第219回(2010.07.14)
意思決定としてのリスクマネジメント

◆AさんとBさんの予備時間のマネジメント

リスクマネジメントはプロジェクトマネジメントの中でもっとも進んでいる分野であるが、理解されているようで意外と理解されていないことがある。それは、リスクマネジメントは「意思決定」であるということだ。今回は、このテーマについて考えて見たい。

まず、一つ考えて見て欲しいことがある。

T1〜T10までのタスクがある。番号の小さい方から順番に行うタスクである。作業時間の見積もりは500時間だとする。

Aさんは、500時間に対して、10%となる50時間の予備時間をとり、全部で50時間の見積もりをした。これに対して、Bさんはそれぞれのタスクの内容を考え、T1〜T10までの仕事に別々に予備時間を割り付け、トータルで50時間の予備時間をとった。トータルの予備時間は双方とも50時間であるが、どう異なるのだろう。

まず、Aさんのやり方だと、問題が起こるごとに予備時間を費やしていく。最終的に予備時間が足らなくなったところで、やり方を変えたり、成果目標を変えたりする。仮にT1より、T10の方が成果として重要であれば、満足な成果は得られない。

逆にBさんのやり方だと、個別のタスクで予備時間がオーバーしたら、全体をどうするかを考えることになる。たとえば、T1が80時間で、予備時間を10時間とっていたとしよう。すると、T1に90時間を費やしたところで、T1をどうするかと同時に、T2〜T10をどうするかを考えることになる。当然、どのタスクが重要かを考え、T1よりT10が重要であれば、T1に費やす時間を極力小さくなるように成果目標を変える。逆にT1が他のタスクより重要なタスクであれば、T1にもう少し時間を費やし、予定した成果を得るまで続けることもある。


◆意思決定とはコミットメント

この2つの例で、Bさんは意思決定していると言えるが、Aさんは意思決定しているとは言えない。ここで気をつけて欲しいのは、Aさんの派生のやり方で、T1〜T10にとりあえず、予備時間を割り付けるが、実際に予備時間を使い切っても、自動的に他の時間を回すというやり方がある。これは上の述べた、T1に時間を費やすというやり方とは似て非なるものである。

意思決定に他ならない。ここで意思決定というのは

やりなおしのきかない資源(ひと、もの、金、時間)の配分を実行することへのコミットメントである

と定義できる。

まず、キーワードはやり直しがきかないということ。上の例で分かるように、T1に使った予備費は、なかったことにしてもう一度、やり直すということはできないのだ。T1よりT10のタスクの成果の方が重要であった場合、T1にどれだけの予備時間を費やすかを決める意思決定は、全体の成果に極めて大きな影響を与える。

たとえば、トータルで予備時間をとっておき、予備時間の使用状況をみながら、各タスクにどれだけの時間をかけるような方法もある。一見、成り行きのように見えるが、そうではなく、資源配分を別の方法で実現しているだけで、やはり意思決定である。

もうお分かりだと思うが、リスクマネジメントは簡単な算数の問題ではなく、意思決定である。


◆意思決定プロセス

意思決定は一般的に

1.意思決定の枠組みを決める
2.状況をモデリングする
3.定量的分析
4.モニタリング

という手順で行う。


◆意思決定プロセスとしてのリスクマネジメントプロセス

PMBOK(R)のリスクマネジメントは

1.意思決定の枠組みを決める
・リスクマネジメント計画を作る
・リスク識別をする
2.状況をモデリングする
・定性的リスク分析
3.定量的分析
・定量的リスク分析
・リスク対応計画
4.モニタリング
・リスクモニタリング&コントロール

という意思決定プロセスをとっていることが分かる。

冒頭のAさんのような間違いを犯さないためには、意思決定プロセスをきちんと実現していく必要がある。初期計画でリスク回避をできた場合にはプロジェクトは成功するが、リスクを回避しきれないと失敗するというリスクに弱い体質は、この点をきちんと理解できていないことに起因していると言ってもよいだろう。


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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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