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第21回(2002.10.07)
モノ作りとプロジェクトマネジメント(1) |
今回はモノ作りとプロジェクトマネジメントの関係について考えてみる。第19回にプロジェクトマネジメントの投資対効果という話をしたが、その延長線上にある話だと考えて欲しい。
◆ソフトウエア開発方法論
最近、ソフトウエア業界では「開発方法論」がブームになっている。今までは、方法論というとウォーターフォールモデルしかなかったが、オブジェクト指向システム開発の普及とともに、RUP(Rational Unified Process)やXP(eXtreme Programming)といったそれ以外の方法論が見られるようになった。それとともに、ソフトウエアエンジニアリングのあり方そのものが議論されるようになってきている。
ソフトウエア業界以外の方には、開発方法論といってもわかりにくいと思うが、簡単に言えば、どういう手順でソフトウエアを作るのかという議論である。例えば、ウォーターフォールモデルだと、最初にシステム要件を決めて、次にシステムを設計し、設計が終わったら、製造(ソフトウエアを作る)をし、製造が終わったらテストをするという一連の手順のことである。
これは何もソフトウエアに限った議論ではない。方法論というと標準的な手順を指すが、モノ作りをする企業であれば、モノを作る手順というのは決まっていることが多い。ISO9000である。読者の方で、ソフトウエア開発と縁のない方は、ソフトウエアの部分をモノ作りや、コンサルティング、サービスなどに置き換えてみて欲しい。その方法論というのは必ずあるだろう。
◆方法論とマネジメント
さて、問題は方法論とマネジメントの関係である。方法論をもっと一般的な言葉で説明しようとすると「段取り」である。段取りというのは実際の作業手順よりは一段抽象的な一種のマネジメントである。
ここで注意しないといけないのは、段取りが決まっているからといって、モノ作りの作業の不確実性が必ずしも排除されているわけではない点である。作業の不確実性はどのように設計するか、どのように製造するかという作業手順のレベルで生じることがほとんどである。不確実性が残る限り、この不確実性を扱うためのマネジメントは不可欠である。
◆PMBOK(R)では
PMBOK(R)ではこの問題を非常に解りやすく整理している。PMBOK(R)の考え方は明解で、マネジメントのプロセスとプロダクトのプロセスに分けている。プロジェクトマネジメントはもちろんマネジメントのプロセスであるが、設計をして、製造をしてという手順は段取りはプロダクトプロセスに含まれる。このようなプロセスを形成し、実施するのもマネジメントである。しかし、これはプロダクトマネジメントである。このほかにも段取り以外にもプロダクトマネジメントの問題として扱われるのは、品質、工数である。また、コストについては派生的なものだと考えるのが一般的である。つまり、これらのマネジメント対象はモノ作りの方法によってコントロール可能なものなのだ。
◆モノ作りの方法でコントロールできないもの
ところが、モノ作りをするときにコントロールしたいものには、モノ作りの方法を工夫するだけではコントロールできないものがある。その代表はリスクである。例えば、要員がダウンして納期が遅れるというリスクを考えてみて欲しい。このリスクはモノ作りの方法を工夫するだけではどうしようもない。要員がダウンしないように個人の負荷を配慮する、クリティカルパスを利用して余裕を作るなど、モノ作りの方法とは別の次元で対策をしておく必要がある。
また、より本質的な問題は、モノ作りの方法というのは、そもそも「ものごとが予定通り進んでいく」ことを前提にして考えられている。これは失敗しないと考えているからか、あるいは「そのことに無関心」なのかはよくわからない。いずれにしても、現実には予定通り進まないことも多い。モノ作りの方法だけでは、当初の計画通りに進まなければコントロールできなくなり、成り行き任せにならざるを得ないのである。プロジェクトが「火を噴く」という表現があるが、この表現が本質を表している。まさに出来る限りのことをしながら見守るしかない。
◆方法論とプロジェクトマネジメントの統合が重要
このように考えると、モノ作りの工夫だけでは不十分であることは歴然としているように思える。確かに方法論はマネジメントの側面を持っているのだが、それを包むように統合的なマネジメントを行わないと目的を達成することはできないだろう。品質や工程だけではなく、スコープ、組織、コミュニケーション、リスク、調達など、あらゆる確度から考えていく必要がある。プロジェクトマネジメントはその統合的なマネジメントを実現するための手段である。
◆計画の重要性
重要なことは、これは方法論が本来マネジメントの対象としている品質や工程についても例外ではないことだ。品質を実現しようと思えば、品質が技術とコストによってのみ達成されるという誤解である。例えば、いくら優秀なエンジニアがいても、彼に自分の能力を発揮させるモチベーションがなければ決して品質は向上できないだろう。もっと言えば、達成すべき品質の設定に間違いがあれば、いくらよいエンジニアがいても品質は達成できないことになる。つまり、計画が重要なのである。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士 株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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