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第228回(2010.10.01)
「シンプリシティ」考(2) ドラッカーでダイエット!

◆お詫びと訂正

8月6日の第1回(戦略ノート223)から久しぶりのシンプルシリーズ第2回。第1回配信後に若干名から、ヘッダーを間違っていると指摘されました。間違っていました。このためひょっとすると第1回ってどこだと思われた方もいらっしゃるかもしれません。戦略ノート223が第1回です。お詫びとともに、訂正させて戴きます。

 [1−1]戦略ノート(223)
      「シンプル」考(1) 顧客とユーザ

です。

もう一つ、第1回の記事のタイトルというか、言葉使いについてシンプルという形容詞はおかしいのではないかという意見を頂いた。まあ、カタカナ英語の場合、形容詞を名詞で使うことはままあると思うのだが、この場合には、simplicityという正しい単語があるので、こちらを使うことに決めた。というわけで、サブタイトルが「シンプル考」から、「シンプリシティ考」になっている。なんとなくかっこよくなったかな。シンプルではないような気もするが。


◆その場凌ぎを続けてきた20年

さて、ということで気を取り直しで第2回。今回のテーマはドラッカー。最近、ドラッカーがブームなのであちこちにいろいろなことを書き散らかしているのだが、なぜ、今、ドラッカーなのかということを考えて見たい。

答えは明白だと思う。「原理原則に戻る」ことだ。経済で失われた10年とか、20年とかいう。おおよそ、1991年のバブル崩壊のあと、経済において停滞した期間を指している。失われた10年という場合には、本質は何も変わっていないのに、ITバブルで一旦景気が持ちなしたので、ITバブル崩壊後の10年だ。

この間、何が行われてきたかというと、「その場凌ぎ」である。将来のビジョンがまったくないままに、目先の問題の対処に追われ、戦後培ってきた経済的な貯金を食いつぶし、そろそろ、貯金がなくてどうしようかと言っているのが、今日、この頃だ。

この間に行ってきたことは、原理原則を持たない行動である。よく社会的に閉塞感があるというのは、こういった風潮の結果であるし、打開したいという想いがついには政権交代のような政治的な動きで現れた。しかし、政治も経済も原理原則がない、その場凌ぎが続いている。

ドラッカーはその対極にある。考え方、言っていることは非常にシンプルである。例えば、「創造する経営者」の中にこういう言葉がある。

将来いかなる製品やプロセスが必要になるかを予測しても意味がない。しかし、製品やプロセスについていかなるビジョンを実現するかを決意し、そのようなビジョンの上に、今日とは違う事業を築くことは可能である

というフレーズがある。ドラッカーの指摘であるということを隠して、この言葉について意見を求めると、半分の人は「そんなことは分かっている」といい、残り半分の人は「そんなことを言っても目の前の現実がある」というのではないかと思う。実際に、20年間、ビジョンを築かずにきているか、あるいは、ビジョンを絵に描いた餅にしている企業がほとんどなのだ。だから、失われた20年になっているわけだ。

原理原則というのはそういうもので、実行が難しい。


◆イノベーションしなくては!

さすがに、ここにきて、目の前のことばかり考えるのにうんざりしてきた。だからイノベーションをしようとか真剣に考えるようになってきた。ここで、考えなくてはならないことがある。イノベーションという言葉はずっと、「新しいモノやコトを生む出す」という意味で使われてきた。改善とイノベーションは違うという意見もあるだろうが、それはレベルの差だと考えると、これまでイノベーションを繰り返してきたのだ。商品であればどんどん新しい機能を加えていく。プロセスであればどんどん精緻化していく。

その結果に今があることを忘れてはならない。今、必要なイノベーションというのは「減らす」ことである。もう少し、厳密にいえば、減らして新しい価値を加えることである。例えていえば、メタボなプロジェクトをダイエットし、必要な筋肉をつけることである。


◆ドラッカーでダイエット!

ダイエットするには原理原則に則ることが不可欠である。目先の甘い誘惑に負けてはダイエットはできない。ドラッカーの教えにはその原理原則があるのだ。

一例を挙げよう。マネジメントの中に、

市場において目指すべき地位は、最大ではなく、最適である

という指摘がある。これも多くの人がよく分かっていることだ。これをすべてのマネジャーやプロジェクトマネジャーが「川島みなみ」のように忠実に実践していれば、ガラパゴスなど起こっていないだろう。ガラパゴスは誤った競争の結末だからだ。

マネジメントにおいてもそうだ。たとえば、20年の間に組織は相当フラットになってきた。ドラッカーは組織階層を小さくせよという原則を示しており、その点はいいのだが、その目的は、「あらゆるものが組織全体の仕事を理解できる」ようにするためだというのがドラッカーの指摘だ。ところが、組織がフラット化されても、以前よりも特にプロジェクトで働く人たちにとって組織全体の仕事はわかりにくいものになっている。理由は明白で、ミドルマネジャーが減っているので、組織全体のコミュニケーションができなくなっているからだ。

だからといって、中間管理職を増やせば、組織が厚くなり、パフォーマンスが下がる。この問題の原理原則を重視した解決は、業務の整理と合理化をきちんとすることと、エンパワーメントを行うことである(丸投げではない)。つまり、課長や部長を増やすのではなく、プロジェクトを現場と一体になって実行するプロジェクトスポンサーや企業内プロジェティスタを増やすことなのだ。しかし、多くの企業が中間管理職の復活に走りつつある。復活ではなく、役割を変えることが必要だ。


◆ダイエットでシンプリシティ

このようにダイエットには、シンプリシティを追求し、原理原則を貫く必要がある。

ここで大きな問題があるのは、「経営」とは「システム」である。つまり、どこかで「局所的」に原理原則を貫くと全体が回らなくなる。ここに原理原則の実行の難しさの本質がある。

この問題への対処は2つの方法がある。一つは全体にシステム思考を定着させることである。もう一つはすべての局所へ整合性のある原理原則を導入することである。後者に使える原理原則を示しているのはドラッカーしかいない。いろいろな専門分野でみればドラッカーに匹敵する影響を与えているコンサルタントや学者はいる。しかし、経営システム全般となるとドラッカーしかいない。これが、今、ドラッカーであるべき最大の理由である。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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