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第60回(2004.07.13) 
リスクとの付き合い方(2)

◆できないことを可能にするプロジェクトマネジメント
 前回、議論したことは、リスクマネジメントだけではなく、プロジェクトマネジメント全体の問題でもある。プロジェクトマネジメントはオペレーションマネジメントなのか、それとも、ビジネスマネジメントなのかという問題である。今回はこの視点からプロジェクトマネジメントを考えてみたい。

 QCDの目標を設定し、スコープを守りながら目標をクリアしていく目的で行うプロジェクトマネジメントは本来のビジネスマネジメントである。つまり、少しでも高いQCDの目標をクリアすることが目的であった。たとえば、月にアポロを飛ばして人類を立たせるというのは、通常のやり方では到底達成目標できない非常に高い目標であった。言い換えると、「失敗しても当たり前」な目標だったのだ。

 70年くらいからビジネスの場面でプロジェクトマネジメントが用いられるようになってきた。なぜか?プロジェクトマネジメントによって、他社にはできないことを可能にすることにより、競争優位を確保できるからだ。たとえば、他社よりは短期間で製品を開発する、他社ではできない複雑な規模の製品を多くの資源を活用して実現するといった企業能力の源泉に、プロジェクトマネジメントを持ち込んだきた。

 実際に、70〜80年代にかけて、プロジェクトマネジメントの手法なしにはなしえなかっただろう製品やサービスは枚挙に暇がない。ただし、この時代の多くのものはいわゆる開発や研究であり、リピート性の薄い活動に適用されてきた。これはシチュエーションは異なるが、アポロを月に飛ばしたことと本質的に通じるものがあった。

◆プロジェクトを失敗させない失敗しないプロジェクトマネジメント
 90年代に入ってITにプロジェクトマネジメントが適用されるようになって、少し、様子が変わってきた。類似性があり、比較的小規模で、なおかつ、複雑性も低い製品やサービスの開発にプロジェクトマネジメントが適用されるようになってきた。
 つまり、プロジェクトマネジメントが、生産管理のようなオペレーションの代わりに使われるようになってきた。
 このような対象にプロジェクトマネジメントを適用することは、従来と本質的な違いがあった。これらのプロジェクトは「成功して当たり前」であり、プロジェクトマネジメントに期待されるものは、プロジェクトを失敗させないことになる。この場合、もっとも重要なポイントは実は計画ではなく、目標設定の仕方になる。如何にすれば、失敗しないような目標設定ができるかということが最大の関心事になる。このためは、見積もりがもっとも重要になるのだ。

◆あるべき姿
 では、これらの分野ではオペレーションにプロジェクトマネジメントとして続いていくのかという問題になる。前回述べたように、プロジェクトマネジメントの源泉にあるものは経営戦略である。
 今までのIT系の企業の戦略はできるだけ多くのプロジェクトを引き受けることにあった。その背景には、売り手市場であり、サービスの価格や納期の決定権を売り手が持ってきた。プロジェクトマネジメントでいえば、CDを売り手が支配し、Qのみを買い手がきめてきた。
 ところが、需給バランスがひっくり返り、この構図が成り立たなくなりつつある。価格と納期の決定権を買い手が取り戻しつつある。こうなると、売り手には、可能な限り、価格を押さえ、納期を早くしないと勝負にならなくなる。米国でこの現象が起こったのは90年代の前半であるが、日本でも遅ればせながら、このような市場状況が生まれてきた。
 このようになると、プロジェクトマネジメント能力が、そのまま、売り手が買い手に提案できる価格と納期を決める状況になる。このことは、自分たちの能力では難しい目標を設定して、プロジェクトマネジメントの能力によってそれをクリアしていくという、プロジェクトマネジメントの本来の位置づけに戻ることを意味する。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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