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第312回(2014.11.12)
プロジェクトの計画が持つ意味について考える


◆プロジェクトマネジメントの歴史

プロジェクトマネジメント計画という概念がある。これは、プロジェクトのマネジメント計画である。今回の戦略ノートは当たり前のようで、意外と理解されていないプロジェクトの計画の意味を考えてみたい。

プロジェクトマネジメントの教科書を見ると、プロジェクトの歴史は古代のピラミッドの建立にまでさかのぼる。そして、現在のプロジェクトマネジメント、つまり、近代プロジェクトマネジメントの形ができたのがマンハッタン計画(原爆の開発)だという事例が使われていることが多い。

ピラミッドは権力の象徴であり、どれだけの時間や金がかかってもよかった。むしろ、時間や金をかけて作ることが望ましかったのかもしれない。これに対して、原爆の開発は戦争を早く終わらせるために可能な限り急いで行われたとされる。

ピラミッドで行われていたマネジメントはスコープ定義と要員調達と作業段取りだけであり、原爆の開発ではPMBOK(R)でいう10のマネジメントがほぼすべて行われていたと考えられる。


◆プロジェクトとプロジェクトマネジメントは別物

ピラミッドの例から分かるようにプロジェクトとプロジェクトマネジメントは本質的には別物である。プロジェクトマネジメントがなくてもプロジェクトは進み、成果物は生まれる。ただし、どれだけの時間がかかるか、どれだけの金がかかるかは分からない。そこで、原爆の開発のようなプロジェクトだと計画が必要だという話になる。

ただし、ピラミッドに全く計画がなかったわけではないと思われる。少なくとも、毎日、今日は誰々が参加し、こういう手順でこれだけのことをやろうと考えて、実際に作業をしていたわけで、その日の作業計画(段取り)はあった可能性がある。ひょっとすると、月齢の計画くらいはあったのかもしれない。

作業計画を精緻化すると、成果物が決まり、成果物を生み出す作業の計画ができれば最終的なスケジュールやコストは明確になる。いわゆる開発計画と呼ばれるものである。

ところが開発計画を作ったところで、その計画通りにいくとは限らない。この前提が話をややこしくしている。

経験に基づき、それなりの根拠のある作業計画を作ったわけだから、その計画通りにコトを進めたいと考えた。つまり、マネジメントをしたいと考えたわけだ。


◆マネジメント計画

そこで、マネジメントを合理的に行うべく考えだされたのがマネジメントを行う方法を計画する「マネジメント計画」という概念である。

少し話がややこしいのだが、マネジメント計画は作業計画通りに作業を進めるためのマネジメントに関する計画である。つまり、どうやって作業状況を確認し、計画から状況が乖離してきたときにどのように復元するか事前に検討する計画である。

マネジメントは基本的には作業監視・統制を行うので作業とは独立したものである、つまり、マネジメント計画と作業計画も独立したものである。マネジメント計画に従ってマネジメントを行うことによって、作業が作業計画通りに進む可能性が高くなるという位置づけである。


◆組織の要求をプロジェクトに入れる

ここにもう一つ厄介な話が出てくる。製品開発のようなビジネス活動がプロジェクトで行われるようになってきて、組織としては決められた期間や予算を厳密に守り、プロジェクトを行う必要が出てきた。

そこで考えられたのがベースラインという概念である。

ベースライン計画は基準計画という意味だが、プロジェクトのベースラインとは一定期間の間にどれだけの成果物を生み出せばよいかを決めたものである。通常はマイルストーンと呼ばれる大工程を区切りにして、マイルストーンごとに実現すべき成果物(スコープ)と消化すべき予算を決める。あるいは、成果物の構成要素に注目して、スケジュールやコストを決めておくこともある。

いずれにしても組織として基準計画を承認する。そして、基準計画を守っている範囲においてあとは完全にプロジェクトに任せることにした。これによって、作業計画もベースライン計画を守れるように策定されることになる。


◆計画と権限移譲

このようなベースラインを設けることは一見統制をしているように受け取れるが、逆に、これ以外については自由にプロジェクトを進めることができるということでもあり、プロジェクトに対して、権限委譲の仕組みにもなっている。

さらに、作業計画もプロジェクトや組織によって縛られるのはベースラインの範囲だけであって、それより細かいところはメンバーの裁量で自由に変更できるという権限移譲も同時に行われている。

このようにして、マネジメント計画と作業計画は最小限の関係づけが行われ、組織からプロジェクトへの権限移譲、そしてプロジェクトマネジャーからプロジェクトメンバーへの権限委譲が行われている。プロジェクトにおける組織と現場の権限と責任のバランスを考えた場合、ベースラインは妥当なところであり、素晴らしい知恵だと言えよう。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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