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第232回(2010.10.19)
シンプリシティ考(5)制約があるのでシンプルになる |
◆「○○絶対」
「○○絶対」という考え方がある。例えば、「品質絶対」、「納期絶対」といった考え方もあれば、「顧客絶対」といった考え方もある。
「絶対」といえばいかにも明確な方針を打ち出し、意志決定をシンプルにしているように見える。しかし、これはレトリックであり、実体は何も言っていないに等しい。
にもかかわらず、なかには、「○○絶対」は全社的な価値感であり、その是非について議論をすることすら難しいといった風土の企業もある。総じていえば、「○○絶対」はものごとをシンプルにするどころか、一層複雑にしている。今回はこの問題を話題にしたい。
◆「○○絶対」が思考停止を引き起こす
前回までにも議論してきたように、プロジェクトの進め方や成果物を複雑にしてきた要因のひとつに上げることができるのが、「顧客絶対」という方針である。特に、ITに代表される受注型のプロジェクトによく見られる方針でもあるが、特に問題を複雑にしているのは顧客が要求を変えたときに対価を支払っているケースが多いことである。要求が増えれば対価を貰えないよりは貰える方がよいのはいうまでもないが、要求が増えて対価を受けとることと、要求が増えないことはどちらがよいかという比較の問題である。顧客絶対というのは前者である。
前者の場合何が問題はないと考える人が少なくないと思うが、このような顧客側の対応を容認することが、初期の段階で要求をきちんと詰めず、要求の増加を引き起こしているともいえる。
品質絶対や納期絶対は複雑化の直接原因になることは少ないが、もっと本質的な問題を孕んでいる。顧客絶対も含めて、「○○絶対」が複雑化をもたらす本質的な原因は「思考停止」を引き起こすことである。
◆品質絶対だからといってスケジュールが遅れてもよいわけではない
プロジェクトマネジメントの本分は、QCDのバランスを取ることである。例えば、品質絶対といってもこの本分がなくなることはない。例えば、成果物の品質が出なくてスケジュールが遅れている。このときに、品質絶対だからといって、スケジュールが遅れてもよいという話ではない。
そんなことはあまり前だという人も多いと思うが、実際のトラブルプロジェクトを見ていると、品質の是正については十分に検討するが、それを如何に短いスケジュールで行うかという検討をしているプロジェクトは少ない。怒られるかもしれないが、どうも日本のビジネスマンはこのような気質がある。
◆優先が絶対になっている
何が間違っているのか。そもそも、絶対という方針などあり得ないのだ。もうお気づきの人が多いと思うが、ここまでわざと「絶対」という言葉を使ってきた。現場で実際に使われている言葉のは、「優先」である。ところが、優先と決めた瞬間、あるいは、優先と言われた瞬間、絶対という行動をしていることが多い。顧客の要求の実現を優先すると決めると、納期そっちのけでコストだけで動いてしまう。品質優先だといえば、コストはいくらかかっても品質目標をクリアしようとする。
つまり、優先という名のもとで、QCDのバランスという「制約」というプロジェクトマネジメントにとってもっとも重要な外してしまっているのだ。
◆制約が商品をシンプルにする
シンプリシティの実現のためにもっとも重要なことは「制約」である。制約があるから、シンプルになる。デザインがそのよい例である。iPhoneのユーザインタフェースがシンプルであるのは、まず、画面の大きさが制約され、また、操作手段を制約しているからだ。
成果物の仕様をシンプルにするには、顧客の要求に対して、時間やコストの制約が不可欠である。制約に入らない部分は要求を切ればよいという話ではない。まず、顧客の要求の本質を探る必要がある。そして、そのレベルで時間やコストに見合う実現方法を考える必要がある。
このような方法は仕様レベルではもちろん、機能レベルでの整理でも難しくなってきている。もっと、深く考え、「概念レベル」で整理して、それを機能や仕様に展開していかないと難しい。
これがものを考えるということであり、考えることによって初めてシンプルな商品ができる。プライオリティの名のもとに、QCDのバランスという制約を外すことはあってはらない。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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