第221回(2010.07.23)
モチベーション3.0とプロジェクト課題

◆モチベーション3.0

最近、モチベーション3.0という言葉をよく見かけるようになってきた。東洋経済で3月27日に「新しいやる気のかたちモチベーション3.0」という特集が組まれたのが火付けになったように思う。このあと、この言葉をよく目にするようになった


最近では、「フリーエージェント」という著作が日本でも注目されたダニエル・ピンクの「Drive」という本が日本では、大前研一氏の訳で「モチベーション3.0」というタイトルで出版されて注目を浴びている。

東洋経済3月27日「新しいやる気のかたちモチベーション3.0」

(この特集号はアマゾンでは売り切れている)

ダニエル・ピンク(大前 研一訳)「モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか」、講談社(2010)

まず、ダニエル・ピンクのいう、モチベーション3.0とは何かを説明しておこう。
ピンクによると

モチベーション1.0:生存を目的とするモチベーション
モチベーション2.0:信賞必罰に基づく与えられた動機づけによるモチベーション
モチベーション3.0:自分の内面から湧き出る「やる気」に基づくモチベーション

とされる。


◆内発的動機の発見

モチベーション3.0という名称はピンクによるものだが、概念そのものはピンクが発見したわけではなく、内発的動機という概念で、心理学者ハリー・ハーローたちが60年以上前に偶然に見いだしたものだ。ハーローたちが見いだしたのは、3つの手順が必要な仕掛けをサルに与えて使わせようとした。するとサルたちは熱心に仕掛けで遊びだした。えさをやったり、褒めたりしたわけではないのに、熱心に遊び、習熟していく。このサルの行動は当時、考えれていた動機である、生理的な動機、外部からの報酬による動機という2つの動機では説明できなかった。そこで、ハーローは「課題に取り組むこと自体が報酬である」という仮説を提示した。後にハードーはこのような動機を内発的動機と呼んだ。

ハーローがサルの発見をしてから、20年くらい経って、心理学を学んでいたエドワード・デシが興味深い発見をした。2つのグループを作り、ソーマキューブで、完成図を与えて作業を行う実験をした。Aグループは1日目は報酬なし、2日目は報酬あり、3日目は報酬なしというパターン、Bグループは3日とも報酬なしというパターン。1日目はAもBも大きな違いはなかった。2日目はAは大きくパフォーマンスが上がった。ところが3日目はAのパフォーマンスはBより下がったばかりか、自身の1日目のパフォーマンスより下がった。

この結果からデシは、「ある活動に対して外的報酬として金銭が用いられる場合、その活動自体に対する興味を失う」と結論している。また、三番目の動機づけにより、

「新しいことや、やりがいを求める傾向、自分の能力を広げ、発揮し、探求し、学ぶという傾向が本来備わっている」

とも指摘している。これは、特に日本人においてはあたり前という感覚があることで、納得できる人が多いだろう。


◆モチベーション2.0ではイノベーションできない

前置きが長くなったが、これ以上は実際にダニエル・ピンクの本を読んでいただくことにして、なぜ、今、モチベーション3.0なのだろうか?これはプロジェクト(マネジメント)と深い関係があるが、モチベーション2.0では、創造的な活動、つまりイノベーションが実現できないからだ。アメとムチで管理しながら、同時に創造性を期待することは本質的な矛盾がある。

だからといって、完全に自由にさせれば内発的動機が高まるかというとそうでもない。
モチベーション3.0では、「従順な態度」に変わって、「積極的関与」が求められる。まったく自由にさせた場合に積極的関与を引き出すのが難しいという問題がある。


◆課題を与えながら、自由にさせる

この二律背反を解決する方法として、課題を与えながら、新しい方向性を見いだしてくれることを期待するという方法がある。例えば、プロジェクトであれば、多くのプロジェクトは経営や顧客といったステークホルダの要求に応えるべくして、プロジェクト課題や目標の設定を行う。これは、プロジェクトの存在意義でもあり、逃げることはできない。問題は自分がやりたいことが別にあったときに、そのような課題や目標達成をどう捉えるかである。つまり、「目的」として捉えるのか、それとも「機会」として捉えるのかだ。

プロジェクト課題を目的として捉えれば、モチベーション2.0の世界になる。プロジェクト課題を機会として捉えればモチベーション3.0の世界になる。著者自身の経験でいえば、外向きにどう見せるかは別にして、機会として捉えるべきであり、その方が、プロジェクト課題達成そのものをより高いレベルで達成できる。内発的な動機を持って課題を遂行できるからだ。

ところが、管理的な視点からみると、「余計なことをしている」という話になる。つまり、もし時間に余裕があれば課題以外のことをしていても目をつぶる。しかし、まず、課題を優先的にやれという話になる。これはこれで一理ある。


◆改めてプロジェクト課題が目的か、手段かを考えてみよう

20年くらい前までは、実際に時間に余裕があった。したがって、プロジェクトマネジャーや場合によってはメンバーがよかれと思って、与えられた課題以外のことを行い、付加価値を生み出していた。そして、それが課題遂行自体にとってもプラスになるという好循環があった。今は時間の余裕がなくなり、少なくとも課題と付加価値を切り離して考えれば、課題以外のことをやる時間はない。したがって、課題だけをやるプロジェクトに落ち着いてしまう。これは長い目で見ると、どんどん、組織のイノベーション力が落ちていくことと意味する。

モチベーション3.0への注目は、プロジェクト課題を経営活動の中でどう位置づけるかを真剣に考えるよい機会になると思う。ぜひ、考えて見たいものだ。

プロジェクトマネジャーにも、プロジェクトメンバーにも

「新しいことや、やりがいを求める傾向、自分の能力を広げ、発揮し、探求し、学ぶという傾向が本来備わっている」

のである。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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