第220回(2010.07.20)
ポジティビティがプロジェクトをドライブする

◆ポジティブであることを求められるアメリカ人

米国人と一度でも仕事をした経験がある人はお分かりだと思うが、米国人は常にポジティブであることを求められる。日本人だと、例えば「みんなで仲良くやりなさい」と求められるのと同じような感覚だと言えよう。

バーバラ・エーレンライクというジャーナリストが、この問題を指摘した本がある。

バーバラ・エーレンライク(中島由華訳)「ポジティブ病の国」、河出書房新社(2010)

多少、風刺的ではあるが、この本を読むと、米国人のポジティブであることに対する執念のようなものを感じ取れる。もちろん、その効用についても多くの指摘がある。


◆マネジメント手法の導入がうまく行かない理由はポジティビティ欠如

話は変わるが、古くから米国発のマネジメント手法を導入してもうまく行かないという指摘がある。技術では、導入の際に活用方法を工夫して、付加価値すらつけているのと対象的である。性格的には技術的手法に近い(と多くの人が信じている)プロジェクトマネジメント手法ですら、なかなかうまく行かない。なぜだろうか?

原因として常に指摘されるのが合理性とか、トップダウンとかといった風土の違いの問題である。しかし、著者はもっと本質的な理由があるのではないと思う。

それはポジティビティの欠如である。

米国的なプロジェクトマネジメント手法を導入していることを前提にして考えると、組織レベルでも「やりたい」と思うポジティブ企業と、「やらなくてはならない」と思うネガティブ企業がある。前者の代表はプロジェクトマネジメントに戦略的な意味を感じている企業であり、後者の代表はプロジェクトの失敗に悩んでいて、しょうがなく導入している企業である。プロジェクトマネジメント手法の導入がうまくいっているのは例外なく、前者である。

両者の行動の典型的なパターンは

うまくいくと考え、とにかくやってみるポジティブ企業
うまくいくにはどうすべきかを考え、納得すればやってみるネガティブ企業

というパターンだ。


◆何が、どう違うのか

ポジティブ企業はやれば何か良いことが起こるだろうと信じる。

ネガティブ企業はしばしば、こういう。「米国企業と日本企業は違う。米国でうまくいったから日本でうまくいくとは思えない」。これはまさにそのとおりである。ポジティブであることが求められる風土と、ネガティブが尊重される風土の違いだ。

技術はつきつめて言えば、物理法則の支配する世界である。正しく適用すれば期待通りに機能する。ところが、マネジメントの手法は、逆である。期待通りの結果がでるのが、正しい適用の仕方である。さらに言えば、正しさについても主観的な部分がある。

ネガティブ企業は気がついていないことは、マネジメント手法は、うまくいくと信じているのでうまくいくということだ。


◆リスクマネジメントにみる明暗

リスクマネジメントについて考えて見よう。「リスクマネジメント計画をちゃんと作れば組織はリスクの対処に協力してくれる」と信じることができると、リスクマネジメント計画を真剣に作る。真剣に作るから精緻なリスクマネジメント計画ができ、組織も動きやすく、リスク対応計画がうまく機能し、素早く対応でき、難を逃れる。このようにリスクマネジメントが機能することにより、リスクマネジメント計画が大切だという思いが強化され、より精緻な計画を作ろうとする。そして、好循環が生まれる。

一方で、リスク対応計画を作ってもどうせ、組織の協力はなく、プロジェクトのチェックのために作らされていると思っていれば、計画は雑になる。計画が雑なので、いざ、問題が起こると組織側としては不測の事態に近く、適切な協力はできない。せいぜい、アドバイスをするだけだ。そのような経験をすると、リスク計画を作ること自体に疑問が生じ、作っても余計な口出しをされるだけで、意味がないと思うようになり、手を抜く。そして、悪循環が生じる。


◆ポジティブかネガティブで結果が違う

このようにまったく同じ手法を使ってもこのような差が出ることがあるのがマネジメントである。

マネジメントの手法は、うまく使うことと前提にしている。うまく使うためには、ポジティブであることが必要なのだ。ネガティブに捉え、批評的な態度をとると、まず、うまく行かないのがマネジメント手法というものだ。

これは、リスクマネジメントのようなテクニカルな分野だけに限らず、ステークホルダマネジメントなどでも同じことが言える。

ステークホルダマネジメントを、ステークホルダはプロジェクトの「敵」だという認識で行っているプロジェクトマネジャーは実に多い。

上位組織でも、顧客でもいいが、敵だと思うか、味方だと思うかでだいぶ話が違う。敵だと思えば、良好な関係を作るのに「取り繕う」コミュニケーションが必要である。できたところで、味方ではなく、プラスマイナスゼロである。ところが味方だと思えばそのようなコミュニケーションは必要ないばかりか、その分を味方として動いて貰うためのコミュニケーションにあてることができる。そして、生産性が格段に上がる。

こういう話をすると、必ず、現実を知らないと言われる。確かに、日本に限らず派閥的なものはどこでもあり、コミュニケーションをする前に先入観が入るので、相手が敵視するケースがあるかもしれない。

だからといって、相手を最初から敵だと思う必要はない。味方だと思って、味方だと思い続ければよい。敵だと思うのは、どうしても先入観が変わらないと分かってからでも遅くはない。先入観があろうがなかろうが、最初に敵だと思うのと、味方だと思うのでは、進む方向が180度違うということだけは認識しておく必要がある。


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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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