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第23回(2002.10.28) 
複数のプロジェクトを同時にマネジメントする
 

◆単一プロジェクトと複数プロジェクト
 一つのプロジェクトの中には複数のサブプロジェクトから構成されているものもある。複数のファミリープロジェクトをマネジメントすることと、サブプロジェクトからなるプロジェクトをマネジメントすることは何が同じで、何が違うのだろうか?
 直感的に考えて同じことは直ぐに分かる。プロジェクトマネジメントの対象である資源、スケジュール、品質のマネジメントについては基本はどちらも同じだ。すべてのプロジェクトの目的が達成できるようにマネジメントしなくてはならない。しかし、前回述べたように、プロジェクトの中で発生した問題がプロジェクトの中で片付かなくなる。また、実施時の問題だけではなく、計画そのものも一つのプロジェクトだけを考えてはできなくなる。他のプロジェクトのことを考えて、計画しなくてはならなくなる。

◆理論は同一。ヒューリスティックが違う。
 スケジュール、資源、品質の範囲で考える限り、プロジェクトマネジメント手法の多くは数理的な手法であり、その意味ではプロジェクトが単位であろうが、アクティビティが単位であろうが、扱い方は変わりはない。複数のプロジェクトを同時にマネジメントするというのは、最適化問題として考えると、制約条件が増えるだけである。しかし、制約条件が増えたがゆえに、今まではある程度理論的に解決できていた計画問題が、ヒューリスティック(経験則)に頼らないと解決できなくなる。平たく言えば、人間の判断に依存する部分が増えてくる。これがマルチプロジェクトマネジメントの難しさである。

◆複数のプロジェクトをマネジメントするポイント
 これを解消するために問題になるポイントがいくつかある。
 ・プロジェクト遂行組織をどうするか、どう運用するか?
 ・スケジュール、資源などの調整メカニズムをどうするか
 ・プロジェクトの選別をどうするか
などである。複数のプロジェクトをうまくマネジメントすることの本質は3番目の事項であるが、この問題を考えようとすると少し前提が変わって来る。つまり、複数のプロジェクトをマネジメントすることも考慮した上で、経営として戦略的にどのようなプロジェクトを行う、どのようなプロジェクトは行わないかという議論になる。ここでは、あくまでも、複数のプロジェクトを同時に行う。そのとき、どうマネジメントするかという問題に限定しておく。つまり、上の二項目について考える。

◆プロジェクト組織のあり方
 まず、プロジェクト組織であるが、プロジェクトの範囲を超えた要員の調整ができることが要件になる。実現形態はいろいろあるが、この要件を満たすためには、プロジェクトにまたがり、資源やスケジュールの調整をする機能が必要になってくる。これは、プロジェクトマネジメントオフィスや、プロジェクトコーディネータを設置することで実現される。

◆調整メカニズム
 二点目はスケジュール、資源の調整メカニズムをどうするかである。
 ここで考えなくてはならないことは、戦略的なプロジェクトの選定のプライオリティとプロジェクトの実施のプライオリティは違うというである。
 こういうケースを考えてみよう。A,B,Cの3つの技術的難易度と規模のほぼ等しいプロジェクト案件があったときに、Aからは一千万、Bから二千万、Cからは三千万の利益が見込めるとしよう。しかし、当社には3つのうちの2つを実施するだけの資源しかない。すると、顧客との特殊な関係など、事情がない限り、CとBを選ぶことになる。これは、プロジェクト戦略の話である。これは、経営戦略に基づく意思決定である。

◆プロジェクトのプライオリティ
 実施の際にも、計画段階で、当然、CをBより重視した計画を作る。これも当たり前であろう。では、実施してみると、Cの進捗が思わしくない。Bはなんとか計画通りに進んでいる。このときに、Bの資源をCに回すかどうかは、見込み利益とは別の問題である。
 すると、何らかの指標で実施されているプロジェクトのプライオリティを決める必要がある。スケジュールや資源の調整は、そのプライオリティにしたがって行う必要がある。 指標は基本的にはプロダクトに対する顧客の満足度と、プロジェクトの成果物の緊急度に基づくべきである。顧客の満足度に注目するとプライオリティの評価尺度としては、例えば、以下のようなものが考えられる。
 A 複数の顧客の戦略、事業計画全体に影響するプロジェクト
 B ある特定の顧客の戦略、または事業計画全体に影響を与えるプロジェクト
 C 特定の顧客の取引に影響を与えるプロジェクト
 D 顧客にとって計画通りに進むことが望ましいプロジェクト
 E 顧客のビジネスにあまり影響のない成果物
理屈の上では、顧客の利益はプロジェクトの利益は一致するはずであるし、緊急度の高い成果物に対しては費用も高くなる。ところが、商売ベースのプロジェクトでは、まず、そうは行かないので、そこで発生する矛盾をマネジメントで解決していかなくてはならないことになる。

◆プログラムと独立プロジェクト群
 さらに、調整に当たってはもう一つ気をつけなくてはならないことがある。今まで単に複数のプロジェクトといってきたが、複数のプロジェクトといっても少なくとも2つの種類がある。それは、プログラムと呼ばれる関係の強いプロジェクトの集まりと、全く無関係なプロジェクトの集まりである。プログラムについては「@エンタープライズプロジェクトマネジメント@事始」でも説明したように、その関係性というのは技術的要素かもしれないし、顧客かもしれないし、製品ラインナップかもしれないが、いずれにしても、相互にコミットしあうプロジェクトの集まりである。単位プロジェクトをどう見るかというのもあいまいではあるが、例えば、ソリューションビジネスを開発するという事業を考えてみると、ソリューションの開発、ソリューション展開に必要なツールの開発、展開に必要なチャネルの開発があり、これを一つのプログラムと考えることができる。この3つは相互に影響しあってくる。

◆マネジメントの違い
 当然のことながら、プログラムと、独立した複数のプロジェクトではコントロールの範囲が異なる。プログラムはある程度、プログラムの中での調整が可能になる。
 問題は、独立した複数のプロジェクトをマネジメントしなくてはならない場合である。例えば、SIerなどではほとんどこういうケースになる。異なる顧客の、異なる技術分野の、異なるアプリケーションのプロジェクトを複数マネジメントしなくてはならない。ここでは、妥協に基づくプロジェクト間の調整は難しく、プラオリティをルールとして調整をしていくことになる。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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