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第306回(2014.03.10)
プロジェクトマネジメントからプロジェクトへ


◆はじめに

昨年10周年のイベントが終わって以来、戦略ノートを1本書いた以外は、過去記事の再掲のみで、ずいぶんご無沙汰しています。

ご無沙汰の最大の理由は10周年記念で作って戴いた持論を27本、配信しなくてはならなかったことです。これだけで年間の配信記事の四分の一になりました。もう一つの理由は10年に1年くらいは充電したいと思ったことです。
ということで、両方とも終わったので復帰したいと思います。改めて、よろしくお願いいたします(実は、もう一つ、理由があるんですが、それはまた、何かの機会に)。



◆本当にプロジェクトマネジメントは必要なのか

さて、充電期間中に何を考えていたかというと、

「本当にプロジェクトマネジメントは必要なのか」

ということ。まさに、このメールマガジンの前提になっていることだ。

一昨年に、これも10年の集大成として「プロジェクトマネジメントの基本」という本を書いた。

プロジェクトマネジメントの基本

この本、出版社の意向でプロジェクトマネジメントというタイトルになったが、企画時点のタイトルは「プロジェクトの基本」であり、内容もプロジェクトマネジメントではなく、プロジェクトの進め方を中心に書いている。その中で、1章をだけを一般的なビジネスリーダーが知っておくべきプロジェクトマネジメントの解説に充てている。

この本の中で、ゴールも、場合によってはやり方すらも決まっているプロジェクトのマネジメントはもう十分だろうといった趣旨のことを書いた。


◆マネジメントにおけるプロジェクトマネジメントの位置づけ

米国ではプロジェクトマネジメントは、マネジメントのある組織において特別な仕事、すなわちプロジェクトのために活用されるマネジメント方法である。

たとえば、戦略的に極めて重要な活動や業務、緊急を要する業務などをプロジェクトとし、プロジェクトについては通常のマネジメントの縛りを外し、高い成果が得られるようにする。

だからマネジメントの教科書を見ると、然るべき位置づけでプロジェクトマネジメントに章を割かれているし、MBAコースでもプロジェクトマネジメントのコースがある。

そこで学ぶことは日本のプロジェクトマネジメント研修で学ぶこととは少し違って、プロジェクトを如何に成功させるかではなく、組織マネジメント(ガバナンス)の中でプロジェクトを如何に活用するかである。

具体的なイメージは上に紹介した本を読んでみてほしい。こういうイメージのことを学ぶことになっている。


◆マネジメントがない日本企業が飛びついたプロジェクトマネジメント

ところが日本では組織マネジメント自体が未熟だったために、マネジメントの代わりにプロジェクトマネジメントに全面的に乗った企業が多かった。特に、IT業界がそうだが、製造業にしてもマネジメントがあまり進んでいない業界だった。そこで助けに船だったのがプロジェクトマネジメントなのだ。さらにいえば、もともと、日本企業にはマネジメントの代わりに「工場長の経営」といわれる生産現場主体の管理の文化があった。ITのようにあまりプロセスが明確でなく、場当たり式の業務運用をしている現場に「工場長の経営」を導入するのにプロジェクトマネジメントは非常に都合がよかった。

結果としては、いわゆる「プロジェクト経営」のようなスタイルの事業運営が行われるようになったのだが、ここにきて事業や組織のマネジメントのないことに起因する問題が噴出している。

総じていえば、プロジェクトマネジメントと組織マネジメントが整合しておらず、プロジェクトの成果が経営成果に反映されていない。

そのため、大規模なプロジェクトに代表される組織が絡まないとうまく行かない全社的なプロジェクト、イノベーションに代表される組織内の調整が重要な新規性が高く複雑なプロジェクトがうまく行かないという問題が出てきている。

これがもういいだろうといっている理由である。プロジェクトマネジメントの議論は、もう一度、そもそも何のためにプロジェクトをやるのかというところから組織として見直し、その上で、スキームを組み立てていく必要がある。これを上の本ではプロジェクト2.0、PM2.0と呼んでいる。


◆ゴールを誰が決めるのか

その際に、PMBOK(R)のようなプロジェクトマネジメントが本当に必要かという議論がある。PMBOK(R)はゴールが決まっているプロジェクトに対しては有効なマネジメント手法であることは疑う余地はないが、ゴールが決めれないときには存在自体が邪魔になる可能性がある。

そもそも、このゴールが決まっていないことの本質はどこにあるのだろうか?このことを改めて考えてみる必要がある。

この問題を考えるときの一つのポイントは組織の形態である。階層的な組織を前提として考えるなら、トップリーダーが策定した戦略を下に落としていく。少なくとも、事業レベルと製品・サービスレベルでゴールを仮決めしないとならない。

