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第22回(2002.10.21) 
プロジェクトで発生した問題は、プロジェクトの中で解決するか?
 

 いきなりであるが、あるプロジェクトの進捗が遅れているとしよう。それに対する対処はいくつかに分けることができる。

◆スコープに影響を及ぼさない計画変更
 一つ目はスコープに影響を及ぼさない範囲でなんとかする。つまり、計画変更はするが、コスト、納期、仕様(品質)は守る。これはプロジェクト内での対処になる。例えば、PERTによってスケジュールを変更する、プロジェクト内での作業分担を変更する(要員計画変更)といった類のものである。できれば、これで済ませたい。

◆スコープの変更
 これですまない場合はスコープの変更をすることになる。納期を延ばす、仕様を変える、要員の追加投入をし、コストを変えるなどである。プロジェクトスコープはオーナーとコンストラクターの契約ごとであるので、本来はいかなるスコープ変更もオーナーとの了解のもとに行われる。実際にはもう一つの原理として企業の主権というのがある。したがって、コストの問題などはコンストラクター側の責任で収めてしまうことがある。また、建設でも、ITでも手抜き工事というのが存在しているところをみると、仕様についてもコンストラクター側の判断で収めてしまうケースもあるようだ。

※ ここでいうプロジェクトは必ずしも開発委託のような外部に発注するものであるとは限らない。例えば、製品開発のような企業内でクローズしている場合も同様である。その場合、オーナーは例えば事業部であり、コンストラクターが担当している部署、プロジェクトはその部署を中心にして作られると考えて欲しい。

◆スコープの変更がコンストラクタ企業にもたらすもの
 以上はプロジェクトの受発注関係を見たときの話であるが、次にコンストラクターの企業内部に目を向けてみよう。スコープの変更が必要ない場合には、問題はない。問題はスコープの変更が必要な場合である。この場合、どのような状況が起こるのだろうか?

 例えば、計画見積もりの際にオーナー側の情報提供の不十分さが原因で納期が遅れていて、オーナーは予算の増額を認めたうえで、スケジュールをキープすることを依頼したとしよう。この場合、要員を確保して、そのプロジェクトに追加投入することができる。追加要員がその企業の外部(外注)の場合はそれで一件落着であるが、もし、特殊な技術を要する作業で企業の内部の要員を調達しないとならないとすれば、別の問題が出てくる場合がある。その技術を持った要員がフリーであればいいか、別のプロジェクトに参加している場合には、どちらのプロジェクトを優先するかという問題が発生する。こちらを立てれば、あちらが立たずという話になる。

◆もう一つのケース
 もう一つのケースを考えてみよう。プロジェクトの終盤にきて、オーナーが仕様追加を申し入れてきたとしよう。予算の増額、納期の延長は認めるという条件だとする。技術的も新たなリスクはなく、現行の要員で対応可能だとする。ところが、この仕様追加に対応するためには、現行のメンバーのプロジェクト参加期間を延長する必要がある。メンバーのこの後の予定が決まっていなければよいが、決まっていれば、はやりどちらを選ぶかという問題に直面することになる。

◆企業内ステークホルダの重要性
 このように考えると、実はプロジェクト実施中に発生する問題には、そのプロジェクトの中だけでは片付かず、経営レベルのマネジメントを必要とする問題がずいぶん多いことが分かる。ステークフォルダの分析をする際に、そのプロジェクトの所属する企業内部のステークホルダもしっかりと洗い出しておかなければならない理由はここにある。

◆プロジェクトの性格が変わってきた
 これはプロジェクトの考え方そのものが変わってきていることに起因する問題である。かつてはプロジェクトといえば、教科書的には、テネシー川の開発だとか、マンハッタン計画といった大規模な公共工事ものが対象になっていた。コンストラクターも企業の総力を挙げて取り組むといった性格のものである。ところが、現代に目を向けると、多くのプロジェクトは民間ベースで行われており、ビルやプラントの建設にしろ、情報システムの建設にしろ、その企業が(実態的に)全社を挙げて取り組むようなものはまれである。すると、一つの企業でみれば必ず同時期に複数のプロジェクトを行っており、必然的に上のような問題に遭遇することになる。
 ただし、顕在化しているかどうかは別の問題である。プロジェクトの規模が大きくなれば大きくなるほど、一人の人員の相対的重要性は低くなるので、顕在化しにくくなる(しかし、よく考えてみれば、顕在化していなくても、これは経営レベルでみれば機会損失になっている可能性が大きく、問題がないというわけではない)。

◆優秀なPMが会社に損失をもたらす?!
 最近では、企業の顧客指向経営に伴い、プロジェクトは小型化、かつ、高度化する傾向にある。すると、特定のリソース(例えば、特殊技術を持つ技術者)の資源計画がうまくいかなくて、その取り合いで複数のプロジェクトがトラブルというケースも増えている。

 いずれにしても、プロジェクトマネージャーは問題をプロジェクトの中で解決できるとは考えることができなくなり、プロジェクトマネージャーの折衝力とか、交渉力、コミュニケーション能力というのが以前にも増して重要だと考えられるようになってきた。例えば、そのようなケースに遭遇したら、他のプロジェクトのPMやメンバーのラインマネージャーをくどき落として、自分のプロジェクトを優先する。しかし、素晴らしい交渉能力を持つプロジェクトマネージャーが、プロジェクトマネジメントの範疇で自分のプロジェクトの問題を解決できたとしてもそれが、企業に損失を与えていることになっているかもしれないということはきちんと認識しておくべきである。

◆マルチプロジェクトマネジメントの重要性
 上で説明したようにプロジェクトマネジメントの中で片付く問題ではなく、経営レベルの問題であり、この問題を片付けるには、複数のプロジェクトのマネジメントを同時に行うマルチプロジェクトマネジメントの導入が急がれる。
 次回はマルチプロジェクトマネジメント(複数プロジェクトのマネジメント)について考える。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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