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第227回(2010.09.17)
プロジェクトの成果物と組織の成果 |
◆プロジェクトの成果について考える2つの事例
プロジェクトで成果を上げるとはどういうことだろうか?こんな基本的な話題を改めて考えて見た。
わかり易い話から入ろう。SIベンダーは得意先からある業務システムの受託開発プロジェクトを受注した。SIベンダーは得意先の要求通りのシステムを開発し、引き渡した。しかし、得意先は満足しなかった。システムの仕様は自分たちの指定した通りであることを認めつつも、できあがったシステムでは自分たちの狙っていた効果を出すことができないと主張。全面的な改定を要求した。長年のつきあいは何のためだとまでいった。これに対して、SIベンダーは契約を楯にとって自分たちの仕事の正当性を主張。結局、得意先はSIベンダーとの取引を打ち切るという事態に発展した。
議論したいことは、どちらに非があるかではない。非があろうが無かろうか、SIベンダーが得意先を一つ失い、年間数億円の売上げを失ったことは紛れもない事実である。仮に顧客に非があるとしても、失ったものを取り返すことはほとんど不可能だろう。
もうひとつ、今度は多少複雑な話。あるメーカでは、新商品の開発プロジェクトを実施した。そして、開発部隊はコンセプト通りの商品を開発した。企画者はコンセプト通りだと評価し、品質レベルも上々だった。ただ、不幸なことにまったく売れなかった。売れない商品を作ると振り返りという名の犯人捜しが始まる。犯人捜しの中で、開発リーダーがこの仕様では売れないということを指摘していたことが判明した。当然、なぜ、その意見を企画担当に伝えないかという議論になった。聞いてみると一度伝えたが、歯牙にもかけられなかったというのが真相らしい。
ここでも議論したいことはどちらに非があるかではない。いまさらそんな議論をしても手遅れだ。
◆プロジェクトで成果を上げるとは
いずれのケースでも議論したいことは、このプロジェクトは成果を上げたと言えるかどうかである。
「成果物」は間違いなくできている。前者の例では顧客に収めるシステムは顧客の要求する仕様通りにできた。後者でもコンセプト通りの商品ができた。いずれも(開発)プロジェクトに対する要求はクリアしている。
しかし、顧客からは取引を打ち切られ、商品は全く売れないなど、そのプロジェクトをやってよかったとは到底言えない。
なぜ、こんなギャップが出てくるのだろうか?かつて日本には「よいものを作れば売れる」という神話があった。よいモノを作っても買わない顧客が愚かだという風潮すらあった。事実、よいものを作れば売れた。
ここで決定的に置き忘れたものがある。それは、ものを作るには理由があるということだ。例えば、ものを作るには「売る」という理由がある。このことは、「よいもの」とは売れるものであることを意味している。
誤解しないで戴きたい。普遍的によいものとは売れるものだと言っているわけではない。もう少し一般的にいえば、ものを作る理由がきちんと考えられ、その理由をちゃんとクリアしているものがいいものなのだ。
もちろん、理由の中には、ダントツの品質で世間から凄い会社だと認められるというのもある。
この理由はプロジェクトでは目的と言われるものであり、経営の中では戦略ゴールと呼ばれるものである。
◆プロジェクトガバナンスがプロジェクト成果物と組織成果を結びつける
さて、話を元に戻す。成果物は完璧なのに成果が得られなかったというケースは、目的が設定されていないか、あるいは、設定された目的が実現できなかったケースである。言いかえると、目的や戦略とは関係なしに、自分たちが「いいもの」を作った結果である。
プロジェクトをやるときは、何よりもこの「目的」が重要である。極論すれば、成果物の品質がどうであろうが、顧客の要求がどうであろうが、そんなことはどうでもよいのだ。目的を達成するための手段に過ぎない。顧客の要求と全く異なるシステムを作っても、結果として顧客が受け入れ、顧客のビジネスの目的が達成できればプロジェクトとしては成果が出たことになるケースが多い。出入り禁止になっても、顧客の成果がでれば戻ってくる。著者は1件だけであるが実際にそうなった事例を知っている。顧客の要求と全く異なるシステムを作り、顧客から三行半を突きつけられ、保守は別の会社に発注するという羽目に陥った会社がある。運用で使えなくはなかったので、使っていたが、やがて業務をシステムに合わせると生産性が上がることが分かってきた。運用開始から3年後の部分改修の際に顧客はベンダーに非礼をわび、すべてを任せた。
つまり、プロジェクトの成果物とプロジェクトの成果が見事に結びついたわけだ。
プロジェクトの成果物と組織としてのプロジェクトの成果を結びつけるためには何が必要なのだろうか?顧客の要求に振り回されることなく、自社としての目的を持って顧客に対応していくことである。言いかえると、プロジェクトガバナンスの確立に他ならない。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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