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第313回(2014.12.05)
プロジェクトとプロダクト


◆プロジェクトとプロダクトの関係

アジャイル開発が増えてきて、マネジメントする対象はプロジェクトがいいのか、プロダクトがいいのかという議論がされるようになってきた。この問題はどちらがいいというよりも、活動の性質によって違うというのが答えであるが、どう違うのかを少し整理してみたいと思う。

要求にもプロジェクトに対する要求とプロダクトに対する要求がある。スコープにもプロジェクトスコープとプロダクトスコープがあるし、品質概念にもプロジェクト品質とプロダクト品質がある。

要求であれば、プロジェクト要求はプロジェクトの進め方であり、プロジェクトの目的とどうするか、組織体制(プロジェクトの組織的位置づけ)をどうするかといったことが主となる。プロダクトに対する要求はそのプロジェクトで開発する製品、サービス、システムに対する要求である。

スコープであれば、プロダクトスコープというのはプロジェクトの作業によって生み出される成果物(正確にいえば成果物に対する要件)を意味している。ただし、成果物は有形、無形のいずれの場合もある。これに対して、プロジェクトスコープは成果物をつくるための役務を意味している。

品質についていえば、プロダクトの品質は成果物の品質や成果物を開発するプロセスの品質、つまり、一般にいう品質である。これに対して、プロジェクトの品質というのはもう少し広い概念で、計画に対してどれだけ正確に実行ができるかという程度を示す概念である。簡単にいえば、計画通りに実行できればプロジェクト品質は高いといえる。


◆目的と目標

これらの概念の前提になっているのは、プロジェクトには目的があり、その目的をどの程度実現できたかの指標として目標を設定するということである。目標になるのは、プロダクト要求の実現度合、プロダクト品質といったものはもちろんであるが、目的によってはもっと広く目標設定が行われる。

たとえば、目的が新製品によって市場シェアを5%増やすことだとしよう。この場合、目的が実現できたかどうかはプロジェクトが終了した後の話になる。そこで、プロジェクトとしては、試作品による市場調査を行い、50%のモニターから「購入したい」という評価を得るといったことを目標とすることがある。

これから分かるように、プロダクトはプロジェクトの目的や目標を実現するための手段である。もちろん、プロダクトの実現が目標の中に入ってきたり、場合によっては目的そのものになることもあるが、その場合は目的と手段が一致していることになる


ここで注意しなくてはならないのは、目的が戦略(経営意図)に紐づいているということだ。プロジェクトの目的は戦略から決まり、それが経営的な位置づけになる。これがプロジェクト要求になっていることが多い。


◆成果と成果物

以上がプロジェクトとプロダクトの基本的な関係であるが、もう一つ、言葉の整理をしておきたい。それは、成果物という言葉である。成果物という言葉がプロダクトに対するものであり、成果という言葉はプロジェクト(の目的)に対するものである。

成果物と成果は異なる。成果は成果物によって生み出されるという関係にある。成果はインパクトといわれる。

プロジェクトマネジメントはこの構図を前提にして行われる。つまり、製品開発のように成果物を手段とする場合には、プロジェクトを立てて、成果を求めるマネジメントをする必要がある。ITベンダーが顧客からシステム開発を請け負うようなプロジェクトでは成果物と成果はほぼ等しく、必ずしもプロジェクトを立てる必要はない(ほとんどの場合、開発マネジメントとしてプロジェクトマネジメントが活用されている)。

ちなみにアジャイル開発では、ベンダーがアジャイル開発を行う場合には成果物と成果が等しいパターンだが、ユーザー組織がアジャイル開発を行う場合にはプロダクトと戦略(ビジネスの目的)をそこに参加するスタッフによって間接的に紐付けていることが多い。

◆プロジェクトマネジメントとプロダクトマネジメント

さて、もう一歩踏み込んで、マネジメントについて考えてみよう。実はプロジェクトのマネジメントとプロダクトマネジメントは前回議論したように基本的に独立したものである。
通常、プロジェクトは組織が責任を持って立上げ、作業チームを決め、プロジェクトを進めていく。その中でオペレーションマネジメントとしてプロジェクトマネジメントが行われる。つまり、プロジェクトチームの責任は与えられた目標を達成することである。

そしてその目標達成によって、目的が実現できるかどうかは組織の問題ということになる。

これに対して、アジャイルのようにプロダクトを中心にしていく場合には、プロダクトマネジメントが行われる。プロダクトマネジメントは、製品やサービスなどの企画から開発、市場投入、そしてライフサイクルの管理を体系的に行うマネジメントである。プロジェクトマネジメントとしてみれば、プログラムマネジメントの一つの実践になっている。

つまり、プロジェクトは機会を使って何かをすることによって組織を変革していこうとするときに適した方法であり、プロダクトとして展開するのは製品を成功させることに主眼を置いた方法である。

この関係をよく理解した上で、プロジェクトとプロダクトの位置づけをしていくことが望まれる。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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