第209回(2010.04.20)
オーナーシップは「ジブンゴト」

PM養成マガジンへ復活しましたので、戦略ノートも本格的にリスタートさせたいと思います。戦略ノートはこのメルマガを始めたきっかけになった連載です。過去に208話をお届けしています。特に明確なテーマもなく、コラム的に思ったことを書いている記事です。

実はブログでそのようなスタイルで記事を書いていますので、ブログとの調整が必要なのですが、それについては走りながらということにしたいと思います。

リスタート第一弾は、オーナーシップの話です。209話目になります。


◆プロジェクトにおけるオーナーシップ

今ではよく知られるようになってきたが、プロジェクトマネジメントの中でオーナーシップの概念が比較的定着しているのはリスクマネジメントである。ところで、オーナーシップというのはどんな概念なのだろうか?今回の話題はこれだ。

実は、プロジェクトマネジメントの中でもうひとつ、よくオーナーシップという言葉が使われるものがある。プロジェクトオーナーシップである。こちらはなんとなくイメージが分かると思う。オーナーシップのもともとの意味である所有者に近い。たとえば、ビルのオーナーというニュアンスに近い。ビルのオーナーは、所有者として、そのビルが社会的に有効に活用され、なおかつ、収益を上げることを望む。プロジェクトのオーナーもそのプロジェクトが意義のあるものであり、かつ、会社に収益をもたらすことを期待する。

さっと読み流すと同じであるが、実はこの両者に違いがあることに気づいた人もいらっしゃると思う。ビルのオーナーは自分が儲けようとしている。ところが、プロジェクトのオーナーはいくら頑張っても直接的に自分が儲かるものでもない。


◆オーナーシップのキーワードは「当事者」

この2つに共通するのが、「当事者」であることだ。ビルでも、プロジェクトでもオーナーは当事者である。ビルであればビルを経営する当事者、プロジェクトであればプロジェクトを運営する当事者だ。

リスクオーナーという場合も、「リスク対応の当事者」をリスクオーナーと呼ぶ。リスクに限らず、

プロジェクトのすべてのアクティビティや要素成果物はオーナーにアサインされる

というのが基本的な考え方である。


◆オーナーシップの要件と本質

では、当事者は何をすればよいか?当事者(オーナーシップ)には3つの要素がある。

・レスポンシビリティ(実行責任)
・アカウンタビリティ(説明・成果責任)
・権限

である。まず、当事者は、行動や作業実施へのコミットメントしなくてはならない。つまり、レスポンシビリティを果たさなくてはならない。二つ目に、当事者は求められる成果を上げ、成果について正確でタイムリーな報告を行わなくてはならない。そして、三つ目はそれらの責任を果たすために適切な権限を持たなくてはならない。ここでいう権限とは、「命令」、「規則を強いる」、「強制」、「服従の強要」、「決定」、「判断」などの行動の権利とパワーを意味している。

オーナーシップとは、この3つの要素を統合することである。ここで上のビルの例を思い出して欲しいのだが、ビルのオーナーシップはこの3つの要素がすべて自分の中で自然に完結する。プロジェクトオーナーもそうなくてはならないのだが、現実には組織の中のプロジェクトなのでそんなにすっきりはしない。調整したり、決めたりすることが必要になる。個別には、RAMの作成ルール、報告ルール、権限委譲ルールなどを個別には定めている組織は増えているが、統合されている企業はほとんど見かけない。統合されていないので、問題がおこればすぐにエスカレーションという非合理的なことをやっているケースが多い。これがこの後述べる、当事者意識のなさを生んでいる。


◆当事者意識が欠如している限り、成果は得られない

プロジェクトマネジメントの普及とともに、プロジェクトを形式化(プロセス化)して扱うようになってきた。このこと自体はよいことだと思う。しかし、同時に、オーナーシップの欠如、つまり、当事者意識の欠如が目立つようになってきた。

プロジェクトスポンサーやプロジェクトオーナーの当事者意識のなさはいうに及ばず、プロジェクトマネジャーにも当事者意識がなくなってきた。「ヒトゴト」として計画を作り、「ヒトゴト」としてステークホルダやメンバーを集め、「ヒトゴト」として管理する。プロジェクトマネジャーがヒトゴトなので、集まってくるメンバーも「ヒトゴト」である。プロジェクト作業に対するオーナーシップもないので、品質は下がる。リスクに対するオーナーシップがないので、問題が発生すると「オーマイゴッド」である。

プロジェクトに誰も当事者がおらず、社内のプロジェクト運営ルールやプロジェクトマネジメントプロセスに則り、粛々とプロジェクトだけが進んでいる。工場で車を作るのを変わりがない。

このような状況が必ずしも悪いとは言えないが、何かあれば、もろいことは間違いない。プロジェクトに真のオーナーシップを定着させない限り、プロジェクトが経営的効果を発揮する日はこないだろう。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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