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第59回(2004.07.05)
リスクとの付き合い方(1) |
◆リスクにはレイヤがある
プロジェクトマネジメントの中でもリスクへの関心が高まっている。2〜3年前からの第一フェーズでマネジメントプロセスの標準化を行ってきたが、なかなか、決めたとおりには行かず、そこでリスクも考えなくてはという流れになってきている。
リスクは計画との差異の発生する可能性だということで、リスクマネジメントとしてはなんとかそのような自体が起こることを回避しようとする。これは正しい。しかし、ここで考えるべきことがある。それはリスクマネジメントを何のために行うのかということだ。
リスクマネジメントの目的をリスクを小さくするためだというように考えるケースが多い。PMBOK(R)にしても単純に読めばそう解釈できる。この考えを延長していくと、最後にあるのは、やらなければリスクはないというところに落ち着く。これもある意味では正しく、「プロジェクトマネジメントを確実に成功させる方法は失敗するプロジェクトをやらないことだ」というところに落ち着く。ポートフォリオの考え方だ。
ここで頭を整理しなくてはならないことは、リスクにはレイヤがあることだ。
◆ステークホルダマネジメントの奇異
プロジェクトマネジメントというのは本質的にオペレーションレベルのマネジメントである。これに対して、プログラムマネジメントやポートフォリオマネジメントというのはオペレーションのマネジメントではない。組織レベル、あるいは事業レベルのマネジメントである。ところが、リスクを考える場合には、この2つのレベルがごちゃ混ぜになっている。たとえば、単一プロジェクトのリスクを考えるのに、技術適用がうまくできない、要員パフォーマンスでスケジュール遅延が発生するといったことを考えると同時に、取引先が倒産することといったことを考えている。あるいは自社の社内情勢が変わるといったことを考える。ステークホルダの変化であるので一見正しいように見える。
ところがこれらのリスクを考えると、コンフリクトが生じることがある。
たとえば、スケジュールのリスクを避けるためにスコープの縮小を考える。ところが、スコープの縮小は顧客との継続的な取引を失うというリスクを抱えることになる。
このような場合どうするか?明らかに、顧客との継続的な取引を失うというリスクを避ける必要がある。そのためには、スケジュールのリスクをとらざるを得ない。これが普通の考え方だ。つまり、計画で、スコープを削減してスケジュールリスクを避けるという選択はないことになる。
◆原点は経営戦略
プロジェクトであろうと、プログラムであろうと、ポートフォリオであろうと、原点は経営戦略にある。経営戦略と呼べるようなものがないという企業も多いだろうが、経営方針といったレベルのものは必ずあるだろう。プロジェクトのリスクの中でもっとも優先されるのは経営戦略の実行に対するリスクである。このリスクが最上位のリスクである。このレベルのリスクを回避するためには、実際のプロジェクトレベルでは敢えてリスクをとる必要がある。
たとえば、こういうケースを考えてみてほしい。あなたのプロジェクトは9ヶ月の期間で顧客のWebサービスのシステムを構築中だ。ところが、開発3ヶ月目でほぼ、要件定義が終わったころに、競合が一歩先にサービスを開始するという情報が入ってきた。顧客としては、当然、競合より先にサービスを開始したく、プロジェクトマネージャーであるあなたに2ヶ月の納期短縮を申し入れてきた。
これだけの情報ではなんともいえないだろうが、このようなリスクに備えるもっとも一般的なリスク対策はスコープ分割と部分リリースであろう。ところが、仮に、この顧客企業にあなたの会社が多角化戦略の一環として出資をしており、この顧客企業の成功が戦略実行の重要な柱になっていれば、このようなリスクに対するリスク対策としては、納期とスコープの絶対遵守という線でのリスク対策になる(場合によってはコストがオーバーすることもある)。
◆プロアクティブとはリスクに対する優位性の確保
この場合、先手必勝のリスク対策により何とかリスクを前倒しにつぶすということを考えてみてもある意味で仕方ない。むしろ、戦略目標の達成のためのリスクマネジメントとして捉え、発生したリスク事象を解消しながら、戦略目標を達成するためにプロジェクト計画を変更しならが進めていくことを楽しむ必要がある。
つまり、積極的にリスクをとることにより、目的の達成の可能性を高くすることこそ、プロアクティブなリスクマネジメントである。
(以下、続く)
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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