第218回(2010.07.10)
PM2.0宣言

◆プロジェクト2.0

プロジェクトマネジメントの世界的な標準であるPMBOK(R)の第1版が出て、15年になる。ここにきて大きな変容が見られる。個別のプロジェクトの管理から、経営上関連する複数のプロジェクトの一括管理へと視野が広がってきたことだ。これは、PMOだけではなく、欧州を中心に利用されている標準であるICBやPRINCE2にも見られる傾向である。さらに、日本で2001年に独自のプロジェクトマネジメント標準として誕生したP2Mにおいては当初から複数プロジェクトの管理を前提にしたものになっている。P2Mは先進的だということで、国際的な評価が高いのはこのためである。

このような変容が意味することは、プロジェクトそのものが現場のオペレーションから、経営のオペレーションに重心が移っていることである。PMstyleでは、経営(あるいは戦略)オペレーションとしてのプロジェクトを第2世代の位置づけのプロジェクトという意味でプロジェクト2.0と呼んでいる。


◆PM2.0

これに伴い、プロジェクトマネジメントも、現場のオペレーションの管理としてのプロジェクトマネジメントから、経営のオペレーションのマネジメントとしてのプロジェクトマネジメント変わったということである。つまり、プロジェクト2.0のマネジメントをPM2.0(プロジェクトマネジメント2.0)と呼んでいる。少し、違う視点でいえば、PM2.0は品質管理や生産管理の延長線上のプロジェクトマネジメントではなく、経営管理の一部としてのプロジェクトマネジメントであるといえる。

PM2.0の一つの形は、戦略ゴールがあり、その戦略ゴールの実現に貢献するために実行するプロジェクトを創り、そのマネジメントを行うことである。また、戦略ゴールを実現するためのプロジェクトはプログラムとして実行されることも多く、その場合にはPM2.0はプログラムマネジメントを意味することもある。


◆2つのPM2.0

ここで、整理をしておく必要があるのが、PM2.0には、戦略ゴールを直接達成するためのマネジメントと、ポートフォリオやBSCなど戦略ゴールの実現の方法をプラニングした上でそのプランの実行をプログラムやプロジェクトとして行う間接的なタイプのものがあることだ。

例えば、PMI(R)では、プログラムマネジメントは戦略ゴールを反映したポートフォリオが組まれ、ポートフォリオの要素としてプログラムやプロジェクトが位置づけられる。つまり、プログラムやプロジェクトの目的・目標は決まっており、その目的・目標を正しく達成するための方法としてプログラム・プロジェクトが位置づけられている。

これに対して、ICBやP2Mでは、戦略ゴールの実現のための直接的な手段としてプログラムを実施する。つまり、何をすれば戦略ゴールを実現できるかを考えることもプログラムマネジメントの中に含まれている。その意味で、正しい仕事をするためのマネジメントである。

両者は大きく異なるが、経営のオペレーションであるという点においては変わりなく、両方ともPM2.0であると考えることができる。


◆マルチプロジェクトマネジメント

ここでもうひとつ整理しておきたいのは、マルチプロジェクトマネジメント(MPM)という考え方である。MPMは、一見、経営的な制約があって苦肉の策として行っているようなイメージがあるが、実はそうとも言い切れない。

経営戦略の考え方の中にリソースベースドビューといわれる考え方がある。企業が持っている経営資源をうまく活用することで競争優位を確立しようとする考え方である。
MPMはポジティブに解釈すれば、リソースベースドビューに基づく戦略実行であるとみなすことができる。

もちろん、本当に制約に対処するためにネガティブにMPMを行わざるを得ないケースもあると思うが、その場合もその延長線上にノウハウや知識に基づく競争優位性の構築が行われる可能性があり、この意味で、経営資源の最適化を目指すMPMはすべて、PM2.0であると考えられる。


◆PM2.0宣言

多くの企業では、プロジェクトを失敗させないためのプロジェクトマネジメントPM1.0はほぼ、定着しつつある。次は、PM1.0の上にPM2.0を構築し、いよいよ、プロジェクトマネジメントを利益に変えて行くフェーズに入る。

PM2.0をうまく構築できた企業のみが成長する企業になるだろう。その意味で、PM2.0は企業の成長戦略の大きな要素である。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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