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第229回(2010.10.08)
シンプリシティ考(3)〜増築から減築へ

◆はじめに

今回のテーマは、この問題の本質に迫るテーマだ。商品を複雑にしたいと思っているメーカの開発者もいない。システムをできるだけ複雑にしたいと思っている情報システム部門の担当者もいない。しかし、プロジェクトで生み出される商品や情報システムはどんどん、複雑になっていく。なぜだろうか?


◆複雑化するマネジメントと単純化するリーダーシップ

この問題を考えるに当たって、興味深い指摘がある。実は2010年3月22日の広告に書いた記事。広告はバックナンバーのアーカイブがないので、引用しておく。

=====
リーダーシップや変革マネジメントの大家であるジョン・コッター博士によると、マネジメントとリーダーシップには以下のような違いがあるそうです。

マネジメント:現在のシステムを機能させ続けるために、複雑さに対処すること
リーダーシップ:現在のシステムをよりよくするために、変革を推し進めること

そしてこの活動の目的の違いは、手段の違いに現れます。

両方とも課題を設定して、課題を解決させることは同じです。

その手段として、マネジメントは計画と予算を目標として定め、その達成に向けて詳細なステップを決め、計画を完遂するために経営資源を割り当てます。これに対して、リーダーシップでは、針路を設定し、ビジョンを示すことにより、メンバーの心を統合していきます。このような流儀の違いがあるわけです。また、マネジメントが計画を確実に行うための手法はコントロールと問題解決であるのに対して、リーダーシップは動機づけと啓発によって計画を確実に行おうとします。

=====(引用終わり)


◆マネジメントしかしないプロジェクトスポンサー

プロジェクト「マネジメント」は基本的に組織から与えられた課題を現在のやり方の中でなんとかする活動である。商品にしても、システムにしても、与える問題は、現状よりより複雑なものになる。つまり、「現状の機能に加えて、○○という新しい機能を持つ」というリクエストになる。なぜ、このようなプロジェクトスポンサーからリクエストが出てくるかが問題だ。

実は、新商品開発や新システム開発をマネジメントだけで取り組んでいるところに大きな原因がある。つまり、コッターの言葉をかりれば

現在のコンセプトを機能させ続けるために、市場の複雑さに対処すること

を基本方針にしている。ユーザや市場はどんどん複雑になる。ニーズが多様化しているためである。これに対して、商品やシステムにいろいろな機能をつけることによって問題解決を図ろうとしているわけだ。はっきり言って日本人はこの種の改善は得意である。こうしてガラパゴス商品が生まれる。


◆価値に注目したリーダーシップを発揮する

いずれにしても、この問題から抜け出すためには、マネジメントだけでは無理である。
リーダーシップが必要である。実はマネジメントにおいて行われる

「現状の機能に加えて、○○という新しい機能を持つ」

というのは非常に短絡的な思考であり、例えば

現在の顧客に加えて、○○を必要とする新しい顧客を開拓する

と考えるとそんなに複雑な話にはならない。機能でみると既存客と新しい顧客に大きなギャップがあるように見えるが、価値で見るとそんなに大きなギャップがないことが多いのだ。


◆リーダーシップが増築から減築へ導く

建築に例えてみよう。

顧客ニーズ→顧客が要求する機能の提供

と考えると増築になる。ところが、

顧客ニーズ→顧客の価値の充足

だと考えると、増築にはならず、むしろ、減築になることが多い。最近、都会で家の建て替えをするときに、京都の町屋のように小さな中庭を作るのが流行っているそうだ。限られたスペースに中庭を作ると部屋数は減る。しかし、快適な生活ができるという価値は充足される。そして、この価値はリノベーションをする顧客にも、新築をする顧客にも共通して求められることが多いそうだ。

増築ではなく、減築が顧客満足を高める時代に来ているのかもしれない。

ただし、価値に着目することに気付いたからといってそれだけで減築はできない。理由は簡単だ。増築はマネジメントでできるが、減築はリーダーシップがないとできないからだ。つまり、減築をしようと思えば、顧客へ影響力も含めて、リーダーシップを発揮する必要があるということだ。


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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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