ゴールが決まらないというのは事業レベルや製品レベルのゴールを仮決めした上で仮のゴールを目指すプロジェクトをきちんと回すことを意味している。この場合、生産をしているわけではないので、ゴールが変わることがある。

このようなプロジェクトを行うためには、誰がゴールの意思決定をするかというガバナンスをきちんとしていく必要がある。PMBOK(R)も含めて一般的にはプロジェクトスポンサーということになる。市場や顧客の状況が変わったらプロジェクトスポンサーは速やかにゴールを変更しなくてはならない。


◆そもそも、階層型の組織を前提にすることは正しいのか

ここでもう一つ本質的な話があって、プロジェクトを階層型の組織を前提としてやることの意味である。

ゴールが決められないと一言でいっても程度の問題はある。たとえば、市場や顧客は比較的明確であるが、本当にそのニーズに応えることができるかどうかは不確実要素があり、プロジェクトを組んだ時点ではゴールを決められないようなケースがある。

このようなケースであれば、ニーズに応じたゴールの仮置きをすれば、後は実現性と調整をして進めていくことができる。簡単にいえば、計画的なプロジェクトの推進の話であり、変更管理の世界の話である。最近、仮置きされたゴールに対して、アジャイルのような試行錯誤の手法が普及してきたが、変更管理よりは合理性があるのかもしれない。

いずれにしても、この議論は階層型の組織では、上に行くほど、経験もスキルもあり、未知なものに対する洞察力があることを前提にしている。しかし、同時に洞察というのは特定の専門分野の能力を十分に持ち、経験に基づく産物であるという前提もある。


◆今の枠組みではイノベーションはできない

ところが、イノベーションのようにこれまでなかったものを世の中に生み出していくような場合はどうだろうか?少なくとも上位者の経験に依存することはできない。実際にいろいろなことを試しながら学習をしていく必要がある。

このようなプロジェクトでプロジェクトスポンサーが仮決めして、プロジェクトに指示して修正をしながら進めていくのは困難である。つまり、これまでとは違う枠組みが必要になる。

この問題は、プロジェクトごとに、どのようなロールが必要で、どのような行動をしてほしいかをデザインしていくことを意味している。つまり、組織の上位層が現場にプロジェクトをやらせるという構図ではなく、

プロジェクト作業も、プロジェクのマネジメントも、関連する組織の活動も含めてプロジェクトが構成される

という発想が必要になる。真の意味での「プロジェクト経営」である。

これを空絵ごとだと思う人は多いと思う。たとえば、この形に比較的近いのはアジャイルであるが、それでも作業と作業管理の域をそんなに大きく出ているわけではない。


◆話の本質はプロジェクトのデザインにある

この話の本質はプロジェクトの活動をどのようにデザインするかにある。つまり、デザインのためのツールが必要なのだ。著者も含めて、今までこのような発想を持った人がいなかったわけではない。発想はあっても実現の方法がなければ、「理想論」と言われて終わりだ。

ところが、ここにきてプロジェクトデザインに親和性のある面白い方法論が出てきた。

パターンランゲージである。パターンランゲージは

クリストファー・アレグザンダーが提唱した建築・都市計画にかかわる理論で、単語が集まって文章となり、詩が生まれるように、パターンが集まってランゲージとなり、このパタン・ランゲージを用いて生き生きとした建物やコミュニティを形成することができる

とされる。


◆パターンランゲージでプロジェクト活動をデザインすると、、、

簡単にいえば、街やコミュニティをデザインするためのツールである。アジャイルの分野でパターンという考え方が生まれたのは、アレグザンダーのパターンランゲージが参考になっているとされる。この中にはアーキテクチャーもあれば、チームやコミュニティのパターンもある。もちろん、プロジェクトをデザインすることも夢ではない。

プロジェクト活動のパターンランゲージができ、プロジェクトがデザインできるようになれば、プロジェクトは現場の活動だけでなく、経営活動から、対外的な活動、などありとあらゆる活動が統合され、イノベーションのようなプロジェクトを規律を保ちつつ、自由に活動することができ、これまでより大きな成果が得られることは間違いない。

言い換えると、プロジェクトをデザインするとプロジェクトマネジメントは今のようなプロジェクトの上位の活動ではなく、プロジェクトの中の一つの活動にすぎなくなる。

PM養成マガジンでは、10周年の際に宣言したように、過去の知見に基づいて組織的にゴールを仮決めして進めるタイプのプロジェクトのマネジメントとともに、経験による学習を推進力にするタイプのプロジェクトの進め方についても考えてみたいと思っている。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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