第210回(2010.04.27)
プロジェクトマネジャーたるもの、すべからく、戦略実行者たるべし

◆プロジェクトにかかわる2つの戦略

この連載は「戦略ノート」という連載である。今回は趣向を変えて、なぜ、戦略ノートというタイトルにしたのかを述べる。

プロジェクトには2つの戦略がある。

(1)プロジェクトを実行する戦略
(2)プロジェクトによって実行する戦略

の2つである。

一般的には、(1)はプロジェクトマネジメントの中で決められる。つまり、プロジェクトに対して、課題が与えられたときに、その課題を解決するためのアプローチ(戦略)を考え、その戦略を計画に落とす。また、このような計画は戦略的計画と呼ばれる、いわば、プロジェクト課題に対して実効性のある計画である。

(2)はもっと根源的な話で、プロジェクトは経営戦略や事業戦略など、上位の戦略を実行するための活動であるという意味での戦略だ。言い換えると、プロジェクトで実現すべき戦略である。問題はこの戦略のマネジメントである。


◆戦略とは「目標と目標に到達する道のり」

プロジェクトマネジメントにおいては常にこの2つの戦略を意識しておく必要がある。

ここで、考えてみたいことがある。それは、戦略とは何かという問題だ。一般的に、
戦略とは

目標と目標に到達する道のり

を言う。経営戦略であれば、経営のゴールと、それを達成するための道のり(方法、アプローチ)である。経営のゴールはいろいろある。たとえば、売上、シェア、利益率などである。戦略は、

What:達成すべき目標は何か(あるべき姿)

に対して、道のりとして

How:目標達成するための道筋はどうようなものか(アプローチ)
Why:なぜ、その目標を目指すのか(目的)
Who:誰が目標を達成するのか(資源配分)

を決めたものである。

ちょっとややこしくなるので、しばらく、目標と目標に到達する道のり

だと考えて話を進めていく。


◆プロジェクトの目標はどう決まるか?

ある会社が経営戦略で、目標として100億の売り上げを上げることにしたとしよう。
この会社にはソフトとハードの事業部がある。そこで、各事業部で、50億の売上という事業部の目標ができる。そして、事業部には50億を達成するための戦略が必要になる。

そこで、事業の戦略を作る。たとえば、既存の商品の売上見込みだけで40億しかなければ、10億の売上を作る(What)ために新しい商品を3つ開発する(How)ことにする。もちろん、この3つに絞ったにはわけ(Why)があり、リソースのやりくり(Who)についても折込済みの話である。このような方策が事業戦略になる。事業戦略は、経営戦略からのHowを受けていることに注意しておいてほしい。

さて、そこで、今度は、各商品で目標の売上を達成するにはどうしたらよいかを考える必要がある。実はここにも戦略が必要になる。この戦略は

What:4億の売上を上げる商品を開発する
How:○○というコンセプトで
Why:20億の市場がある
Who:Aマネジャーを中心に、あとは調整しながら

といったものになる。このような戦略は事業戦略の「実行戦略」と呼ばれることが多い。


◆プロジェクトが実行すべき戦略はプロジェクト憲章で決める

懸命なみなさんはお気づきだと思うが、この戦略はプロジェクトのアプローチになっている。つまり、プロジェクトのWhat, How, Why, Whoは規定されている。もう少し、具体的にいえば、この戦略に基づいてプロジェクト憲章が作られ、実行戦略が実行計画(プロジェクト計画)に落とされる。

このように冒頭に述べたプロジェクトに関連する2つの戦略は、きちんとした関係がある。しかし、もう一度、上の説明を見直してほしいのだが、仮に、ソフトの事業部では50億を目標とするのではなく、勝手に45億にしてしまったとしよう。すると、5億足らなくなる。このようなことが起こらないように、経営戦略から現場で行われるプロジェクトの目標まですべて辻褄があうようにするのが、プロジェクトガバナンスである。


◆2つの戦略を扱うのはプロジェクトマネジメント

もう一度、最初の話に戻るが、実は(1)で与えられる課題は、(2)の戦略によって生み出されるという関係がある。そして、(1)だけがプロジェクトマネジメントではなく、(1)を生み出す(2)もプロジェクトマネジメントである。

このように、プロジェクトマネジメントは戦略ときっても切れない関係があるが、戦略ノートは、プロジェクトに関連しているすべての戦略についていろいろと意見を述べたいと思ってつけた名前である。

初期においては、(1)のプロジェクトのアプローチ、つまり、実行戦略について述べてきたが、徐々に、(2)の戦略にも言及するようになってきた。

今後はこの2つの戦略と統合するというスタンスで意見を書いていきたい。


◆プロジェクトリーダーから、戦略実行リーダーへ

ここで、宣言である。

プロジェクトマネジャーたるもの、すべからく、戦略実行者たるべし

実はプロジェクトマネジャーという言葉は本来的にこの2つの戦略をマネジメントする役割であるが、どうも、(1)だけをする人のようなイメージができてしまった。
そこで、(1)だけでなく、(2)の立場からもマネジメントをする役割を「戦略実行リーダー」と呼ぶことにする。これは、新しいプロジェクトマネジャー、次世代のプロジェクトマネジャーだと考えていただきたい。また、プロジェクトマネジメントという言葉もオペレーションマネジメントの垢がついているので、場合によっては、「戦略実行マネジメント」と呼ぶことにした。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「コンセプチュアル・マネジメント(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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