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第311回(2014.11.07)
プロジェクトマネジメントの守破離


◆プロジェクトマネジメントの守破離

PM養成マガジンの創刊以来のコンセプトの一つは、プロジェクトマネジメントにはスタイルがあり、プロジェクトマネジャーとして成長していくことは、守破離のプロセスを実践していくことだというもの。このコンセプトの解説として、たとえば、2008年にこんな記事を書いている。

【補助線】プロジェクトマネジメントにおける型と守破離(しゅはり)

この議論では、PMBOK(R)の知識エリアにあるような各マネジメントスキルの守破離を中心に考えているが、今回の戦略ノートは、プロジェクトマネジメントそのものの守破離について議論してみたいと思う。


◆プロジェクトの成功率は上がったのか

ITプロジェクトの成功率(QCDの初期目標達成率)では2008年に日経コンピュータが800社の調査で発表したデータが使われてきた。これは30%のプロジェクトしか、成功していないというものだ。

その日経コンピューターが先月(日経コンピューター 10月16日号)、新しい調査結果を発表した。こちらは2000社以上の会社を調査し、

3カ月未満 81%
6か月未満 78%
1年未満 74%
1年以上 67%

という結果が得られたというものだ。この記事が出てからいろいろな人に聞いているが、何が変わったのかよく分からないという返答が多い。日経コンピューターの記事でもPMBOK(R)の導入やPMOの普及で、リスクへの対処が適切になったことに触れているくらいで、なぜこのような画期的な結果になったのかはあまり詳しく分析されていない。

ただ、弊社とおつきあいのある企業でこの数字に近いところは結構あり、そんなに的外れな数字ではないと思う。

QCDの遵守率が上がったことは素晴らしいことだが、これでプロジェクトマネジメントの導入の目的は果たしたというのはちょっと早計である。


◆守ができるようになれば8割方のプロジェクトはQCDを守れる

プロジェクトの進め方を守破離でいえば、守ができるようになって、破に移りつつあるのではないかと思う。日経コンピューターの推測が正しいとすれば、PMBOK(R)という型ができるようになってきた、あるいはPMOも含めた「正しい」体制でプロジェクトを遂行できるようになってきたわけだ。

著者はかねてから、守破離の守ができれば、ITとか製品開発のようなオペレーショナルなプロジェクトだと、8割がたのプロジェクトではQCDはクリアできると言っているが、まさにその状況に近づきつつある。日経コンピューターの調査結果を見て最初に感じたのもこの点である。


◆破へのチャレンジが始まった

ただし、プロジェクトマネジメントには次がある。破や離である。破では、PMBOK(R)の流儀以外の流儀を取り入れることになる。その一つがCCPMやアジャイルである。PMBOK(R)で仕組みづくりをした企業でCCPMを部分的に導入している企業は多いし、アジャイルも同じような傾向がみられる。

破へのチャレンジとして、もっと複雑なプロジェクトを想定した型を取り入れようとしているケースもある。その一つがプログラムマネジメントである。プログラムマネジメントはプロジェクトをいくつかの小さなプロジェクトに分けて、それぞれを独立に計画し、コントロールしながら、全体として統合していくマネジメントの方法である。

破へのチャレンジの目的は、QCDの遵守率を上げることから、ビジネス的な目的達成に移っていく。別の言葉でいえば、インパクトを大きくすることである。

一つの例をあげると製品開発プロジェクトでは、QCDを守ることは、適切なタイミングで、適切な価格で、よい品質の製品を投入するという、競争上、非常に重要なことをもたらす。


◆破へのチャレンジの意味

これらは製品の成功の可能性を高めるが、成功を約束するわけではない。単純にいえば、QCDが守れたからといって製品が売れるという保証はない。しかし、プロジェクトとして製品が売れなければ本当の意味で成功とはいえない。このようにビジネスに対するインパクトを高めるというのが次の段階である。

アジャイルやプログラムマネジメントはQCDを遵守するよりは、インパクトを高くすることに主眼が置かれた方法であり、これらの流儀を取り入れようとしている企業が増えてきている。

今は破の段階で、プロジェクトの収益性を高めるためにいろいろな試行錯誤が行われているが、収益性も含めて本当にインパクトに対して成果が出るのは、戦略上必要なインパクトの計画ができ、それを実現する方法が確立されたときで、これらは事業に密着したものになることが予想される。つまり、離の段階に達したときに大きな成果が生まれることが予想される。

そこまでは、ひたすら修行であり、修行に耐えた企業だけが、持続的に成長ができるようになるだろう。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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