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第307回(2014.03.25)
プロジェクトにおけるレジリエンス


◆普及してきたレジリエンス

レジリエンスという概念がある。東日本大震災のあと、メルマガの配信をしばらく休んでいたが、復活第1号(通算942号)から「難局を乗り切るマネジメントとリーダーシップ」というシリーズを書き、真っ先に取り上げたのがこの話だ。

【戦略ノート247】難局を乗り切るマネジメントとリーダーシップ(1)〜レジリエンスを高める


それから3年になるが、当時は一般にはあまり知られていない概念だったレジリエンスがかなり知られるようになってきている。レジリエンスを高めるトレーニングの本も見かけるようになった。


◆システムには必ずレジリエンスが必要

レジリエンスは、主に心理学の分野で古くから研究されてきた概念であり、それが、社会システムや企業、経済などに展開されるようになってきた。レジリエンスがいかに広い分野で考えられているかを明らかにし、整理した本がある。レジリエンスの教科書といってもよい本で、

アンドリュー・ゾッリ+アン・マリー・ヒーリー
「レジリエンス 復活力--あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か」、ダイヤモンド社(2013)

である。この本によるとレジリエンスとは

システム、企業、個人が極度の状況変化に直面したときに、基本的な目的と健全性を維持する力

とされている。

要するにシステムである限り、レジリエンスという概念は必要である。このメルマガではないが、「プロジェクト&イノベーション」というメルマガでもイノベーターのレジリエンスについて書いたことがある。

【イノベーション戦略ノート:021】イノベーターのレジリエンス


◆レジリエンスを高める原則

さて、前回述べたようにプロジェクトを活動として考えていくときに、ある意味でマネジメントより重要なのはレジリエンスである。プロジェクトにおけるレジリエンスとはアンドリュー・ゾッリの定義を使うと

プロジェクトが極度の状況変化に直面したときに、基本的な目的と健全性を維持する力

ということになる。上の本の中でアンドリュー・ゾッリはレジリエンスを高める原則として以下の2つを上げている。

(1)回復不能なダメージを被りかねない領域に押しやられないように抵抗力を身につける
(2)閾値を超えてしまったときに、システムが健全に適応できる領域を維持し、拡張する

この原則はプロジェクトにもそのまま当てはまる。


◆プロジェクトが回復不能な領域に入らないために

まず、(1)についてはプロジェクトが回復不能はダメージをこうむりかねない状況にならないように抵抗力をつけること。たぶん、多くの人がこの原則から、リスクマネジメントを思い浮かべると思う。

もちろん、リスクマネジメントはプロジェクトのレジリエンスを高めるために不可欠であるが、リスクマネジメントと並んで重要なものがある。それは、メンバーひとりひとり、あるいはプロジェクト内のサブチームのレジリエンスである。

プロジェクト活動はメンバーの活動の組み合わせや積み上げである。あるメンバーの活動状況が回復不能な領域に入ってしまうとプロジェクト全体が回復不能なダメージを被りかねない。そうならないためには、個々のメンバーのレジリエンスを高め、個々のメンバーのレベルで食い止めることが不可欠だ。


◆レジリエンスとは元に戻すことではない

次に(2)については、回復不能かもしれない領域に入ってしまった場合には、プロジェクトが目的を維持しながら、健全な活動のできるアプローチを見つけ、その方向に方向転換をすること。

このポイントが重要である。プロジェクトマネジメントにはリカバリーマネジメントという概念がある。リカバリーというとゴールを健全な状態、つまり、ベースライン計画に戻すことが目的である。そして、戻ることをあきらめたら、ベースライン変更ということになる。

レジリエンスの考え方は異なる。元に戻すことではなく、目的と健全性を維持することを重視する。プロジェクトが健全であるとは、プロジェクトマネジメントの立場でいえばプロジェクトが計画通りに進んでいることであるが、これには目標が明確で変わらないなどの前提がある。この前提が崩れると健全性の意味が変わってくる。目的が実現できる状況にあるプロジェクトは健全だということになる。

レジリエンスが必要になるのはそのような状況であるので、元に戻すことは重視されない。

◆レジリエンスを高めるプロジェクトの仕組み

さらに、アンドリュー・ゾッリは、この2つの原則を満たし、レジリエンスの高いシステムを実現するには

・信頼性の高いフィードバックループ
・ダイナミックな再構築
・固有の対抗メカニズム
・分離可能性
・多様性
・モジュール構造
・単純化
・高密度化

といった仕組みが必要だと指摘している。これがなかなか興味深い。これに、プロジェクトの中での対応概念を紐づけてみると、だいたい、以下のようになっているのではないかと思われる。

・信頼性の高いフィードバックループ(進捗状況の共有)
・ダイナミックな再構築(ローリングウェブ)
・固有の対抗メカニズム(リスクマネジメント)
・モジュール構造(ネットワーキング)
・分離可能性(ブレークダウンストラクチャー)
・多様性(チーム)
・単純化(統合マネジメント)
・高密度化(クリティカルチェーン)


◆プロジェクトデザインの問題

要するに、プロジェクト(マネジメント)の概念ととしてはレジリエンスを高めるための用意はあるということだ。ただし、その使い方が問題で、レジリエンスを高めるに至っていない。

この課題を解決するのがプロジェクトデザインである。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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