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第233回(2010.10.30)
ホールシステムアプローチとプロジェクトマネジメント(1)
ホールシステム・アプローチの重要性

◆ホールシステム・アプローチとは

戦略ノートの新しいスレッドとして、ホールシステム・アプローチのスレッドを立てることにする。いろいろな意味でずっと関心のあった分野だ。

ホールシステム・アプローチとは、組織や分野の境界を超えてできるだけ多くの関係者が集まり、自分たちの課題や目指したい未来について話し合う大規模な対話の手法である。ホールシステム・アプローチの代表的なものには、ワールドカフェ、OST、アプリシエイティブ・インクワイアリ(AI)、フューチャー・サーチなどがある。

次に、なぜ、プロジェクトマネジメントでホール・システムアプローチが重要かという問題に触れておく。プロジェクトマネジメントでホール・システムアプローチが必要になるのは、広い意味でのコンフリクトを前向きに解消するためである。


◆戦略目標の実現とホールシステム・アプローチ

プロジェクトマネジメントの目的は、戦略目標から割り振られた目標の達成を実現することである。したがって、上位管理者はプロジェクトに対してできるだけ高い目標を達成することを望む。

また、目標は顧客が決めると考えているプロジェクトマネジャーがいるが、これはあまり適切な考え方ではない。顧客がいくら無茶な要求をしようと、それを受け入れているのは組織である。つまり、プロジェクトの上位管理者に他ならない。言いかえると、顧客の無理な要望に対応しなくてはならないのは、この場合もやはり上位者がプロジェクトに高い目標を達成してほしいと考えた結果に他ならない。

一方で、プロジェクト側はできる以上のことはしたくない。したがって、プロジェクト上位者が要望する目標を下げて欲しいと考える。ここにコンフリクトが生じる。コスト、スケジュール、品質、スコープ、投資対効果など、あらゆる分野でこのような状況が発生する可能性がある。


◆協調的なコンフリクトの解消

このコンフリクトを解消するにあたっては、一つ大きなポイントがある。それは、プロジェクトが納得し、高い動機をもって、コンフリクトが解消されることの重要性である。

プロジェクト側の意向を無視して、目標を押しつけると、プロジェクトは反発し、その目標を達成する動機が持てなくなる。逆に、プロジェクトの提案するパフォーマンスで合意すると、プロジェクトは納得するかもしれないが、そのパフォーマンスをとる動機が高くなるとは限らない。むしろ、下がる可能性がある。ここが難しいところだ。

この問題は、構造的にはプロジェクトが高い目標に納得すれば、動機を持って仕事をし、高い目標をクリアできる可能性が高まる。一方で、高い目標を掲げると納得できず、動機が持てない。したがって、掲げた高い目標どころか、普通にやればできる目標すら、達成できなくなる可能性がある。

この構造を踏まえて、高い目標を達成するには、目標を設定する側(組織)と目標を達成する側(プロジェクト)が合意し、目標達成にコミットするだけでなく、目標達成において利害関係のある人がやはり、目標達成にコミットすることが必要である。
これらのコミットメントが実現できて、初めて前向きな目標達成ができ、高い目標を掲げることができる。
この目標達成へのコミットメントを実現するための有力な方法がホールシステムアプローチであり、その意味でプロジェクトマネジメントに無くてはならないアプローチである。


◆対話とコミュニケーション

次に、ホールシステムアプローチの中で行われる対話とコミュニケーションの関係について触れておく。対話はコミュニケーションの中の一つの形態である。詳しくは次回に説明するが、対話は

 テーゼ + アンチテーゼ → ジンテーゼ

の構造を基本とする。つまり、上で述べたコンフリクトの解消である。これに対して、コミュニケーションという場合には、単なる情報収集から、相互理解、協調まで、非常に幅広いものである。

その中で、対話という行為の構造から考えると、コミュニケーションの総合的な実施方法の一つが対話である。逆にいえば、対話としてコミュニケーションの一部を切り取ってみてもほとんど意味がない。というか、それはもはや対話であるとはいえない。少なくとも、このスレッドの中では対話だとはみなさない。

このようなスタンスを前提にして、このスレッドでは、プロジェクトマネジメントの中にホールシステムアプローチに基づく対話をどのように使っていくかを考えてみる。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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