予算表も作れば、品質計画も作っている。また、以前はあまり作らなかったコミュニケーション計画やリスク計画を作るプロジェクトも増えてきている。さらに、計画の精度についても議論されるようになってきている。
しかし、計画へのコミットメントはあまり変わっていないように思う。以前のように線表だけでマイルストーンにのみコミットしていた状態がそのまま続いているのだ。計画という仏を作って魂を入れない状態になっている。メンバーはその計画を何が何でも守ろうという意識がない。もちろん、最終品質、納期といったビジネス上、決定的なものは重視するが、「もし、守れなかったらどうしよう」という意識はきわめて薄い。守れなければないで、どうにか転ぶだろうとおもっている。
意識が薄いのはまだ、ましなほうで、さらに悪質なケースは計画は計画だと言ってはばからない。計画の作り方(プロセス)にも問題があるのだが、自分のやり方を変えない。自分のやり方では計画とうまく合わない場合には結果を出せばいいのだろうと開きなおる。
この問題はメンバーの問題ではない。プロジェクトマネージャーも似たようなもので、プロジェクトマネージャーは一国一城の主だと勘違いし、計画は母体組織への対面を繕うものだと妙に割り切っている。レビューさえ乗り切れば勝手にやってもかまわないと思っている。
極端な例を書いたが、計画へのコミットメント不足という点で6〜7割のプロジェクトでは多かれ少なかれあたっているのではないかと思う。
◆出口しか見ないプロジェクトマネジメントがバカの壁を作る
計画へのコミットメントがない限り、プロジェクトリスクなど感じようがない。逆にいえば、計画として意識している部分しか、リアリティのあるリスクというのは感じないともいえる。それが、「狼が来たぞ」となるのだ。たとえば、スケジュールリスクでいえば、アクティビティごとのスケジュールリスクは意識しないのに、「納期遅れが起こると大変だ、リスクマネジメントしなくちゃ!」となる。こんな話ばかり。予算オーバー、スコープ変更、品質問題などなど。
このような出口だけを見るリスクマネジメントは、リスクを見ていないことに等しい。
もっといえば、出口さえも結果としてしか捉えていないケースも少なくない。何も起こらないからだ。納期が遅れた。じゃあ、営業と一緒にとりあえず頭を下げて、納期を延ばしてもらおう。これでおしまい。将来はともかく、目の前のプロジェクトについていえば、多くの顧客はリスクマネジメントをしておらず、いくらベンダーが顧客を大切にすると言っても、ベンダーの方が圧倒的に強いので、とりあえず、できるだけ早く対応してほしいという筋違いなお願いをする。これでは、リアリティのあるリスク感覚を持てという方が無理な話だ。
「正しいリスク意識を高める」ためには、まず、「計画にコミットメントする」ことが先決である。次回は計画へのコミットメントについて考える。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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