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第231回(2010.10.15)
シンプリシティ考(4)問題はプロジェクトリーダーだ

◆リーダーシップの欠如がプロジェクトを複雑にする

前回、プロジェクトをシンプルにするにはリーダーシップが重要であることを述べた。今回はこの問題をもう少し、高い視点から考えてみたい。もう一度、コッター博士のリーダーシップとマネジメントの定義を確認しておく。

マネジメント:現在のシステムを機能させ続けるために、複雑さに対処すること
リーダーシップ:現在のシステムをよりよくするために、変革を推し進めること

である。

この定義に従うと、プロジェクトマネジメントは現行のプロジェクト業務の方法や、プロジェクトマネジメントプロセスを前提にして、如何にその中でプロジェクトをやりきるかに対する創意工夫だといえる。実際に、プロジェクトの現場で行われているプロジェクトマネジメントはそういうものだろう。

でも、プロジェクトリーダーはどこに行ってしまったのだろうか?


◆決めるべき人が決めるべきことを決めていない

たとえばちょっと前にこういうケースがあった。ある商品開発プロジェクトを計画するときに、先行するプロジェクトの要素成果物やリソースの一部をうまく活用できれば目標を達成する手段を見つけることができるが、個別のプロジェクトだけで取り組んでいると目標達成は非常に厳しい。ただし、共有しようとすれば先行プロジェクトは計画変更を余儀なくされる。

しかし、プロジェクトマネジャーは、それに気付かず、そのプロジェクトの中でなんとか工程や作業方法の工夫をしようとした。計画はできたものの、無理があり、結局できず、上位組織にエスカレーションした。そして、組織はプロジェクト間で調整をしたが、両方のプロジェクトともスケジュール遅れが起こった。

このような状況は決して珍しいことではないが、問題はなぜ、起こるかだ。一言でいえば決めるべき人が決めるべきことを決めていないから起こる。

決めるべき人=プロジェクトスポンサー
決めるべきこと=他のプロジェクトのとりあい(関係性)

である。


◆プロジェクトスポンサーの体質

一言でいえば、丸投げによる失敗という話なのだが、実はこういうケースが多いのは、プロジェクトスポンサーの昔ながらの体質にある。つまり、とりあえずやらせてみて、困ったら助けるという方法である。これはこれで人材育成においてメリットがある方法であるが、リードタイムの厳しいプロジェクトでは難しい。

プロアクティブリスクマネジメントという考え方がある。計画時に考えられるリスクには手を打っておくという予防を中心にしたマネジメントである。実は(狭い意味での)計画段階でリスクを識別しても手遅れになるケースがある。

例えば、ITプロジェクトの成否は受注段階で8割方決まっていると考えるマネジャーは多い。そこで、受注フェーズ(PMBOKでいえば、プロジェクトの準備フェーズ)に力を入れている組織が多い。ビジネスとしてみればその通りであるが、これは営業の問題である。営業見積もりはビジネスとしては重要だが、プロジェクトとしてはあまり意味はない。一昔前の「基本随契」の時代ではないので、技術見積もりを下敷きにした営業見積もりであったとしても、技術見積もりを下回ることも十分にあり得る。そして、その受注金額をプロジェクトの目標をするというのは、あまりにもマネジメント不在である。

プロジェクトとして本当にプロアクティブなリスクマネジメントをすべきは、目標設定の際である。例えば、上のケースだと目標を決める際にリスクの検討をし、決めるべきことを決めるべきなのだ。


◆プロジェクトスポンサーは誰だ?

そういう話をプロジェクトスポンサーと話をしてみると、必ず返ってくる反応は

 プロジェクト数を抱えているので個別のプロジェクトの指導をするのは無理だ

という意見である。

このようなことをいうケースはおおよそ、プロジェクトスポンサーの選定が不適切である。プロジェクトスポンサーを無条件に事業部長だと定めている組織が少なくないが、これは多くの場合、権限に対する誤解がある。職務権限は決定事項の承認の権限を定めているのが普通である。仮に承認者が事業部長だったとしても、決定権限はもっと下にあることが多い。この件、詳しい話は、「戦略実行プロフェッショナル」メールマガジンで連載にしている。(メルマガは『プロジェクト&イノベーション』に変わりました)

マネジャーのためのプロジェクトマネジメント(14)
 分かっているようで分かっていない提案・決定・承認の関係

で説明しているので、こちらを参照して欲しい。
(登録はこちら)http://mat.lekumo.biz/ppf/innovation.html


◆プロジェクトスポンサーは意思決定をせよ。

いずれにせよ、プロジェクトスポンサーはプロジェクトのさまざまな意思決定に対して決定者であり、承認者がなるべきではない。そして、そのように選定すればライン組織がない企業(プロジェクト型組織)を除くと、小さなプロジェクトであれば課長、大きなプロジェクトでも部長、事業部長がスポンサーになるプロジェクトはそんなに多くはない。

つまり、プロジェクトスポンサーはプロジェクトに対する意思決定をする立場にあるし、それができる立場にもある。また、IT企業のようにほとんどの業務がプロジェクトであればその意思決定が最も重要な仕事である。

冒頭の話に戻る。プロジェクトスポンサーがプロジェクトのリーダーとして適切なリーダーシップを発揮していれば、プロジェクトマネジメントが暴走して、プロジェクト要求をどんどん複雑化し、プロジェクトの成果をガラパゴス化することは避けられるはずである。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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