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第315回(2015.01.09)
ステークホルダーマネジメントについて考える


◆ステークホルダーマネジメントが重視される時代

現行のPMBOK(R)である第5版から、ステークホルダーマネジメントが新しい知識エリアとして設定されている。戦略ノートでステークホルダーについては久しく書いていないので、これから時々、書いてみたいと思っている。

戦略ノートなので、あまりテクニカルな話は書く予定はないので、手法的なことを知りたい人は鈴木道代が書いている連載

  PMの道具箱

などを参考にして戴きたい。

ステークホルダーマネジメントはマネジメントの中心的なイシューである。ある意味で、計画やリスクマネジメントよりも重要なものであり、人で事業や組織を動かすことはステークホルダーマネジメントだといってもよい。

PMBOK(R)ではステークホルダーマネジメントの存在はだんだん大きくなっている。当初はコミュニケーションのプランを作るために、どのようなステークホルダーがいて、どのようなコミュニケーションが必要かを考えるための手段であり、知識エリアでいえばコミュニケーションの知識エリアの活動であった。

ここでお断りをしておくが、PMBOK(R)のステークホルダーという概念はプロジェクトを中心にして考えているのでプロジェクトの外部関係者だけではなくプロジェクトマネジャーやプロジェクトメンバーもステークホルダーという理屈になる。が、議論の中では特別に断らない限り、ステークホルダーはプロジェクトの外部関係者だけを指して議論を進めていくので、注意しておいてほしい。


◆なぜ、ステークホルダーマネジメントが重要になってきたのか

さて、実際にステークホルダーマネジメントはリスクマネジメント的な感覚で、利害関係の対立するステークホルダーに足を引っ張られないようにするための方策として位置づけていた人が多かったように思う。

これには、ある前提がある。それはプロジェクトで取り組む業務や活動は、プロジェクトメンバーだけで実行できる、言い換えるとそのようなプロジェクトを組むべきだという前提であった。たとえば、製品の改良のプロジェクトであれば、ほぼこの前提は成り立つ。

しかし、この前提は成り立たないことも多い。製品が複雑な場合には、ステークホルダーも複雑になる。するとプロジェクトの外の人の力を借りなくてはプロジェクトの成果が得られないケースが増えてくる。つまり、プロジェクトで完結するという前提が成り立たないことになる。

成り立たない場合には、ステークホルダーとの健全な関係性が構築できないこと、言い換えるとステークホルダーの協力が得られないことはもはやリスクではない。プロジェクトそのものを成り立たなくする失敗要因に他ならないので、何とかステークホルダーとの関係を健全化する必要が生じる。


◆権限のない人をどのようにして動かすかが本質

このようなパターンの典型はITベンダーの行うITプロジェクトである。ITプロジェクトは顧客の協力なしには成り立たない。プロジェクトのパフォーマンスを決めるのは、ベンダーの技術力もさることながら、顧客の協力の度合いであることが多い。

プロジェクトメンバーであれば協力することが当然かもしれないが、ステークホルダーなので協力してくれるとは限らない。そこで顧客が適切な対応をしてくれないことをリスクだと考えたくなり、その影響を如何に減らすかを考えてしまう。

このように考えてしまうと、プロジェクトは迷走する。発注者であり、プロジェクトの部外者である顧客をコントロールする方法はないからだ。

そこでできることはステークホルダーマネジメントである。ステークホルダーマネジメントとは、権限を持たない人を動かし、協力を得ることである。

少し話が脱線するが、本来はプロジェクトチームのメンバーもステークホルダーであるので、プロジェクトマネジャーが指示できる対象ではない。そもそもチームというのはそういうものでもある。しかし、現実のプロジェクトはここに組織構造をかぶせていて、プロジェクトマネジャーとメンバーを組織上の関係があるようにプロジェクトを組んでいることが少なくない。このようなプロジェクトは権限によってプロジェクトを動かすことができる。


◆権限なしで人を動かすための原理原則

話を元に戻すが、権限なしで人を動かすためには何をすればよいかというのがステークホルダーマネジメントの本質的な課題である。これは相手によって違うというのが答えだと思うが、いくつかの原理・原則はある。たとえば、

・相手のことを知り尽す
・相手の立場や考えは変わることを前提とする
・共通の目的を作り、協働する
・不用意に相手の領域に踏み込まない
・相手の利益を尊重する
・相手には常に間接的な影響を与える存在を知る

といったことである。

ステークホルダーマネジメントが難しいのは、本音と建前がある。言い換えると、立場があり、その立場が状況によって変わるからだ。逆にいえば、ここを見抜くことができればステークホルダーをプロジェクトのリスクではなく、ドライビングホース(推進力)にすることは難しいことではない。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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