◆品質のウィングが広くなっている
プロジェクト品質マネジメントは、成果物の品質を高くするためのマネジメントである。しかし、だんだん、ウィングが広くなっていっている。
品質管理の原点は品質の保証であり、品質保証の延長線上に品質があった。つまり、検査をやればやるほど品質はよくなるが、コストとのトレードオフにより品質が決まっていた。この状況がだんだん変わってきている。もちろん、品質保証の重要性が高まることはあっても減少することはない。その中で、2つの動きが起こってきている。
◆「知覚品質」
一つは品質という概念の変化である。それが顕著に見られるのがマーケティングの大家であるデビッド・アーカー博士が「ブランド・エクイティ」というコンセプトの中で提唱した「知覚品質」という概念だ。
ブランド・エクイティ戦略―競争優位をつくりだす名前、シンボル、スローガン
「知覚品質」とは文字通り、顧客の感じる品質で、ブランドや企業イメージが大きな影響を与える主観的な品質概念である。
例えば、SI企業がプロジェクトのたびにトラブルを起こす。そのうち、そのSI企業の構築するシステムは完璧に品質保証をしていると訴えたところで顧客は信用しなくなる。これが「知覚品質」である。逆に、毎回、きちんと約束どおりに納品される。いわゆる潜在バグはあるものの、その対応は速やかで誠意に満ち溢れている。すると、顧客はこの企業の製品は非常に品質が高いと感じるようになる。これも「知覚品質」である。
「知覚品質」は「顧客満足度」という形で計測されるのが普通である。
◆プロセスの品質
もう一つは、「知覚品質」にも影響するが、プロセスにおける品質の重視である。品質保証は基本的には、組織から外部に出した成果物に対する品質の向上を目指すものであるが、成果物の構造が複雑になってくると、これだけでは十分な品質が確保できなくなる。少なくとも、コストの制約がある中では難しい。
じゃあ、プロセスに注目しようという話になる。つまり、成果物が構成される過程での品質を極力向上させることによって、品質を底上げしようとする考え方である。プロセスの品質を上げるということは、組織の仕事の仕方が改善されているということだ。ISO9000の基本になっている考え方である。プロセスやプロジェクトマネジメントの成熟度もこの範疇である。
これらはいずれも、プロジェクトマネジメントのやり方と深い関係がある。中でも、「知覚品質」はプロジェクトマネジメントの方法に大きな影響を与える。「知覚品質」を上げようとした場合、顧客が何を望んでいるのかを明確にし、それに対して、プロジェクトとしてどのような対処ができ、顧客にどのように犠牲を払ってもらわなくてはならないかを明確にしていかなくてはならない。
◆顧客の納得性が大切
この際に大切なことは、機能としての満足度より、プロセスに対する納得性の方が影響が大きいことである。例えば、システムの仕様でいうならば、顧客にとって本当の意味で重要な仕様に対する不満がトラブルの原因になることは珍しい(そのような多くの場合は、ベンダー側が顧客満足など考えるレベルにない場合である)。むしろ、どっちでもいいような部分が議論をしているうちに重要に思えてきて、そこをきられたことが顧客満足度を下げているケースが多い。
どこに問題があるかというと、顧客の要求というのが時間の流れの中で出てきて、比較や優先順位の設定ができなくなっていることに問題がある。そのような状況の中で、自分なりの視点で状況を整理して納得できる顧客というのは稀有な存在だろう。まず、ここを押さえておかなくては、制限されたコストの中での顧客満足など実現できっこないだろう。これは、プロジェクト作業の実行以前に、企画や計画の段階で、顧客満足に対してプラニングしなくてはならないことを意味する。
では、どうすればよいか?これについては、近く、手法シリーズで解説したい。
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